昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
前進への道
雇用の拡大
我が国が直面する雇用の問題は重大である。年々増加する要就業人口を吸収し、また不完全就業の状態にある人々により安定した職場を与えていかなければならない。そのためには、現在多くの就業人口を抱いている農業や中小企業の安定をはかることはもとより、直接雇用の増加に役立つ住宅の建設や、道路、港湾等いわゆる産業関連施設の改善、あるいは治山、治水等の諸事業を行い、そこに財政資金の相当部分を重点的に振り向けていくことが要請される。また一時的な失業を救済するために、失業対策を充実することも必要であろう。
しかしながら、膨大な不完全就業者や失業者をかかえ、しかも資源の乏しい我が国では雇用増大の基本が輸出の振興を要とした経済規模の拡大にあることは繰返すまでもない。輸出が伸びれば、その部分で雇用が増えるばかりでなく、経済規模の拡大を通じて間接に、国内経済のあらゆる分野で雇用の機会が増加する。輸出振興の方途は大企業の合理化や生産の集中に限らない。農産物や中小企業の製品にも有望なものが多いから、これらの分野でも能率的な生産や販売組織を発達させ、海外市場を拡大していくことが必要である。公共建設事業においても、日本経済を総体として能率化し、対外的な競争力を強める配慮が望ましい。このような方策によって日本経済が発展していけば、雇用問題も本格的な解決の方途に向かうであろう。
かくして前進への道を築くにあたっても、そこにはおのずから緩急の序がある。インフレを再燃させない保証が不確実なうちは、まず通貨価値の安定策を講ずることが先決問題だが、こうした保証が確立されていけば、それに応じて政策の重点も漸次積極性を帯びていく必要があろう。また前述した五章は相互補完の態勢に組み上げられていかなければならない。合理化が雇用と競合せず、産業組織の再編成が大企業と中小企業の共栄を導くようになることが望ましい。そして結局は輸出の振興に完熟し、これがかなめとなって完全雇用の達成と国際収支の均衡を実現していくものでなくてはならない。それにはどうしても、政策の総合性と一貫性が要請され、計画性が不可欠な条件となる。先に政府がその構想を明らかにした「総合経済6ヶ年計画」の策定も、こうした要請から生れたものであり、ここに前進への道を築くための第一歩が踏み出されたわけである。