昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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各論

建設

建設投資の影響

以上の建設投資は各部門に種々の影響をもたらしている。その第一は、雇用の問題である。建設投資は、そのうちに占める労務費が大きく、建設投資の増加は直ちに雇用や消費購買力の増加を促すのであるが、労働力調査によって、28年度の建設業の雇用者の伸びをみると、前年度に対し6%増に過ぎない。この数字が農閑期の余剰労働力を利用することが多い公共事業の雇用量を正確に反映していないとしても、建設雇用の伸びは、実質的建設投資の伸びを下回ったものとみられる。例えば、最近の一般公共土木事業における事業費総額、労務費総額、労務量の関係をみれば 第57図 のように、事業費総額の増加に対する後二者の増加率が小さい傾向にある。

第57図 公共事業における労務費と労務量

第二に、資材需要について、まずセメントの内需向け出荷量をみると、27年度の増加率13%に対し28年度の増加率は36%を示し、建設投資の増加率を上回った。ことに電源開発向けは2倍に、道路・港湾・一般土木向けは36%、建築向けは27%増を示し、その三者のみでセメント需要増加量の7割を占めた。また、建設向鋼材、鉄構物、コンクリート製品、鋼製建具、製材その他の資材についても、27年度における生産または建設向け出荷の増加率は、いずれも建設投資の伸びには及ばなかったか、あるいは減少を示したが、28年度におけるそれらの増加率は、製材を除けば実質的建設投資の増加率に匹敵するか、あるいはそれをかなり上回った。これは建設事業の量的増加ばかりではなく、前述したような質的変化によるものであろう。

第三に、このような資材需要の著増は、セメント業などの建材産業における設備拡充をもたらしたが、一方、建設業においても建設機械設備の拡充が促進された。例えば建設業の大手筋における機械設備は26年から28年までに5倍に達した。

以上のように、28年度における建設投資千数百億円の増加は、むろん直接的な雇用や賃金所得の増加を伴ったが、それ以上に資材需要をもたらし、あるいは新規投資を誘発し、それらがまた所得の増加を呼び、国内需要の拡大にかなりの役割を果たしたものとみることができる。


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