昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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財政

財政投融資

緊縮政策と財政投融資の削減

 昭和29年度においては前年度の経済膨張に対して厳しい批判が加えられた結果、緊縮政策推進の起点として財政投融資の規模は極力圧縮されるに至った。すなわち、財政投融資の量が過大であると、個別的には合理化やコスト引下げのための投融資であっても全体としては過剰投資やインフレを招来するので、投融資量は健全な経常財源によって規制される一方、投融資の対象も民間投資の及び難い部門に重点化されて、財政投融資のいわば質的機能が強く前面に押し出された。

29年度の財政投融資

 29年度の財政投融資計画は公募公社債及び公募地方債を含め総額2,865億円で、前年度実積に比し514億円(15%)削減されており、公共事業等の建設的支出も前年度予算額に比して11億円削減されて1,950億円となっている。さらに自己資金等を加えた財政投融資総額としては6,886億円で、戦後最高の28年度に対して約200億円の削減である。

 こうした財政投融資削減の主たる特徴をひろってみると次の通りである。

財政投融資削減の対象

 まず民間への資金供給関係では、従来財政投融資に誘発されて民間投資が盛行したことから、他の産業部門への波及効果の大きいものが中心に削減されている。この点産業設備投資の中心的役割を演じてきた開発銀行は自己資金を加えた総額で前年度に比し279億円、また金融債引受は間接的に民間設備投資抑制の見地から110億円とそれぞれ削減された。ただこれらに対する例外として電源開発株式会社に対する投融資は前年度に比し45億円増加しているが、これは継続工事続行のためである。また輸出入銀行に対する増額は、緊縮政策の実施に伴ってプラント輸出が増加した結果である。 他方、国民金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、住宅金融公庫及び勤労者厚生住宅等に対する投融資は削減の程度が弱いか、あるいはむしろ前年度を上回るものもあるが、これらの多くはその性格上社会政策的色彩が濃いものであり、投資の波及効果も前述のものとは若干異なるので、その取扱い上の差が生じたものである。ちなみに民間への資金供給関係を産業的投資と社会政策的投資に分けて、公共事業等を除いた財政投融資額の中に占める新規投融資額の比率をみると、産業的投資は28年度の32%(自己資金等を加えると29%)から29年度には29%(28%)へ減少しているのに対し、社会政策的投資は28年度の20%(自己資金を加えると20%)から29年度には22%(22%)へと増加している。

 次に政府事業建設投資では投資影響力の大きい国鉄の削減が中心となっている。公共事業等では11億円の削減に過ぎないが、これは食糧増産対策事業費、文教施設費、厚生施設費等がその他の削減にもかかわらず増額されているためである。

第58表 財政投融資状況

財政投融資の資金源

 一方これら財政投融資の資金源をみると、 第59表 に示すごとく、一般会計と簡保資金に若干の増減があったほかはほぼ前年度並みであるのに対して、政府機関業務の進展に伴い回収金自己資金等が増大し、これら資金の占める割合が前年度の25%から29年度には30%へと大幅に増加しているのが特徴である。

第59表 財政投融資資金源泉別内訳

 また27、28年度には健全な経常財源以上の投資が行われて資金面からインフレ要因を形成し、実体面では一部に過剰投資を惹起する結果になった。この点にかんがみ、29年度においては極力健全な経常財源で賄うように抑制されたので、過去の蓄積資金の放出や公社債の発行も ※ 参照※ にみるように前年度に比し大幅に減少している。

第60表 蓄積資金の放出及び債券の発行

若干の問題点

 戦後の経済復興過程において財政資金による民間産業投資の果たした役割は確かに大きい。しかしここ二、三年の投融資傾向をみると、経常財源以上の投融資を行うという積極策がとられたため、インフレ要因になると同時に民間産業の過剰投資を促すような場合も生じた。従って、今後の財政投融資の方向は国際収支の改善と基礎産業の確立にあるのはもちろんであるが、民間投資に及ぼす財政投資の誘発効果が大きい点にかんがみ、まず投融資財源の健全化を図るとともに、民間供給資金の増大してきた近時においては重要産業への積極的な導入に留意しつつ投融資の対象も民間投資の及び難い部門に重点をおくべきであろう。また公共建設投資については、しばしばいわれるようにその総花的な放漫性を排除して、投資の重点化、効率化を図る必要があるように思われる。


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