昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
国民の租税負担
租税負担
財政が国民経済に占める比重は既にみたごとく大きなものであり、しかも年々かなりの膨張を続けてきた。この莫大な経費を賄うものはほかでもない国民自身である。
国民の最も直接的な財政負担である租税(印紙収入及び専売益金を含む)が財政収入全体に占める比重は、28年度一般会計ではその88%と戦前(昭和9年~11年平均53%)に比し著しく高い。また国民の租税負担も戦前に比しかなり高率である。例えば国民所得に対する負担率は国税のみで戦前の9%に対し28年度で15%、地方税を含めれば13%に対し21%になっており、また国民一人当たり負担額は国税のみで10,459円、地方税を含めて14,403円に達する。これを戦前の実質価値になおし戦前100の指数で示せば、一人当たり国民所得105に対し国税負担額は188、地方税を含めた総合負担では168となる。
所得税
ところで租税の構成は国税においては最近漸次間接税の比重が増大してきたが、戦前に比べればなお直接税の割合が大きく、直接税のうちでは依然所得税、法人税が中軸となっている。
所得税は28年度税収総額の32%を占め、相変わらずその大宗たるを失わないが、数次に亘る減税の結果24年度の44%に比すればその割合は低下している。これは個人所得総額(勤労所得個人業主所得の合計)に対する所得税額の比率が24年度の11%から逐年低下し、28年度には5%になっていることからもうかがえるところである。しかし所得税の水準は戦前に比しいまだかなり高位にある。例えば戦前の税収総額中に占める割合は11%であり、個人所得総額に対する比率は0.5%であった。
このように戦前に比べて所得税が高率であり、また所得分布の平準化が著しいため課税の範囲は戦前に比し大幅に拡大している。納税者所得の個人総所得に対する割合は戦前の15%から49%に拡がっており、相当の低額所得層まで課税対象に含まれることとなっている。このことは納税人員が昭和10年の94万人に対し28年度には1054万人と実に11倍に達し、しかもそのうち年間30万円未満の所得階層が人員で77%、所得金額で56%を占めていることからも推測し得る。なお戦前の免税点は1,200円(物価指数で換算すると現在約36万円)であった。
この所得税のほか、なお地方税関係の直接税負担もあるので、個人が直接負担する租税は都市の勤労者では、支出額の11%、農家ではその所得額の5%を占め、国民生活にとってかなりの負担になっている。
法人税
次に法人税の税収中に占める比率は20%で、前年度に比べれば若干低下しているが、所得税とともに税収の中枢をなしている。法人税の税率は42%で戦前に比べて相当高く、企業にとってかなりの負担となっている。このため、従来から資本蓄積助長策として税制上各種の特別償却、控除、引当金、租税の特別減免等の措置がとられ税負担の軽減がはかられてきたが、28年度にはさらに、輸出振興を目的として、貿易商社の海外支店設置のための特別償却、輸出損失準備金、輸出所得に対する控除等の諸制度が設けられるに至った。