昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
財政投資の効果
財政投資の大きさ
財政による公共建設事業投資及び民間への産業資金供給は戦後逐年増大し、わが国経済力の増強に大きな役割を果たしてきた。昭和28年度の財政投資総額は6,815億円と前年度に比し約28%の増加であり、生産財卸売物価で換算した実質規模においても前年度の26%増となっている。
公共建設事業費
このうち公共事業費等はその目的の大半が食糧増産等の基礎的な経済力拡充や国土資源の維持発展等におかれているが、これら経費は右のような基本的な目的の他に物資及び労務の莫大な需要者としての大きな経済効果をもっていることも見逃せない。また目的は異なるが安全保障諸費もその大半は施設、道路の建設等に使用され、この意味では公共事業費等と同様の効果をもっている。国鉄、電電公社等の官公事業の建設投資も年々増加し、それ自体の資本設備を増進しているが、同時に主要資材の需要者としても大きな地位を占めている。このような公共事業建設事業投資は一方で賃金支払を通じ国民に購買力を与えることにより有効需要を増大せしめると同時に、物資の購入によって関連産業の生産増大に寄与する。セメント、木材、鉄鋼、機械の一部等はこれらの官公需物資として重要なものであり、電源開発、その他をも含めてみると例えば機械製造業の28年度中受注実績の16%、セメント出荷総量の35%は官公需によって占められている。
民間への資金供給
次に民間への資金供給をみると、これは財政投資のうち最も大きく38%を占めている。28年度産業設備資金供給額の17%は直接財政資金によるものであり、その上民間金融機関からの設備資金も財政投資と協調して貸出されたものが多いことを考えると、財政投資が資本形成に果たした役割はかなり大きなものといえよう。財政からの産業に対する資金供給を業種別にみると電力、海運等の重点産業に集中しており、例えば財政資金供給の中心である開発銀行の貸出し中右の二つの業種に対する貸出額は前年度と同様総額の86%と圧倒的な比重を占めている。またこれを受ける側からみれば、電源開発資金の4割、外航船舶建造資金の5割は財政資金によっている。なお財政投資とはいえないが、外航船舶建造に対する利子補給が28年度から実施されたことは財政による産業助成措置として注目される。(予算額6億円)このような重点産業に対する投資が、さらにこれと関連する産業、例えばセメント、電気機械等の部門で新たな設備投資を刺激したことも見逃せないであろう。
なお民間への資金供給のうちには、28年度から新設された農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫の融資が国民金融公庫、住宅金融公庫のそれと並んでかなり大きな額を占めており、農林漁業、中小企業、住宅問題などに対し重要な配慮が払われていることを示している。また地方債引受が漸増していることは、地方における事業量の増加とともに地方財政の窮迫などを反映したものといえよう。
財政投融資の資金源
一方これら財政投資の資金源をみると、 第48表 のごとく一般会計、見返資金はそれぞれ停滞ないし漸減し、また資金運用部も28年度には前年度に比し低落している。これに反し政府機関の業務の進展に伴い、回収金、自己資金等が増大し、これら資金によるものの割合が漸次増大してきている。また28年度からは見返資金に代わって産業投資特別会計が産業資金供給の重要な源泉となった。ただ年度中の普通収入では増大する投資需要を賄えないため、前年度に引き続き余裕金の使用、日銀に対する手持国債の売却等過去の蓄積資金が放出(3月末までの国債売却実績305億円)されるとともに新たに減税国債、公社債の発行(実績291億円)が行われた。
若干の問題点
以上にみるごとく財政投資はあるいは資本形成として、あるいは財政需要として経済規模の拡大に大きな役割を演じたのであるが、それら経費が効率的に使用されているかどうか若干問題があるようである。例えば公共事業費などは多くの使途に余りに零細に分割され過ぎたためにその効果が十分顕現しなかったり、またそれらの使途が若干適正を欠き問題となったような事例もみられ、財政投資の効率的かつ公正的な使用の見地から反省すべき余地が少なくなかった。