昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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各論

交通・通信

国内輸送

貨物輸送

28年度における国内輸送トン数は、一般的な経済の伸長を反映して次表に示す通り概ね前年度より増加し、特にトラック輸送の増加が目立っている。

第39表 による輸送トン数を輸送距離を計算に入れた輸送量、いわゆるトンキロメートル(輸送トン数×輸送距離)からみれば国鉄及び内航汽船の輸送量が全輸送量のそれぞれ約60%、25%を占めているものと推定され、その他の輸送機関の輸送距離の短さを看取し得る。

第39表 28年度国内貨物輸送実績

これを輸送機関別にみると、まずトラック輸送にあっては、建設資材と一般雑貨の輸送量の増加が特に著しく、前年度に比較して4割以上の増加となっている。こうしたトラック輸送の増加の中には、輸送機関として提供するサービスと支払運賃とを較量した輸送費において、トラック輸送が鉄道その他よりすぐれているために、トラックに移った貨物が相当量含まれていることを看過してはならないであろう。

次に国鉄輸送をみると、建設資材、製造業の原材料及び製品の増加の大きいことはトラックにおけると同様であって、全体として対前年度比20%増となっているが、凶作及びトラックへの転移により概して農林産物資は減少している。

また内航汽船輸送の28年度の特徴は、石炭輸送の7%という相当大幅な減少と、これに替わる石油類の32%増であって、国内における燃料源の変化の姿を端的に示しているものといえるであろう。その他、鉄鋼、セメント等の増加が目立っているが、石炭の海上輸送に占める比率の大きさのゆえに、全体としての輸送量はほとんど前年度と変わらない。

上述のような輸送の姿に対して、国鉄以外の輸送力は概ね順調に追随しえたといえる。トラックは前年度に比較して実に11万台と約26%の増加となったが、ここで注目すべきことは小型車の増加が著しいこと、及び営業車よりも自家用車の増加が目立っていることである。経済膨張期には経営に余裕があるため、個々の企業が中小企業に至るまで、運送費が若干高くついても利便性の大きい自己運送を選んだことがその理由であろう。従ってデフレ傾向に移った年度末には早くも自家用トラック輸送の増加率の衰えがみられる。

次に内航汽船については、動乱終焉とともに、再び船腹過剰状態が露呈されて低運賃を導き、企業経営を困難にしていたが、28年、外航適格船の建造と見合いに再び内航低性能船舶を整理することとし、約10万重量トンが解撤された。これは全内航船腹の約10%に相当するものである。しかし内航汽船に関する問題の根源は、このような船腹整理で解決し得るものではない。往時の内航は近海、すなわちシナ、満州、朝鮮、台湾、樺太の各港を含めてその活動範囲となしえたのに反して、現在ではわずかに本土沿岸に局限されたために、極めて弾力性の少ない船腹市場となった。その上この範囲では内航汽船には競争の相手として国鉄が大きく対立している。元来鉄道運賃のような公益性のある料金は物価の騰貴に常に遅れる上に、値上げ率も低い。これと競争の状態におかれる以上、内航汽船の運賃も同様の姿となることは当然であって、内航汽船のマーケットが本土沿岸に限定されている限り、問題は依然続くものと見なければならないであろう。

国鉄輸送力は、季節的、地域的には既に著しく弾力性の乏しいものなっている。貨物輸送面でまず目立つのは28年度中に貨車の増加がほとんどないことであり、また老朽車の代替も限られた範囲内でしか行われず、第3・四半期では朝鮮動乱当時におけるような輸送逼迫の状態に陥り、各地に多くの滞貨を生じた。昨年は鉱工業生産が急激に上昇したこと、水害復旧資材が多量に動いたこと、さらにはインフレ気構えに基づく種々の買漁り的貨物の移動が多かったことなどの事情もあったが、この秋期から年末にかけての輸送力の不足は年々繰り返されるところであって、輸送需要の季節的変動に対応する輸送力の伸縮は極めて困難な状態となっている。さらに戦後、日本の産業立地の変化特に東北、北海道、北陸方面の資源開発と北海道本州間の汽船輸送の減少により、この方面の幹線輸送力は既にその極限まで使用されるに至って、抜本的な輸送力増強が行われない限り今後の増加は困難視されている。

旅客輸送

28年度旅客輸送は各輸送機関ともに増加している。

このように旅客輸送の旺盛なことは、一般的にいって28年度経済の好況、特に消費水準の高さを物語るものであって、国内航空輸送の普及、バスの著増などはその典型的な現われである。また国鉄、私鉄を通じてここ数年来定期旅客数が増加して普通旅客数は停滞していたのに対し、28年度は普通旅客数の増加率が定期旅客のそれを上回っている。これらはいずれも一般的な消費性向の増大の結果である。

第40表 28年度国内旅客輸送実績

他方、上述のような輸送増に対して、自動車では、バス、乗用車ともにその台数が引き続き増加したが、鉄道においてはほとんど輸送力の増加は行われなかった。特に大都市における通勤輸送は著しく逼迫しており、例えば東京における国鉄電車のラッシュ時には、ここ数年定員のほぼ3倍の混雑状態を示し、戦前の1.5倍と比べるとサービスの低下が著しい。これは都市消費水準が戦前のそれに達しているのに比べると回復が遅れている。このような鉄道輸送のサービスの質の低下もあって自動車その他交通機関の進出が目立ち、都市におけるバス交通の躍進、近県観光旅客のバス利用、長距離上級旅客の航空への移動等が28年度を通じて顕著であった。

国内輸送における問題点

第一に自動車の増加が挙げられる。28年度末における自動車の台数はスクーターを含めて107万台に達し、前年度末に比べて33.5万台の増加であった。その燃料消費量も215万キロリットル(ガソリン190万キロリットル、軽油25万キロリットル)と推定され、前年度の30%増であり、戦前の最高水準を遥かに上回っている。この消費量のうち6割はトラックであり、バス及び乗用車はそれぞれ2割である。長期的にみれば鉄道を主軸とする他輸送機関がよりよい輸送サービスを提供できない限り、自動車輸送の優越性はなお増大こそすれ減少するものとは考えられない。しかし燃料のほとんど全部を輸入に待たなければならないこと、自動車が道路整備の進捗と不均衡に増加していることは慎重に考慮されねばならない問題であろう。長距離輸送トラック及び遠距離観光バスの増加、大都市における乗用車の洪水等は、果して現在の日本経済の姿からみて適当なものというべきであろうか。

第二に国鉄における輸送力の弾力性の低下と資産の老朽化が挙げられる。国鉄の輸送量は戦前(昭和11年度)に比べ旅客3.2倍(人キロメートル)、貨物2.5倍(トンキロメートル)となっている。これに対して施設、車両はそれほど大幅には増強されず、さらに戦時の軍需輸送と海送よりの転移によって酷使され荒廃し、戦後の復旧も十分ではない。現在の償却不足資産は1,500億円にも達し、輸送力は弾力性を失い運転事故もいまだ戦前に数倍して、サービスの低下が著しい。

戦前は新線建設以外の改良取替は全て自己資金で賄いえたのであるが、戦後は設備資金の大半を外部資金に依存せざるをえず、輸送力の増強はもちろん、老朽資産の取替えによる現状維持にさえ困難を感じている。これは終戦以来のインフレ昂進期において一般物資、特に国鉄購入物資の異常な値上がりにかかわらず、国鉄運賃は公益性のため常に低位に止まらざるを得なかったためである。従って輸送量が戦前の2.5~3倍になっているにもかかわらず、運輸収入(物価換算)は1.28倍に過ぎない。28年にも運賃の値上げが行われたが、値上げ率の些少のため職員の給与改善に充当される部分が多く、設備増強にはほとんど投入し得なかった。その他定期旅客の異常な増大、不採線算区が全体の77%にも及ぶことなども企業性と公共性とを併せもっている国鉄経営の困難性を物語っているといえよう。その上企業性をはなれた新線建設は28年度も約70億円を投じて進められたが、このような新線建設についてはその建設の目的に応じた別個の資金源が考慮されるべきであろう。国鉄におけるこれらの問題点は根本的には私鉄についても同様であるが、これに対して28年度において地方鉄道軌道整備法が制定されて、補助政策の復活をみたことは注目される。


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