昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


[次節] [目次] [年次リスト]

各論

建設

建設需要増大の実状

建設投資総額の推移をみれば、26年度から27年度にかけては約3割の増加を示し、28年度には再び約3割の増加をみせ、その総額は7千数百億円に達したものとみられる。建設投資は、財政の直接支出するもの(公共事業費など)と、民間の産業設備投資(電源開発、工場建築、ビルなど)及び住宅投資の三つに大別されるが、後二者のうちにも財政投融資に関連があるものが極めて多い。そこで、財政に関連ある建設投資と純民間建築投資の二つに分けてみると、27年度においては前者が4割増、後者が1割増に過ぎなかったが、28年度には両者とも約3割の増加をみせた。すなわち、28年度においては、電源開発、公営住宅が著増をみせただけでなく、保安庁施設、安全保障諸費による道路及び建築など防衛関係の施設費が大幅に伸びた。その反面公共事業費では大災害があったため、救農土木事業費を含む災害復旧事業費が前年度に比べ4割増をみせたが、一般公共土木事業の伸びは鈍化し、食糧増産対策費も微減したので、公共事業費全体としては2割5分増に過ぎなかった。従って、財政に関連ある建設投資の増加は約3割に止まった。また、民間建築は、前章に述べた理由によって鉱工業部門などにおける設備投資の活発化がみられたこと、及び消費者所得の増大によって住宅投資が増加したことにより前年度に比べて3割の増加を示した。

第55図 28年度主要建設投資の対前年増加率

しかしながら、この増加も資材費や労務費などの値上がりを考慮すれば、28年度の実質的建設投資額の増加率は約2割程度とみられる。すなわち、建築部門では木造建築費が2割上昇したので、名目的には3割増であるが、実質的には約1割5分の増加に過ぎない。これに対し土木部門では、資材費はほぼ持ち合い、労務費は電源開発や災害復旧などで局地的に高騰したところを除けば約1割の上昇であるから、実質的投資は名目額を数%下回るに過ぎないであろう。

次に建設事業が拡大した時期をみれば、財政支出関係の建築及び公共事業は、27、28年度とも秋以降の下期にそれぞれ前年より一段と高い水準で集中した。また電源開発及び民間産業用建築は、27年秋に一回り規模が大きくなり、28年春には一層拡大した。従って、27年秋、28年の春及び秋に一段ずつ投資水準が上ったが、それは耐久財生産指数の上昇傾向と軌を一つにしている。

建築投資の増大したいきさつは以上の通りであるが、建設工事の内容、規模の変化も見逃せないものがある。第一に、建築部門における不燃建築の著増である。着工延べ面積からみれば、木造は全く停滞を示したのに反し、鉄筋コンクリート造は5割増、鉄骨造は6割増、ブロック造等は7割増といずれも激増した。鉄筋コンクリート造では、その増加の6割までがアパート、公共建築など財政に関連の強いもので占められ、その残り4割の大半と鉄骨造増加の大半は工場建築によるものであった。( 第56図 )第二に、工事の機械化と大量の資材需要を伴う大規模工事の増加が挙げられる。例えば、 ①27年度に着工した多数の水力発電所工事におけるダム築造が、28年度に入って本格化したこと、 ②28年度には局地的に大災害に見舞われたため、その地域に大規模な災害復旧工事が施工されたこと、 ③防衛関係施設においても道路、建築などの工事規模の大きいものが多かったこと、などである。第三に公共事業においても、開発方式や建設資材需要の変化がみられる。例えばここ2、3年来、漸次ダム建設による河水統制砂防かんがい事業の拡大、床固め・水制・護岸等において木材または石材からコンクリートへの転換が行われ、また道路事業においてはコンクリート舗装、永久橋の増加などの傾向がみられる。

第56図 鉄筋コンクリート造着工延べ面積の推移


[次節] [目次] [年次リスト]