昭和30年

年次経済報告

 

経済企画庁


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緊縮政策の波及過程

下半期の景気回復

 下半期の輸出総額は873百万ドルに上って、前期よりさらに2割ほど増加し、ことに鉄鋼や非鉄金属の輸出は6割も増えた。この間特需は漸減したが、輸出の増加はこれをカバーして十分余りあった。しかも輸入が著しく縮小したため、国際収支は大幅に改善され、その黒字は上半期の79百万ドルから、下半期には265百万ドルを記録した。このような下半期の輸出増加と輸入減少が国内の需給関係と金繰りに相当の影響を与えたことはいうまでもない。もとより輸出の増加や輸入の減少には、後述するように年度当初来のデフレ圧力がかもしだしたという面もある。しかし下半期の輸出伸長にはこうした消極的な面ばかりでなく、海外市況の好転も大きくひびいて、積極的に景気を上向かせる役割を果たした。それに在庫の補充も景気回復の一因となり、ことに鉱工業生産者の国内産原材料在庫は9~12月間に5%ほど増加した。

 卸売物価をみると、下半期中に3%反発して、上半期に下落した分の4割を戻している。なかでも海外市況の強かった鉄鋼、非鉄金属、ゴムの高騰が著しく、化学品や燃料にも上ったものがあり、そのほかの商品も概して下落のテンポを弱めるようになった。また鉱工業生産は下半期に7%も上昇して、上半期の減産分を完全に取り戻した。この場合にも、鉄鋼、非鉄金属等輸出増加の大きかった部門における増産が目立っており、これらは内需の停滞にもかかわらず、輸出の著増で滞貨が減少し、生産が増加した。主要輸出品37品目についてみても 第6図 が示すように、生産に占める輸出の割合は増加しており、輸出の伸長が増産の刺激になったことを現している。

第5図 輸出の増加と輸入の減少

第6図 生産に占める輸出の割合

 もっとも下半期の景気回復は必ずしも全般的なものではなかった。物価をみても、生産をみても、かなりの跛行を示している。機械、建築材料等投資財の価格は下落の速度こそ弱めたものの、依然として低落を続けたし、繊維や食糧等の消費財も軟調であった。また生産にしても、機械等は停滞の域を脱していない。つまり輸出増加の波を端的に受けた部門は好転したが、この波紋はあまり広範に及ばなかったといえる。これは輸出が増加した部門でも、一部を除いては輸出価格が大して上らなかったし、また輸出の先行きが必ずしも楽観できなかったので、設備を拡張するまでに至っていないからであろう。従って、金融の動きをみても、輸出をして受取った代金は、下半期に増えた供米代金とともに回り回って金融機関に預けられたが、そのうち貸出しを通じて産業界へ戻った分は割合に少なかった。下半期における銀行の貸出増加は預金の増加を大幅に下回り、そこに生じた銀行の余裕金は日銀に返済されて、日銀信用は1,378億円の収縮をみており、これが前年同期では逆に673億円も膨張していた。このように貸出しがあまり増えなかったのは、銀行の貸出抑制ということもあるが、企業の資金需要が減退していたからにほかならない。

 こうしてともかく、輸出増加の波は広範に広がらなかったが、これは結局、緊縮経済の基調が底流していてその波を打ち返していたからである。


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