むすび ― 経済自立への道
以上のべたように、現在わが国の経済水準は戰前(昭和九―一一年)に対して、貿易三割、鉱工業製品八割、農林水産九割の水準にあり、国民生活においてもなお戰前七割余の低位に止まる。しかもこの程度の回復すら、終戰以来本年六月まで累計一七億五千万ドルに対する巨額な外国援助に支えられて初めて可能となつたのであつて、昨年における輸入はその六割が援助資金によつて賄われていた。外国援助の役割は單に輸入資金の補填たるに止まらず、見返資金として、産業への直接投資分は設備資金供給の四分の一を担つており、鉄道、通信に対する投資、債務償還を通ずる間接投資をも考慮すれば資本蓄積におけるその役割は極めて大きい。しかるに最近の国際情勢のうごきに鑑みるにこの様に重要な意義をもつ外国援助も、今後年々急速に減額されることを覚悟せねばならない。
わが国がある程度の国民生活水準を維持しつつ、外国援助に依存せざる国際收支の均衡に到逹するためには年に十数億ドルの輸出規模を必要とすると推定される。このためには輸出を現在の規模の二倍以上に增加することが必要であり、鉱工業生産としてもこの輸出規模を支えるためにはその水準を大巾に引上げねばならない。もし近い將来にかかる経済水準の向上が実現出来ぬうちに、外国援助が打切られるならば、日本国民はその生活水準の停滯はおろか、切下げさえも余儀なくされるであろう。なお前述した経済諸部門における構造上の諸問題の多くが、経済水準の低さに由来することを考え合せるとき、日本経済はその水準の速かな引上を二重の意味において必要としているといえよう。
かくてわが国は今や国際経済社会への復帰、貿易の画期的振興、国土の開発保全、外資導入等の諸対策によつて、経済の発展的均衡に不可欠な海外および国内市場の拡大と、これを裏付ける生産力基盤の涵養すなわち資本の蓄積を一そう強力に促進すべき時期に直面している。われわれ日本国民は安定計画一年の教訓を身につけ、経済正常化の成果を踏切台として、さらに健全な基盤をもつた永続的な自立経済の逹成に向つて大いなる前進を遂げねばならない。