昭和30年
年次経済報告
経済企画庁
提示された問題
合理化効果の不完全燃焼
これまでに行われた合理化投資のうちには、おくれた技術の回復、品質の向上、原単位の改善などにようやくその効果を現すものが出始めている。ただ、さしあたりは金利負担や減価償却費が嵩んで、思うようなコスト低下をみるまでに至っていないが、これは合理化の効果がまだ完全に燃焼していないためである。どうして燃焼しないのか。
一つには近代化設備が稼動し始めて間がないから、合理化の効果を十分発揮する時期にきていないということもある。また鉄鋼等にみうけられるごとく、直接部門の近代化は進んでも間接部門の合理化が残されていたり、あるいは基幹設備は優れていても附帯設備が劣っていたり、つまり企業内部の設備相互間に能率のアンバランスがあって、優秀設備の足をひっぱている場合もある。企業相互間における合理化のアンバランスも同じような結果を生む。これは機械工業等の親元メーカーと下請メーカーとの間によくみうけられるところだ。下請中小メーカーの設備や技術がおくれていて、そこから劣悪な部品が供給されるのでは、いかに親元大メーカーが優秀な設備や技術を誇ってもその効果は発揮されない。そこで大メーカー自身が部品の生産にのりだすという傾向も強まっているが、それではかえって単純化、標準化、専門化等をおくらせることになるし、またそうあっちこっちでつくっては市場の問題にもぶつかってしまう。
市場がせまいことは、合理化効果の発揮を妨げている基本的な問題である。これまでの合理化投資には、企業間の競争から市場の有る無しにおかまいなく行われていたものが多いので、せっかく新鋭設備が据付けられてもその能力を十分に発揮できず、産業全体としてみれば新しい投資がかえって操業度を低下させるという傾向もみられる。このうちには新鋭設備だけでもこれをフルに動かせば余ってしまう場合もあるが、また新、旧両設備が同時に動いて、中途半端になっている場合も多い。個々の企業の間で重複的な投資が行われたり、新鋭設備を据付けても旧設備を廃却しなかったり、あるいはまた近代化設備が金利負担の重荷を負っていて競争による旧設備の淘汰を十分に行い得ないでいることなどが原因である。つまり合理化投資に十分な計画性がなく、また優秀設備への生産集中が行われずにせまい市場のなかで、過剰競争にひしめきあっていることが、大きな障害になっているわけだ。