昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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財政

租税

徴税状況

 昭和29年度の租税及び印紙収入は、上半期には全般的に前年度を上回る好調を示したが、緊縮政策の浸透に伴って下半期に入ると前年度を下回るに至ったので、年度間を通じては減収になるのではないかと懸念されていた。しかし、29年度出納整理期間分を含めた5月末合計額では8,084億円(特別会計収納の入場税を含む)に達し、対予算進捗率では102.3%と前年度を若干下回ったものの、全体としては比較的好調であった。

 その内容を税目別にみると 第63表 の通りであるが、緊縮政策の浸透過程における跛行性をかなり顕著に看取することができる。すなわち、直接税関係では、源泉所得税は5月末で予算額を1.8%上回っているが、これはデフレによる失業者の増加にもかかわらず、賃金全体としては前年度より高い水準で推移したためである。しかし、申告所得税は緊縮政策を最も強く受けた中小企業の不振から、対予算進捗率は91.8%で前年度を大きく下回っている。また毎年度200億円前後の自然増収を出してきた法人税も、前年度のように予算額を突破していない。これは法人収益が下半期に悪化したことのほか、昨年末の補正予算で150億円の見積もり増をしたことにもよると思われる。

第63表 29年度租税及び印紙収入徴収状況

 こうした直接税関係の相対的な不振に対して酒税、砂糖消費税、揮発油税は消費需要の増大から予算額を7%ないし26%上回り、前年度以上の好調振りを示している。もっとも砂糖消費税と揮発油税には、租税延納期間の短縮からそれぞれ1ヵ月分及び半ヵ月分余計に入ってきたという特殊事情も加わっている。物品税は前年度には比較的好調であったが、29年度においては奢侈的輸入品の減少から輸入物品に対する課税額は、関税とともにかなり減少をみせている。

租税負担

 戦後の国民所得に対する租税負担率をみると、24年度の28.5%を最高としてその後数次にわたる減税から漸減し、29年度においては戦後最低の20.5%(国税のみでは14.8%)となっている。しかし戦前(昭和9~11年度)の12.9%(国税のみでは8.5%)に比べると相当に高率である。また国民一人当たりの国税負担額をみても、戦前の18円に対して29年度予算においては10,365円で、物価換算すると2倍近くになっている。

所得税

 近時間接税のウエイトが増大するにつれて税収中(専売益金を含む)に占める所得税の比率も漸減し、29年度には31.4%となっているが、戦前の11%に比べるとかなりの高水準である。

 こうした所得税の増徴は、納税人員の増加と同時に負担率の上昇をもたらした。 第64表 にみるように負担率は戦前の4.5%に対して29年には10.2%を示し、納税人員も95万人から1000万人に増加している。

第64表 所得税の納税人員、総所得金額及び税額の累年比較

 これは租税体系の変化のみならず、これに加えて戦後インフレによる貨幣資産の減価、戦災による財産の喪失、財産税の徴収、農地改革等により戦前のごとき高額所得者がほとんど消滅したことから所得分布が平準化したことによる。

 ちなみに戦前戦後における所得階層別の納税人員及び所得税額の分布をみると第65表の通りで、昭和10年には年収15,000円を超える人員は全体の2%、所得税額は57%を占めていたのに対して、28年では10年と免税点その他税制上かなりの差異がみられるけれども、申告納税者についてみるとこの階層にほぼ相当する年収500万円超の人員は千分の一以下、所得税額はわずかに6%に過ぎない。【@第65表 戦前戦後における所得階層別にみた納税人員、所得額及び所得税額の分布】その結果28年においては戦前の1,200円以下にほぼ相当する年収40万円以下の所にシワが寄せられている。

第65表 戦前戦後における所得階層別にみた納税人員、所得額及び所得税額の分布

法人税

 次に法人税をみると、その税収中に占める比率は戦前の10%から29年度の22%へとこれまたかなりの上昇率を示している。

 法人税率は昭和10年前(第一種所得税)においては普通所得に対して5%(このほか普通所得が資本金額の10~30%を超えるときにはその超過額に対し4~20%の超過税率)であったものが、戦後は21年に35%、27年に42%と次第に引き上げられた。しかし30年度の改正では40%(年50万以下の所得金額に対しては35%)に引き下げられた。

 これは戦後の弱体化した企業にとってかなりの負担になっていることは事実である。こうした点にかんがみ、青色申告書を提出する法人に対しては、税法上特に資本蓄積助長策として各種の特別償却、免税準備金及び引当金等の特別措置がとられてきた。もちろんこの特典を利用するか否かは法人の任意であり、また収益面からの制約等によって利用を限定される場合もあろうが、25年度上期以降28年度下期までの大企業の利用状況は 第66表 の通りで損金算入額は累計1,420億円に上っている。これらは税率引下げというような一般的減税ではないけれども、資本蓄積という観点からとられた個別的、傾斜的減税方法であるため、これら諸措置の利用度が比較的高い産業の実質的な法人税負担率は近時相当低くなっているもようである。また中小企業では比較的これを利用する機会は少ないであろうが、これを利用する場合にはかなりの負担軽減になるものと思われる。

第66表 青色申告制度の特典利用による資本蓄積状況調

 以上概観した通り戦後の租税負担は戦前に比して過重であるが、特に所得税では大衆課税的現象がみられる。従って減税は必要であるけれども、財政規模の大幅な圧縮がかなり困難であり、さらに現状においては赤字公債の発行も望ましくないから、減税といってもおのずから税制調整を内容とするものになろう。例えば、今後の租税政策としては、(1)直接税と間接税を租税体系の中でどのように調整するか、(2)直接税の減税をする場合には、その効果を普遍的に均霑せしめる一般的減税か、資本蓄積、輸出促進等の特定目的に限定する個別的減税か、あるいは(3)所得税と法人税のうちいずれに減税を厚くするか、などの種々検討すべき問題点が残されている。

第67表 租税体系の変遷


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