昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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各論

国民生活

住宅事情

前節に述べたように住宅水準の回復は立ち遅れているが、都市住宅について現況をみてみよう。まず、同居世帯のある住宅は昭和25年当時より若干減少して全住宅数の1割となったが、一人当たり畳数については25年とほぼ同じく3.3畳で、また一人当たり2畳未満の住宅が19%も存在している。このような住宅の量的不足や過密住住宅は、京浜、阪神、北九州工業都市において目立っている。

一方、住宅の老朽化をみると、最近の消費支出増大に伴い、ようやく住宅の修理にも手が回るようになって、修理を必要とする住宅の割合は25年より減少をみせている。ところが、耐用年数を超えたような住宅で永年放置されてきて、もはや修理不能または危険状態にあるものの数はむしろ増加をみせている。かかる住宅の老朽化は、借家のように質が悪く、修理も行き届かないものに多く、また戦災の影響が小さく、古い住宅の多い地方都市に著しいことから、住宅難の問題はあながち前述の人口密集地域ばかりともいえない。

ところで、28年度の住宅着工戸数は前年度を1割余上回り、3年ぶりで再び30万戸に達したと推計されている。これを財政の直接支出による公営住宅、公務員住宅などと、民間建設の住宅に分けると、前者は公営住宅の倍増によって2割余の増加を示し後者は約1割の増加であった。しかし後者の場合においても、住宅金融公庫の27年度追加割当分が実際には28年度に着工されたことや、厚生年金保険積立金による住宅の倍増など、財政投融資による住宅が増加要因となったもので、民間の自力建設住宅のみでは前年度とほとんど変わらなかった。

しかしながら民間の住宅投資は決して伸び悩んだわけではなく 第101図 にみるように前年度より約3割も増加している。それにもかかわらず建築延べ面積ひいては建設戸数の増加が1割程度に過ぎないのは、木材の高騰に起因する木造建築費の値上がりによるもので、これらの事情は27年度の場合と全く同じであった。なお民間住宅投資の規模を国民所得に対する割合でみて戦前、戦後の比較を行っても、戦前昭和9~11年の約2%に対して28年は2.7%と推定されており、戦後の分には戦前ではほとんど無視できる程度の財政融資が約2割も占めているとはいうものの、とにかく戦前よりかなり大きい住宅投資が行われているわけである。しかるに木造建築費が戦前の500倍にも達しているため、建築延面積では戦後をわずか1割上回るに過ぎない。このように住宅投資は年々増大し、その水準も低いわけではないにもかかわらず、一般物価に比べて木造建築費の騰貴が著しいことが住宅建設量の伸び悩んだ主因となっている。

第100図 所有関係別老朽住宅数

第101図 民間住宅投資、延べ面積、建築単位の推移(非農家)

次に住宅建設の捗らない理由の一つに、借家供給及びそれと直接結びつく家賃の問題がある。家賃は需要関係による地域差や、統制の制約がある戦前借家、統制を受けない最近の借家、給与住宅、公営住宅等の種類による差異が大きく、一概に論ずるわけにはゆかないが、都市家計調査からみると、全都市平均の地代、家賃及び間代の支出は27年から28年にかけて2割5分程上昇した。これは27年末における統制家賃の値上げが影響したばかりでなく、収入の増加によって家賃負担力が増したためであろう。

しかし28年9月の都市住宅調査によれば、民間借家の家賃は一戸当たり約1,200円で、これでは新築住宅の場合の減価償却費にもみたないから、家主としては家賃収入から住宅投資に還流する途はほとんど閉ざされているといえよう。だからといって建築費に見合った家賃に引き上げることは現在の所得水準からみて難しく、多額の権利金に依存する特殊な場合を除いては、一般的に借家企業の成立する基盤はないといえよう。

以上のような住宅建設は八方ふさがりに追い込まれた形であるが、結局もとをただせば建築費の高騰にあり、中所得層以下にあってはわずかに公営住宅、公庫住宅等、財政支出関係の住宅に途が開かれているに過ぎない。単に建築費のみではなく宅地価格も、その上昇率は鈍化したとはいえ、空閑地の縮小化は避けられないので、宅地難は拡大するであろう。従って、特に大都市においては住宅及び宅地問題をいわゆる大都市問題として総合的に配慮すべき段階にあると考えられる。


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