海外経済報告(平成14年1月四半期報)

世界経済の概観

世界経済は、同時的に減速している。アメリカは、景気後退局面にあるものの底入れの兆しがみられる。ヨーロッパでは、景気の拡大テンポは鈍化している。アジアでは、景気は減速している。

主要経済指標

トピック:アルゼンチン-ペソ切り下げ-


1 南北アメリカ アメリカ、景気後退局面にあるものの底入れの兆しがみられる。

アメリカ

アメリカは、景気後退局面にあるものの底入れの兆しがみられる。

個人消費は、テロ事件以前にくらべて弱含みの基調にあるが、このところ消費者信頼感に持ち直しの動きがみられる。また、住宅投資は頭打ちとなっている。設備投資は引き続き大幅に減少しているが、非軍需資本財受注や企業の景況感に改善の動きがみられる。生産活動は停滞しているが、IT関連部門などで在庫調整が進んでいる。雇用は減少しており、失業率は上昇している。物価は、安定基調にあるなかで、このところエネルギー価格の下落を受けて下落している。

金融面の動向をみると、長期金利(10年物国債)は、11月中旬にアフガニスタン情勢を受けて大きく上昇し、その後も米国経済の早期回復期待などから上昇基調で推移した。株価(ダウ平均)は、11月にテロ事件前の水準にまで回復し、その後もおおむね上昇基調で推移した。

-最近のトピック-

・NBER(National Bureau of Economic Research:全米経済研究所)の景気循環日付判定委員会は11月26日、景気拡大のピークは2001年3月であったと確定し、その後、景気後退入りしたとの見解を発表した。

・連邦準備制度理事会(FRB)は、11月6日と12月11日の連邦公開市場委員会(FOMC)でそれぞれ0.50%ポイント、0.25%ポイントの利下げを実施し、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合をそれぞれ1.75%、1.25%とした。

カナダ

カナダでは、外需の減少が続く中で、個人消費や在庫投資も減少しており、景気は減速している。物価上昇率は、エネルギー価格下落などにより低下している。失業率は上昇している。

-最近のトピック-

カナダ中央銀行は、10月23日と11月27日にオーバーナイト金利の誘導目標水準をそれぞれ0.75%ポイント、0.50%ポイント引き下げ2.25%とした。

メキシコ

メキシコでは、輸出の減少や個人消費の伸びの鈍化などから景気は後退している。物価上昇率は低下している。

-最近のトピック-

メキシコ議会は1月1日、所得税率の段階的引き下げや贅沢品に対する増税などを含んだ税制改革法案を可決した。

ブラジル

ブラジルでは、電力危機の影響などによる生産の減少や個人消費の減少などにより、景気は減速している。物価上昇率はやや高まっている。

-最近のトピック-

ブラジル中銀は12月19日の金融政策委員会で、レアル安によるインフレ懸念やアルゼンチン情勢などを考慮し、政策金利(Selic)の誘導目標水準を19.0%に据え置いた。その結果、同水準での据え置きは5か月連続となった。


2 ヨーロッパ 景気の拡大テンポは鈍化している

(1)西ヨーロッパ

1)ユーロ圏

ユーロ圏では、景気は減速している。個人消費及び政府消費の伸びが鈍化し、固定投資は減少している。世界経済減速の影響で輸出が減少したものの、輸入の減少がこれを上回ったことから純輸出の寄与はプラスとなった。生産は減少している。失業率はほぼ横ばいで推移しており、消費者物価上昇率は低下している。

-最近のトピック-

・2002年1月1日からユーロ圏12か国(人口約3億人)において、ユーロ現金通貨(紙幣及び硬貨)の流通が開始された。新旧通貨切替のため150億枚以上のユーロ紙幣(6,300億ユーロ相当)及び500億枚以上のユーロ硬貨(160億ユーロ相当)が用意され、2001年末までに紙幣1,340億ユーロ及び硬貨124億ユーロが先行導入されたこともあり、ユーロ現金通貨の流通は予定通り進んでいる。

・欧州中央銀行(ECB)は、11月8日に政策金利(短期オペの最低入札金利)を0.50%ポイント引き下げ、3.25%とした。

ドイツ

ドイツでは、景気は減速している。消費は弱含んでいる。固定投資は低迷が続いているものの減少幅は縮小してきている。輸出が堅調な増加を示した一方、輸入が大幅に減少したことから、純輸出の寄与はプラスとなっている。生産は減少している。企業の景況感は低迷しているが、足許下げ止まりの動きがみられる。物価は安定している。失業率はほぼ横ばいで推移している。

-最近のトピック-

ドイツでは、2002年度の連邦予算案が12月20日、連邦参議院(上院)で可決された。歳出総額は2,475億ユーロ(2001年度実績見込2,439億ユーロの1.5%増)で、税収は1,992億ユーロ(同実績見込比1.3%増)を見込み、政府保有株の売却等により財政赤字は211億ユーロへと13億ユーロの減少(同0.5%減)を目指す等緊縮的な内容となっている。

フランス

フランスでは、景気の拡大テンポは鈍化している。個人消費は引き続き経済を牽引しているものの、輸出は減少し、固定投資は頭打ちとなっている。生産はこのところ減少している。失業率は上昇している。物価は安定している。

-最近のトピック-

フランス政府は、10月16日、景気刺激策として、特別減価償却等からなる「成長強化プラン」を発表した。また、12月19日、国民議会(下院)において、2002年度予算法案が可決された。

イタリア

イタリアでは、景気は減速している。世界経済の減速により外需が落ち込み、堅調だった個人消費の伸びも止まりほぼ横ばいとなっている。生産は減少している。失業率は低下している。消費者物価上昇率は低下している。

-最近のトピック-

ベルルスコーニ首相は経済情勢の悪化を受けて、12月5日、「安定と成長の協定」に基づき策定している財政健全化計画の目標時期の見直しについて言及した。

2)イギリス

イギリスでは、景気は緩やかに拡大している。固定投資は減少したが、個人消費が底堅く推移し景気の下支え役を果たしている。生産は、減少している。失業率は、低水準で推移している。物価は、安定している。

-最近のトピック-

・イングランド銀行は、11月8日に政策金利を0.50%ポイント引下げ、4.00%とした。

・ブラウン財務相は11月27日に予算編成方針(プレ・バジェット)を発表した。テロ対策関連支出の拡大や、企業向け課税軽減などを主な内容としている。

(2)ロシア

ロシアでは、個人消費の増加等により景気は拡大している。消費者物価上昇率は低下している。

-最近のトピック-

・12月31日、歳入2兆1,257億ルーブル、歳出1兆9,474億ルーブルで1,783億ルーブルの財政黒字を見込んだ2002年度予算案が、プーチン大統領により署名され、成立した。

・2002年1月1日より、法人利潤税率が引き下げられた。


3 アジア 景気は減速している。

中国

中国では、個人消費は堅調に推移しているが、輸出の伸びが鈍化していることから、景気の拡大テンポは鈍化している。

-最近のトピック-

中国は12月11日に世界貿易機関(WTO)に正式加盟した。国務院ではこれを受けて、2001年に15.3%であった平均関税率を2002年1月1日より12%に引き下げた。

香港

香港では、生産や輸出の減少に加え、民間消費の伸びが鈍化してきたことから、景気は減速している。

-最近のトピック-

香港金融管理局は11月7日、12月12日、各前日の米国の利下げに追随し、翌日物貸出金利をそれぞれ0.50%ポイント、0.25%ポイント引き下げ、3.25%とした。

韓国

韓国では、輸出が減少するなど、景気は減速しているが、消費の回復など明るい動きもみられる。 失業率は低水準で推移している。

-最近のトピック-

・11月5日、テロ事件後の支援策や公共事業費などからなる1.6兆ウォン規模の第二次補正予算が国会で可決した。

・11月20日、自動車などに対する特別消費税の引き下げが実施された。

台湾

台湾では、生産や輸出の減少が続いているなかで、消費の伸びも鈍化しており、景気は後退している。失業率は高水準で推移している。

-最近のトピック-

・台湾は1月1日、世界貿易機関(WTO)に正式加盟した。これに先がけて台湾当局は11月、対中投資規制の緩和策を発表した。

・中央銀行は公定歩合を、11月に0.25%ポイント、12月に0.125%ポイント引き下げ、2.125%とした。

シンガポール

シンガポールでは、生産や輸出の減少が続いているなかで、消費の伸びも鈍化しており、景気は後退している。失業率は上昇している。

-最近のトピック-

政府は10月中旬、113億シンガポール・ドル規模の景気刺激策を発表した。

インドネシア

インドネシアでは、景気の拡大テンポは鈍化している。消費者物価上昇率は高まっている。輸出は減少している。

-最近のトピック-

11月、世界銀行が主催する第11回インドネシア支援国会議が開催され、31億4000万ドルの支援が決定された。

タイ

タイでは、輸出の減少とそれに伴う製造業部門の減速に加え、消費の伸びも鈍化していることから、景気は減速している。

-最近のトピック-

中央銀行は、12月25日、政策金利であるレポ金利を0.25%ポイント引き下げて2.25%とした。

マレイシア

マレイシアでは、輸出の低迷による製造業部門の落込みから総固定資本形成が減少し、民間消費の伸びも鈍化していることから、景気は後退している。

-最近のトピック-

政府は10月、景気下支えのためのさらなる財政政策を盛り込んだ2002年度予算を発表した。

フィリピン

フィリピンでは、製造業生産の伸びが鈍化し、輸出が減少するなど、景気拡大のテンポは鈍化している。消費者物価上昇率は、このところ低下している。

-最近のトピック-

中央銀行は11月9日、12月7日及び同月14日と3回に渡り、政策金利である翌日物借入金利及び翌日物貸出金利を引き下げ、それぞれ7.75%及び10.0%とした。

インド

インドでは、鉱工業生産の伸びが鈍化し、輸出が減少するなど、景気の拡大テンポは鈍化している。

-最近のトピック-

準備銀行は10月22日、公定歩合を0.5%引き下げ6.5%とすると発表した。

オーストラリア

オーストラリアでは、個人消費や民間住宅投資が堅調に推移したことから、景気は回復している。失業率はほぼ横ばいで推移している。財貨・サービス税(GST)の影響が一巡したことから、消費者物価上昇率は低下している。

-最近のトピック-

準備銀行は12月5日に昨年6度目の利下げを行い、キャッシュレートの誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.25%とした。


4 国際金融・商品

国際金融

10~12月期の米ドルは、米経済の先行き懸念などから12月上旬と各月末に減価する場面もみられたものの、アフガニスタン情勢の早期解決への期待や米国経済の早期回復への期待などからおおむね増価基調で推移した。

対ユーロでは、米経済の先行き懸念などから減価する場面もみられたものの、欧州諸国の経済の先行き不透明感やアフガニスタン情勢などを受けておおむね増価基調で推移した。対円では、11月上旬にNAPM景況感指数や米失業率が予想以上に悪化したことなどを受けて一時減価したが、増価基調で推移した。

特に、12月中旬以降は、日本経済の見方に関連して円の下値を探る動きなどから大幅にドル高が進み、1月上旬には133円台となった。

-最近のトピック-

・アメリカでは、連邦準備制度理事会(FRB)が、11月6日と12月11日の連邦公開市場委員会(FOMC)でそれぞれ0.50%ポイント、0.25%ポイントの利下げを実施し、フェデラル・ファンド・レートの誘導目標水準と公定歩合をそれぞれ1.75%、1.25%とした。また、ユーロ圏では、欧州中央銀行(ECB)が、11月8日に0.50%ポイントの利下げを実施し、政策金利(短期オペの最低入札金利)を3.25%とした。

・アルゼンチンは、平成13年12月末に事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥り、本年1月6日に1ドル=1.4ペソに切り下げた上で、一部を変動為替相場とする二重為替相場制を採用することを発表した。これにより、91年4月から約11年間続いたカレンシー・ボード制は終わりを告げた。

国際商品

CRB商品先物指数(1967=100)は、景気減速による需要減退などから一時183ポイントまで下落したが、その後反発し190ポイント台を回復した。

原油価格は、需要減退観測などから下落していたが、OPECと非加盟国の協調減産を受けて反発した。

-最近のトピック-

OPECは非加盟国が協調減産を表明したことを受け、12月28日の会合で、1月1日より日量150万バレルを減産することで合意した。