昭和29年

年次経済報告

―地固めの時―

経済企画庁


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各論

貿易

特需

特需収入の動向

朝鮮事変以来毎年増大を続けてきた特需は昭和27年にピークに達し、28年は大体27年水準で下降気味の横ばいとなった。( 第15表

第15表 広義特需の推移

この特需の中には 第16表 に示すようにいろいろの性質のものが含まれているが、朝鮮特需、駐留軍人軍属の個人消費及び米国側の防衛分担金支出の三者が主体をなしている。27年と比べると28年には朝鮮特需は8割弱に減少したが、個人消費はかえって1割強の増加をみせた。これは28年7月に朝鮮の休戦が成立したため朝鮮関係の軍の需要は減少したが、部隊の移動等に伴って個人消費が増えたためと思われる。防衛費(27年4月以前は占領費のドル払)はほとんど前年と不変であったし、朝鮮復興特需やMSA資金による域外買付は金額も小さく大きな変化もしていない。

第16表 特需の使途別内容の推定

この他28年から新しく加わったものとしては、仏印特需がある。これはオープン勘定で払われ、内容は主として舟艇の修理であるが金額は小さく、年間を通じて300万ドルに過ぎなかった。

狭義特需契約

個人消費や防衛分担金を除いたいわゆる狭義特需についてその契約高をみると、支払実績とは違ってかえって27年を上回っているが、これは上半期中に兵器等を中心に成約が多かったためで、朝鮮休戦後の下半期に入って激減している。この契約の減少は29年に入ってから支払の急減となって現れてきている。兵器の契約は27年下期以降増大しているが、28年の上期には物資契約高の4割弱を占めた。( 第17表 )その大部分は砲弾である。

第17表 物資特需契約高中の兵器の割合

その他28年中の契約金額の大きかったものは、麻袋、石炭、セメント、硫安、合板、乾電池、食糧品等である。

経済に与えた影響

4年間に24億ドルの特需があったということが日本経済に重大な影響を与えたという点は総論の各所でふれている。ここでこの影響を一括しておこう。その第一はこれが日本の輸出入ギャップを補填したことである。外貨収入のうちの特需の割合は年々増加し、28年には実に4割近くに及んだ。( 第18表 )この特需があったからこそ、26年にも27年にも輸出の6割も上回る輸入を続ける事ができた。第二の影響はもっと積極的である。特需は一方で有効需要をつくり出し、他方で輸入増大を可能にすることによってこの需要に見合う生産を増やしたという点がこれである。特需は直接にも需要を増やし、間接にも国内投資を引き起こすことにより需要を増やした。そうして一度需要が増えると、それは乗数的に需要を生みだしていって国内市場をひろめてきた。朝鮮事変後の生産、消費水準の上昇は特需のこの需要と供給の両面にわたる作用なしにはかく著しいものであり得なかったであろう。特需が経済に与えた第三の影響は物価面に現われている。朝鮮事変以来の日本の物価は世界の物価と比べて3割位多く騰っているが、国内物価がこのように世界物価を越えて著しく上昇した一つの原因は特需に支えられた急激な需要増大があったためである。だが他面特需はサービスや軍需品などで国際物価にあまり左右されないものが多く、物価が高くても特需という外貨獲得の道は狭まらなかった。そのため特需を別とすれば円の対外価値は下落したはずなのに27年迄は現在の為替レートの下でも外貨の供給は需要より大きく、360円レートが維持できたのである。特需はこのように円の対内価値と対外価値との開きをつくり出し又それを支える役割をしたが、それは貿易の面では輸出価格を高く輸入価格を安くして、輸出を困難に輸入を容易にすることにほかならなかった。

第18表 外貨収入中に占める特需の比率

最近の動向

最近に至って特需に関して注意すべき変化が二三生じている。その一つは29年に入ってからの特需収入の急減であり、5月までの実績を年率でみると28年平均の7割弱でしかない。これは作戦用物資の需要がほとんどなくなったこと、兵員の移動が少なくなったこと、米軍の予算が節約となったこと、従来米側分担金で支払われていた労務費の一部が現在日本側分担金で支払われていることなどによるものと考えられる。

他の一つは特需においてさえも日本の価格割高が大きな問題となってきているという点である。これは休戦によって従来の緊急買付という特殊性がなくなったためであり、例えば29年に入ってからのJPAの石炭の入札で、日本炭がインド炭、濠洲炭に敗退したり、兵器類の発注でも価格がおり合わず成約がのびのびになっているという事態が生じている。

最後に注目すべきことはMSA協定の成立である。すなわち日米相互防衛援助協定、農産物の購入に関する協定、経済的措置に関する協定及び投資保証に関する協定からなるいわゆるMSA協定は、昭和29年3月8日調印され5月1日発効した。この協定のうち直接経済的な意味を有する点を略記すれば、まず相互防衛援助協定の協定附属書で、日本国及び他の国の使用に供すべき軍需品及び装備を実行可能な場合には日本国内において調達することを考慮する旨を規定した。また農産物の購入と経済措置に関する協定では米国は50百万ドルを超えない価格の米国余剰農産物の購入に必要なドルを支払い、日本はそれに相当する円貨を日銀に設定される米国の勘定に積立て、このうち20%程度を日本の防衛産業の援助及び日本の経済能力の増強に役立つ他の目的のために提供し、残りの80%は米国により軍事援助計画を実施するための日本における物資及び役務の調達にあてられることになった。


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