昭和29年
年次経済報告
―地固めの時―
経済企画庁
輸出
輸出の現状
昭和28年の輸出金額(通関実績)は約13億ドルと前年とほとんど変わらなかったが、輸出数量としては単価の値下がり(11%)もあって前年を13%上回った。( 第10表 )しかしこの増加は後述のように商品別にも地域別にも種々の問題を内包しており、またリンク制などの特殊貿易に支えられたところが多い。さらに輸出数量は輸入、生産、消費などと比べると相対的に低く、戦前(昭和9~11年平均)のわずか35%で、また諸外国と比較しても 第30図 の通りその回復は遥かに遅れている。このように輸出が伸び悩んだのは外需の減退にもよるが、一方国内購買力が増大したためである。
第30図 世界各国輸出数量(1953年)の対戦前及び対前年比
輸出の推移
昭和28年の輸出(通関実績)の推移をみると、一進一退で全般的には伸び悩み傾向を呈している。( 第31図 )すなわち従来のポンド地域の輸入制限に加えて27年上期に著増した鉄鋼、非鉄金属などが再び沈滞化したため同年下期以降輸出は減退傾向を示していたが、28年1月には8,000万ドルと過去2ヵ年間の最低を記録した。その後ドル(米国向け)及びオープン勘定地域(韓国向け)向け輸出が伸長したため、ポンド地域が引き続き不振に推移したにもかかわらず漸増傾向を示し、6月には1億1,000万ドルを超えた。しかし7月以降はドル地域が米国の買付け一服から減少し、またポンド地域も英国をはじめとする輸入制限緩和の影響があまりみられず上期の傾向をほぼ持ち越したので、オープン勘定地域がインドネシア、ブラジル向け輸出増を中心に一段と水準を高めたにもかかわらず、輸出総額としては再び頭打ちから減少傾向に転じた。ただ12月だけは季節的に船積が集中したため1億4,000万ドルに達し年初1月とは逆に26年末以降の最高を記録した。
なお29年に入って1月は9,000万ドル台に再び落ちたが、その後オープン勘定地域の引き続く堅調、ポンド地域向け繊維(綿織物、スフ織物)、機械などの増加を中心に若干好転している。しかし今後の推移については主要輸出商品である繊維、鉄鋼、非鉄金属などの契約状況などからみて楽観を許さないものがある。
輸出の実態
輸出の実態を物資別、地域別にみると、27年との間にかなり顕著な変化を生じている。すなわち物資別では、前年異常な伸長をなし第一位になった鉄鋼が半減し、綿織物が再び首位を回復した。
また地域別ではポンド地域が英連邦諸国の輸入制限から前年の6割に急減したのに対し、ドル地域は上期における米国(魚介類、雑貨)、リベリア(船舶)向け輸出好調から、またオープン勘定地域は主として韓国、インドネシアなど一部特定国向け輸出増からそれぞれ増加した。さらに内容に立ち入って主要商品の動きをみると、まず前年世界的軍拡及び米国鉄鋼ストにより異常に伸長し、輸出総額の2割以上を占めた鉄鋼が主要仕向先である米国、西欧、東南アジア諸国の需要減退に加え、価格割高、内需の旺盛などから再び半減し84万トンに止まった。
しかしこれに代わって従来我が国の輸出の大宗をなす綿織物がドル、オープン勘定両地域向けに倍増したため、ポンド地域が半減したにもかかわらず179百万ドル(914百万ヤード──世界第一位)と輸出総額の14%を占め再び首位を取り戻した。だが戦前に比べると数量ではまだ3割そこそこである。さらに仕向先別にみると、特にインドネシアは3億ヤード(27年は1億3000万ヤード)をこえる輸出をみたがこれは綿織物輸出総量の3分の1近くに当たっている。しかし同国に対しては我が国の一方的出超による債権累増から最近輸出調整措置がとられたので従来のような輸出好調は今後あまり期待できない。なお前年第一位であったパキスタンは極度の輸入制限のため前年の1億8000万ヤードから40万ヤード足らずに激減した。この結果日英両国のポンド地域向け綿織物の輸出割合をみると、英国は27年同様その輸出の7割強をポンド地域に輸出しているのに対し、日本は前年の7割から3割に激落し、他の2地域に市場転換がはかられている。しかし人造繊維織物はポンド地域向けが若干減少したものの依然全体の6割を占めており、またドル、オープン勘定両地域向け輸出も急増したため、3億8000万ヤード(27年は3億ヤード)と戦後の最高を記録した。また生糸は価格割高のため前年に比べ若干減少し、輸出市場としては三角貿易の盛行もあって従来のドル地域依存からオープン勘定地域へ大きく転換した。さらに機械は金額で約7割前年を上回ったが、これは船舶が顕著に増加したためである。すなわち船舶の輸出は296隻──96百万ドル(27年は414隻──11百万ドル)で、このうち大型船は28隻──93百万ドルである。なお国別ではリベリア向け12隻──49百万ドル、パナマ向け5隻──23百万ドルで、この二国で船舶輸出額の8割近くを占めている、なおこれら船舶の事実上の船主は米国会社であり、輸入税、国内税などの関係で両国向け輸出になっているものである。しかしこのような船舶輸出の好調は主として26年後半から27年にかけての契約急増によるものであり、今後の増加は期待薄となっている。その他食糧及び飲料は魚介類、小麦粉、茶などが増加したため前年より3割増加し、なかでも魚介類はまぐろが主として米国向けに増加し、戦後最高を示した。なお小麦粉の増加は韓国、台湾向け加工輸出によるものである。また化学肥料も倍増し、好調を示したが、これは、韓国、比島、台湾向けの輸出増によるものである。
次に地域別貿易の動向を27年と比較してみると、前にも述べたようにポンド地域はパキスタンの1億ドル減をはじめ英国、シンガポール、香港などほとんど軒並みに減少したため3億2,000万ドル(2億2,000万ドル減)となり輸出総額に対する比重は前年の42%から25%に急減し、28年を通ずる輸出伸び悩みの最大原因をつくった。
これに反しドル地域は主として上期の好調から9,000万ドル増加し輸出総額の38%を占め他の2地域を凌駕した。またオープン勘定地域はフランス、イタリア、スウェーデンなど西欧の一部を除き全般的に伸長した。特に韓国(人造繊維製品、化学肥料)、インドネシア(繊維製品、機械類)向け輸出は激増し、それぞれ1億ドルを超え、米国につぎ2、3位を占めた。しかし両国の対日債務が累積傾向にあるので今後にかなりの問題を残している。
さらに州別にみると、アジアが前年同様全体の51%と大半を占めている。これは東南アジア向けが減少したにもかかわらず近隣諸国、中近東向け輸出が伸長したためである。その他北中米(パナマ)、南米(アルゼンチン、ブラジル)アフリカ(リベリア)向けが増加したが、欧州(英国)大洋洲などは減少を示した。
近年の傾向
以上で28年中の輸出の動向を概観したが、ここでこの数年を通じての傾向のうち注目すべき点に若干ふれておこう。
その第一の点は日本の輸出構成が漸時重工業化の方向を辿っていることである。
すなわち、軽工業品は綿製品、生糸など輸出の主体をなす繊維製品(人造繊維を除く)の比重が25、6年当時に比べて著しく低下したため輸出総額の5割から4割とその比重を減じたが、重化学工業品は27年には鉄鋼が、また28年には人造繊維製品、機械などが著増したためその比重はかなり高められている。重化学工業品は外貨手取り率も高く、国際市場の需要の方向にも一致しているので、この比重が高まることは望ましいが、しかしこの1、2年の鉄鋼や船舶の輸出の増大は一時的な事情によるところが多く、価格も割高でなお問題を将来に残している。
第二の点はここ数年輸出量は微増に止まっているが、交易条件が好転を続けているので、日本がその輸出額によって輸入をする力(輸出購買力)は増大しているということである。輸出量がいくら増えてもあまり安売りをしたり、輸入商品の値が高くなったりして交易条件が悪くなっては輸入量を増すことはできない。また交易条件がよくなっても輸出量が減ってはやはり輸入力は増さない。ところが25年を基準としてみると28年には輸出数量も交易条件も共に19%上昇しており、従って日本の輸出購買力は40%以上増加している。この上昇率は西ドイツには劣るけれども英米仏のいずれよりも大である。( 第14表 )しかし輸出数量の増大を伴った交易条件の好転は、25年の輸出数量水準がいまだ低かったことと、その後の原料、製品の国際価格関係が日本に有利であったこと等によるところが多く、将来永続するかどうか疑問である。このような恵まれた事情が交易条件に生じなかったならば日本の国際収支の困難は一層大であったはずである。