はしがき


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 前内閣は昨年七月四日経済実相報告書を発表し戰後のわが國経済が生産の異状な縮少と、インフレーションの進行によつて危機にひんしていることを明かにしたい。いらいすでに一〇カ月を経た。本報告書はその後の経過にもとずいて、わが國経済を回顧すると共に、今後の見透しについて展望を試みようとするものである。

 現在わが國経済を一〇カ月前にくらべると、國民生活は依然として苦しい状態にあるけれども國内における石炭の增産と、國際関係における連合國の對日援助の增加とを中心として、経済再建の見透しは著しく明るさを加えてきた。食糧事情の見透しも、國内における供出の完遂と、世界の食糧需給の好轉により、昨年よりはある程度改善される見込がある。さらにまた、物價の騰貴も昨秋いらい、ややその速度を弱め、インフレーションの破局化をさけ得る希望もうまれてきた。

 しかしなお一面において、戰爭によるわが國経済の荒廃は甚しく、また戰後の生産も貿易もインフレーションも、まだまだ困難な課題にみちみちているのであつて、経済的自立と繁栄の日までには、全國民をあげての多年にわたる努力奮闘が必要とされる。本報告書はわが國経済の実相を明かにし、國民諸君が現実の冷靜な認識の上に、それぞれの持場において、再建の歩を進められるための手がかりとしようとするものである。

 以下本文においては、先ず戰後の日本経済の基本的諸條件について主要な点を明かにし、ついで経済の現況を概觀したのち、生産、貿易、物價、財政金融、家計、その他の諸項目について現状を述べることとする。

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