昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

各論

財政

昭和28年度財政収支の動向

概観

昭和28年度中の主要項目別財政資金対民間収支尻は 第43表 にみる通りであるが、その特徴的な点を挙げるとおおよそ次のごとくである。

第43表 財政資金対民間収支概要

(1)国際収支の動向を反映する外為特別会計を除いた一般の財政資金は、前年度の346億円揚超とは逆に742億円の撤超となっており、28年度予算のインフレ的影響がかなり明瞭に認められる。しかし撤超額が予想されたより少額に止まったのは租税収入の好調、経費の支払遅延などがあったためである。

(2)外為会計は1,258億円に及ぶ大幅の揚超となり、財政収支全体の揚超をもたらした最大の要因となった。

(3)金融引締政策の実施に応じて指定預金が485億円引き上げられ、揚超の勢いを一層強めた。以下これらの点を中心に年度中の動きをやや立ち入って検討してみよう。

一般会計

(1)一般会計の歳入面では、租税収入が前年と同様好調で、年度中の移納額は7,398億円であった。因みに28年度分の徴税額は29年5月末で予算額を256億円上回る7,823億円に達した。ただその内容において前年度と若干異なる点のあるのが注目される。すなわち法人税は依然相当良好な収納をみたが、前年度まで毎年かなりの自然増収を続けた源泉所得税が予算に対する収入歩合では98%と戦後はじめての歳入不足を生じた。もっとも収納の絶対額では、前年度を17%上回る2,179億円となっている。かかる源泉所得税の状況とは逆に申告所得税は珍しく予算額を上回るに至った。しかもその申告率は良好であり、また更正決定も少なく、従来とかく問題のあったこの税の税務行政がようやく軌道に乗ってきたことを物語っている。また間接税関係では消費の増大によって、ほとんどの税が相当程度の増収となった。特に物品税、関税はそれぞれ高級品に対する消費増大、輸入の増加を反映して著しく増大した。

第44表 昭和28年度国税徴収状況

(2)一方一般会計の歳出では、予算膨張の結果各費目とも前年度に比し大幅の増大となった特に地方財政関係費、公共事業費等の支払額の増大は顕著であった。しかしなお年度中に支払いが済まず、翌年度へ繰り越したものもかなりあり、28年度の財政規模増大の影響が29年度にまで相当繰り延べられたことも見逃せない。そのような経費としては第一に防衛関係費が挙げられる。この経費は前年度支払遅延の大きな要因となった事務機構も整備され、支払いもかなり促進されたのであるが、なお年度末に695億円の残額を示した。また公共事業費、対外関係費、旧軍人等恩給費なども事務その他の関係で916億円にのぼる支払未済額を生じた。

第45表 一般会計主要経費の支出状況

特別会計

次に特別会計等の動きをみると、まず食糧管理会計は、各種の奨励金により生産者米価がかなり上昇したにもかかわらず、凶作の影響で食糧買入数量が減じたためその支払額は予想外に少額であり、消費者米価の改訂による受入額の増加とも相まって年度中の撤超額は前年度を56億円上回る717億円に止まった。また新設の産業投資会計は、収入面で特別減税国債が58億円の未消化を残したが、一方支出も計画額を28億円下回り、その撤超額は見返資金会計と合わせ284億円となった。次に資金運用部資金は郵便貯金、保険、年金等の受入が好調であったことにより年度中の預託金増加額は1,416億円に達したが、一方運用も災害対策費の増額などもあって地方団体への貸付増が606億円に上ったのをはじめ、政府関係機関貸付510億円、金融債引受300億円等かなり活発で総額1,365億円に及んだ。しかしなお地方債引受286億円が翌年度にずれており、同会計の対民間撤超額は888億円と前年度を50億円下回った。

また外為会計では、国際収支の赤字が意外に大きく年度中313百万ドルの払超となり、さらに10月以降実施された金融引締政策により、日銀の別口外国為替貸付等が135億円減少した結果1,258億円に上る巨額の揚超となった。この外為会計の動きは一般財政の撤超を打消して財政収支を大幅な揚超とした最大の要因をなしたのである。

指定預金

なお28年度の財政収支の動きをみる際に見逃せないのは、指定預金の動向である。27年度末の残高は580億円であったが、28年度に入るとともに暫定予算に伴う金融対策、災害対策により新規預託が行われ、8月末には665億円に達した。しかし9月以降は金融引締政策の実施と並行して計画的な引上げが行われ、年度末の残高は中小金融機関に対する99億円のみに減少した。この指定預金の動きが財政収支の揚超をより強めたことはいう迄もない。

第60図 財政資金対民間収支の推移


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]