第1章 日本経済の動向と課題(第1節)
第1節 2025年下期までの我が国経済の動向
1 GDP等の概観
(我が国経済は緩やかな景気回復が続く)
まず、マクロ経済の動向を概観するため、最近のGDPの動きを確認すると、2025年1-3月期の実質GDP成長率は、輸入が前期比増加したことで外需はマイナスに寄与したものの、個人消費や企業の設備投資が共に増加し、内需が大きくプラスに寄与したことで、前期比0.4%のプラス成長となった。次の4-6月期は、前期に引き続き個人消費と設備投資が共に前期比プラスであったことに加えて、前期にマイナスだった輸出が増加に転じ、外需もプラス寄与となったことにより、前期比0.5%と5四半期連続のプラス成長を記録した。他方、7-9月期の実質GDP成長率は前期比▲0.6%のマイナス成長となったが、その主な要因は2025年4月に施行された建築物省エネ法・建築基準法の改正に伴う駆け込み需要の反動の影響から住宅投資が大幅なマイナスとなったことや、米国の関税引上げ前に生じた駆け込み需要の反動減により米国向け輸出が大きく減少したことなど、景気の基調ではない一時的な要因と理解すべきものであり、7-9月期以降の月次統計の動きをみても、個人消費や設備投資は引き続き底堅い動きをしていることから、景気の緩やかな回復基調は維持されていると判断される(第1-1-1図(1))。
少し長い目でみると、2020年に生じたコロナ禍以降、財・サービスの輸出や企業の設備投資はGDP全体の伸びを上回って伸びており、景気をけん引してきた。個人消費もプラス基調を保っているものの、近年、物価上昇が続く中で、相対的にみれば回復のペースに遅れがみられる。内需の柱である個人消費の力強さを取り戻すことが、我が国経済の課題となっている(第1-1-1図(2))。
この間、名目成長率は、物価上昇が継続する下で、均してみれば前年比3%程度で伸びており、名目GDPの実額は、2025年7-9月期に年換算で約665兆円まで増加した。物価上昇の継続に伴い名目成長率と実質成長率のかい離も大きくなっていることは近年の特徴である(第1-1-1図(1))。各支出項目のデフレーターを比べてみると、特に個人消費支出デフレーターが大きく伸びており、この点は本章2節で詳しく述べる食料品などの身近な物の物価上昇の影響を大きく受けていると考えられる。

コラム1-1 実質GNIの動向について
ここで、対外面も考慮した実質ベースの国民所得を表す実質GNIの動向をみていこう。実質GNIは実質GDPに交易利得・損失1と海外からの所得の純受取を加えたものである。米国の関税措置についてみると、例えば自動車メーカーは、これまで輸出価格を下げることによって現地の販売価格を維持し、その値下げ分は自社メーカー内で損失として吸収することで対応してきたことがうかがわれ(本編にて後述)、これはGDP統計上、交易利得・損失を悪化させることになる。すなわち、実質GNI及び交易利得・損失の推移をみることにより、米国の追加関税を含めた対外関係が一国全体の所得にどの程度影響しているかを確認することができる。
この実質GNIの前期比をみると、全体として、このところ実質GDPよりも高い伸びで推移している。実質GNIの内訳のひとつである交易利得は、2024年4-6月期以降、2025年1-3月期を除き、前期比でプラスに寄与している。2025年1-3月期の交易利得・損失のマイナス寄与は、この期に原油価格が前期比で2%程度上昇したことが影響していると考えられる。自動車メーカーが北米向けの自動車の輸出価格を引き下げ始めたのは4月頃からであるが、2025年4-6月期の交易利得・損失は、原油価格が低下したことから、全体として前期比でプラス寄与となっている。7-9月期についても、交易利得は為替レートが対ドルで円安に振れたことなどからプラスに寄与しており、海外からの所得の純受取がプラス寄与となったこともあって、実質GDPがマイナス成長となる中でも、実質GNIはプラス成長となった。このように、対外関係の所得面への影響を全体としてみれば、米国の関税措置が下押しする一方、原油価格の下落など輸入物価の低下傾向がその影響を抑制したこともあり、一国全体の所得は堅調に推移してきたといえる(コラム1-1図(1)、(2))。

2.個別項目(輸出入、生産、企業収益、設備、雇用、消費)の動向
(米国関税措置の影響は米国向け財輸出を中心にみられている)
米国の関税措置が我が国経済に与える影響については、我が国の輸出等を通じた直接的な経路と、米国の幅広い関税措置が世界経済を下押しすることなどを通じた間接的な影響が考えられる。以下では、我が国への直接的な影響を中心に点検していく。
はじめに、我が国の財輸出の動向を確認する。輸出全体の20%程度を占める米国向けの輸出数量は、2024年初に発生した一部自動車メーカーによる認証不正問題の影響が緩和してきたことによる国内生産の回復や、米国市場における関税率引上げ前の自動車の駆け込み需要などを背景として、2025年に入ってから増加した。その後、米国の相互関税が課され始めた4月を境として駆け込み需要が剥落し、7月には輸出数量が大きく減少することとなった。その後、日米が関税交渉で合意し、新しい関税率が適用された9月には反転し始め、持ち直しの動きがみられている。この間、輸出全体の過半を占めるアジア向け、同10%程度を占めるEU向けを含め、世界全体への輸出は、2025年に入ってから全体として横ばい圏内の動きとなっている。(第1-1-2図(1))。
米国向け輸出の品目別の内訳をみると、2025年4月から25%の追加関税が課されてきた乗用車は、同年7月から大きな減少がみられた。乗用車は米国向け財輸出の約3割を占めており、乗用車の減少がこの間の米国向け輸出全体の減少を主導する形となった。その後、乗用車輸出も10月から増加に転じている。7月に自動車・同部品関税が計15%で合意に至り、9月の発効とともにその効果が徐々に表れてきているといえる(第1-1-2図(2))。
こうした米国向け乗用車輸出の先で、日系メーカーの米国内での自動車販売がどのように推移しているかをみると、2025年4月の関税引上げ前に駆け込み需要が発生した後、5月頃にはその影響のはく落が生じ、減少した。その後も一時的な増減はみられたものの、おおむね横ばい圏内で推移している(第1-1-2図(3))。輸出数量の減少を踏まえると、日系メーカーは、米国現地における在庫で販売に対応したり、現地生産体制でも生産可能な車種は現地生産の拡大などで対応したりしているものと考えられる。他方、大きく影響を受けているのは米国向け乗用車の輸出価格である(第1-1-2図(4))。財務省「貿易統計」で、1台当たりの輸出単価2をみると、7月にかけて前年同月比で約2割低下した後、8月には反転し、11月には前年同月比で約1割弱の低下となっている。貿易統計は車種構成の変化の影響も含むため、日本銀行「輸出物価指数」で、あらかじめ車種を特定した調査である北米向け乗用車の輸出物価(契約通貨建て)3をみると、8月にかけてこちらも前年同月比で約2割低下した後、10月には反転し、11月には前年同月比で約1割強の低下となっている。自動車関税が7月に計15%で合意し、9月に実施されたことなどもあって、夏場以降、乗用車の輸出価格が持ち直してきていることが見て取れる。こうした統計の動きから、日系メーカーはこれまでのところ、追加関税によるコスト増加に相当する分、輸出価格を引き下げて、現地の販売価格を維持し、コストを自社内で吸収することで対応してきたことがうかがわれる。日米関税交渉の合意に伴い、不透明感は一定程度和らいできたが、米国向け乗用車の輸出価格は、日系メーカーの売上や収益に直結する部分でもあり、輸出数量の動きとともに、価格転嫁の度合いなど今後の輸出価格の動向は我が国経済の今後の動向を考えるにあたっても重要な要素である。

次に、財輸入の動向をみていく。輸入は基本的に我が国の国内需要に応じて動くと考えられるが、表裏の動向として輸出とあわせて確認しておくこととしたい。輸入数量をみると、輸入全体の5割弱を占めるアジアからを含め、世界全体からの輸入は、2025年前半は総じて持ち直しの動きが続いてきた。年後半に入ると、輸入全体の2割強を占める中国からの輸入が前月比で減少し、アジアからの輸入全体でみても横ばいの動きとなった。一方、米国からの輸入は、年後半以降、持ち直しの動きがみられはじめている。この間、輸入全体の10%程度を占めるEUからの輸入は、おおむね横ばいの動きが続いている(第1-1-3図(1)①、②)。
品目別に特徴的な動きをみると、輸入全体の約3割を占める機械機器4については、シェアの大きいアジアからの輸入は、携帯電話などの電話機が2025年8月から前月比で減少傾向で推移しているものの、PC等の電算機類は増加傾向で推移している。また、自動車の輸入が最近増加しており、特に中国からのEV車などが寄与しているとみられる(第1-1-3図(1)③、(2))。輸入全体の約4分の1を占める鉱物性燃料は、省エネ志向の高まりもあり、輸入数量は横ばいで推移している(第1-1-3図(3))。輸入全体の約10%を占める食料品については、米国からの輸入がやや上昇しているものの、アジアやEUからの輸入は横ばいの動きであり、輸入全体でみても横ばいとなっている(第1-1-3図(4))。ただ、食料品については、このところ世界的に価格が上昇しており、為替の円安傾向の影響も加わって、国内の食料品価格上昇の一因となっている。この点は2節で詳述する。

最後に、サービス輸出入の動向についてもみていく。サービス輸出は、日本の輸出の約4分の1を占めているが、そのうちの約4分の1を旅行(海外からの訪日客による日本国内での支出、いわゆるインバウンド需要)が占めている。そのインバウンド需要は、2023年以降、堅調に推移しているが、2025年に入ってからは、訪日外客数の前年同月比の伸びがやや鈍化しており、インバウンド消費額も前年同期比の伸び幅はやや縮小している。2025年7-9月期の訪日外客数、インバウンド消費額の伸びが鈍化したのは、為替が一時期に比べると円高方向で推移したことが影響したほか、同時期に日本で大災害が起こるという風説が、香港地域などアジアの訪日客を中心に広がったこともあり、訪日が控えられたことが影響している。中国をはじめアジアからの訪日客は、全体の過半を占めており、その動向はインバウンド全体に一定の影響をもつことがうかがわれる(第1-1-4図(1)①、(2)、(3))。
サービス輸入については、最近の特徴として、日本人の海外旅行が徐々に回復しており、コロナ禍による旅行(アウトバウンド)の落ち込みがほぼ解消してきていることが挙げられる。他方、サービス輸入全体の動きを規定する「その他のサービス」のうち、デジタル関連サービスの輸入は全体として増加傾向にある(第1-1-4図(1)②、(4))。具体的には、専門・経営コンサルティング(インターネット広告等)、著作権等使用料(動画・音楽配信等)、通信・コンピュータ・情報(クラウドサービス等)の3つは、いずれも輸入が輸出を大きく上回っている。一般に「デジタル赤字」と総称されるこれら3つの赤字は、インバウンドによる旅行収支の黒字を大きく上回っており、結果として我が国のサービス輸出入の収支は赤字となっている。もっとも、アニメやゲームソフトなど日本のコンテンツ産業の海外輸出などによって、著作権等使用料や通信・コンピュータ・情報等のサービス輸出が伸びていることから、2023年以降、サービス収支の赤字幅は縮小傾向にある(第1-1-4図(5))。我が国コンテンツ産業の潜在力の高さは、サービス輸出拡大の面でも期待される。

コラム1-2 我が国の国際収支の動向について
本文では、輸出入の動向を、財とサービスに分けて確認してきた。ここでは、中長期的に我が国の経常収支全体がどのような動きとなっているかを確認しよう5。
まず、経常収支を、貿易収支・サービス収支・第一次所得収支・第二次所得収支に分けて観察すると、貿易収支は、2000年代までは黒字が続いていたものの、それ以降は2011年の東日本大震災後に発電に必要な鉱物性燃料の輸入が一時的に急増した局面など、赤字に転じる年も散見される。サービス収支は、一貫して赤字となっている。第一次所得収支は、大幅な黒字となっている(コラム1-2-1図)。

貿易収支の黒字が縮小し、又は赤字に転じたことの背景には、我が国輸出産業が、厳しい国際競争の中で思うように輸出価格を引き上げることができていないことがあるほか、2022年頃からは、ロシアのウクライナ侵略以降の世界的な資源価格の高騰に伴う輸入価格の上昇も影響しているとみられる。こうした下で、我が国の交易条件6は、総じて悪化傾向をたどっている(コラム1-2-2図(1)、(2))。この交易条件の悪化については、実質賃金の観点から、コラム1-5でも論じる。

サービス収支については、本編で述べた通り、受取、支払共に総じて増加傾向となる中、支払が受取を上回る状況が継続している(第1-1-4図(1)、(5))。いわゆるデジタル赤字がサービス収支赤字の主因となっているが、これはデジタル関連サービスにおいては、いわゆるビッグテックやGAFAMと呼ばれる米国を中心とした寡占企業のプレゼンスが大きく、我が国企業がデジタル化を進めるに当たってはそうした企業のサービスを輸入する必要がある構造になっていることが大きいと考えられる(コラム1-2-3図(1)、(2))。

第一次所得収支は、対外金融債権債務から生じる利子や配当金等が記録されるものであり、こちらは継続して大幅な黒字で推移している。要因としては、我が国金融機関が、国内金利が低い水準にとどまる中で対外証券投資を増やしたことや、非金融法人が対外直接投資を増加させたことが挙げられる(コラム1-2-4図)。

くわえて、外国株式を運用対象とする投資信託等を介して、家計も間接的に海外資産の保有を増やしていると考えられる(コラム1-2-5図(1)、(2))。

第二次所得収支には、国際機関への拠出金や、保険料、税金等の受払が計上されている。これは、我が国の保険会社が支払う再保険料の増加などもあって、赤字で推移している。
このような動きを背景として、2000年代初頭までは、貿易黒字と第一次所得収支の黒字によって経常黒字が構成されていたが、近年は専ら第一次所得収支が経常黒字の要因となっている。経常黒字の構成の変化は、古くは国際収支の発展段階説が議論されたように、それ自体が我が国の経済構造の変化を映じるものである。今後も、財・サービスの輸出入や所得収支の動向を丁寧に分析していくことが我が国経済の構造を理解するためにも重要である。
(生産全体は横ばい、自動車の生産は減少)
次に、国内生産の動向をみていく。まず、米国の関税措置の影響が相対的に大きい乗用車及び車体・自動車部品は、2025年7~9月期において大きく落ち込んだ。軸受など自動車関連部品についても、同様に大きく減少した後、持ち直している。この大幅な落ち込みの背景には、米国関税引上げに伴う駆込み需要の反動減といったことに加え、7月にロシア・カムチャツカ半島付近で発生した地震に伴う津波警報・生産休止の影響があったとみられ、その後は持ち直しに転じている。ただし、自動車メーカーによっては、現行生産体制でも可能なものは現地生産を拡大するなどの動きも出始めているとみられ、今後の国内生産の動向には注視が必要である。また、50%の高関税の対象となっている鉄鋼業については、2025年夏以降、幾分低下がみられるものの、我が国が輸出する鉄鋼製品が高付加価値でコモディティ化されず他国製品と競合しにくいこともあり、現時点では大きな落ち込みには至っていない。米国の関税措置を経ても、いずれも生産水準の大きな低下は生じていないことが分かる。(第1-1-5図(1)、(2))。
その他の主要品目をみると、生産用機械のうち、半導体製造装置は、いわゆる生成AIなどの世界的な半導体需要を背景に、生産水準はすう勢的にその他の品目と比べて高くなっている中で、2025年以降はおおむね横ばいとなっている。建設・鉱山機械は、2024年末までは米国住宅市場が冷え込む中で、下落傾向が続いていたものの、2025年入り後はデータセンター建設などの需要を受けて下げ止まり、直近はおおむね横ばいとなっている。産業用ロボットや金属加工機械は、2024年入り後から引き続き、中国市場における生産の持ち直しを背景に、やや上向きの動きとなっている(第1-1-5図(3))。業種によって動きに違いはあるものの、製造業の生産全体については、総じて横ばいの動きとなっている。
サービス業の生産についても確認すると、サービス産業の活動を示す第3次産業活動指数は、総じて緩やかな持ち直しが続いており、米国の関税措置の前後を問わず、堅調な推移となっている。サービス産業は我が国のGDPの7割程度を占めており、引き続きサービス業の堅調な動きが我が国経済の回復を支えていくことが期待される(第1-1-5図(4))。

(企業収益は非製造業はプラス、製造業は自動車が大きく減少)
次に、企業収益の動向をみていく。米国の関税措置は、自動車の対米輸出価格の低下等を通じて、企業収益にも影響を与えており、特にこの点も触れることとしたい。
まず、2025年1-3月期までは、経常利益7は、国内での価格転嫁の進展や、為替の円安傾向で輸出産業の業績が好調に推移したことなどを背景に、改善傾向を辿っていた。その後、4-6月期は、旺盛なインバウンド需要やデータセンター向け需要等に支えられて全産業および非製造業で過去最高益を記録したが、製造業では、4月に米国の関税措置が講じられた中、前年同期比で減益に転じた。7-9月期は、製造業においては前年同期比23.4%増加、非製造業においては17.6%増加となり、全産業では19.7%の増加となった(第1-1-6図(1))。直近の7-9月期について、規模別・業種別(大中堅・製造業、大中堅・非製造業、中小・製造業、中小・非製造業)に分けてみると、売上高は、大中堅・製造業においては、受注の堅調さや価格転嫁の進展に支えられて前年同期比で若干のプラスに寄与、大中堅・非製造業や中小・製造業においては、前年と同程度となっている。また、大中堅・非製造業や中小・製造業、中小・非製造業においては原材料価格や仕入コストの高騰の一服などを背景とした変動費の抑制が、利益を大きく押し上げていることが分かる。くわえて、大中堅・製造業においては、為替が円安方向で推移したことなどを背景に、営業外収益が増加し、利益を押し上げたことがみてとれる。一方、賃金が上昇していることなどを受けて、人件費は各規模・各業種を通じて利益を下押ししている。こうした下で、7-9月期の経常利益全体をみると、規模・業種を問わず、前年同期比プラスとなっており、7-9月期での過去最高益を更新した。このように、米国の関税措置が講じられる中でも、全体としてみれば企業収益は堅調に推移しているといえる(第1-1-6図(2)①~④)。
もっとも、米国の関税措置の影響は、製造業の中でもとりわけ自動車産業を中心にみられている。大・中堅企業においては、関税措置の影響があった2025年4-6月期、7-9月期の経常利益は前年同期比でいずれも大幅なマイナスとなっている。内訳をみると、特にロイヤリティなど海外現地法人とのやりとりが含まれる営業外収益や変動費の下押し幅が大きい。一方、中小企業については、収益の伸びはほぼゼロ近傍で推移しており、大・中堅企業のようなマイナスにはなっていない。米国の関税措置の影響は大企業を中心とする完成車メーカーが吸収しているとみられ、グループ内の部品メーカー等への価格低下圧力は現在のところ限定的となっていることが示唆される(第1-1-6図(2)⑤、⑥)。
この間の為替の動向をみると、実勢レートは150円台前半と、上場企業の輸出企業の採算レートの平均(130円程度)に比べて1~2割程度円安で推移しており、輸出企業にとっては、為替が増益に寄与する要因となっている。日銀短観における輸出企業の想定為替レートの平均については145円程度であり、現状の実勢レートは想定よりも円安であることから、完成車メーカーを含む輸出企業の収益にとって、現状の為替レートは収益確保のためのバッファーになっていると言える(第1-1-6図(3))。
ここで、自動車(大企業)の経常利益計画について、大きな負のショックがあった年度の過去の修正パターンを日銀短観で確認すると、今回の米国の関税措置がある中での修正率は、2020年度のコロナ禍や2008年度のリーマンショックよりは小さいものの、2019年度の米中貿易摩擦時と同程度となっている。最新の12月調査では、経常利益計画は前期から横ばいとなっており(第1-1-6図(4))、関税交渉が7月に合意し、不確実性が一定程度和らいだことや、2008年度後半に大きなストレス局面を迎えたリーマンショック時を除き、年度末に近づいた段階のデータである実績見込みや実績は下方修正されにくい傾向があることを踏まえると、これ以上に企業収益が大幅に悪化する可能性は低いと思われる。こうした点を踏まえると、これまでの米国の関税措置による自動車産業の収益悪化の度合いは、ある程度明らかになってきたと考えられる。ただし、現在課されている自動車関税15%は、追加関税前の税率2.5%に比べれば相当程度高いと言え、今後の自動車産業の収益等に与える影響には引き続き注視が必要である。

以上のように、米国の関税措置は自動車産業の大企業の収益を下押ししているものの、日米間の関税交渉の合意によって、その影響はある程度緩和されていることがみてとれる。また、米中間の関税についても、相互関税率を20%に引き下げる措置を2026年11月まで延長することが合意されるなど、米国の通商政策による先行きの不透明感は一定程度、緩和してきている。こうした動きを受けて、企業の景況感は、大企業では2025年7-9月期に回復し、直近10-12月期も改善傾向にある(第1-1-7図(1))。中小企業でも、景気認識は大企業と比べて悲観的となる傾向があるものの、足元では緩やかに回復してきている(第1-1-7図(2))。総じてみると、景況感は米国の関税措置等による落ち込みから回復してきているといえる。

(倒産件数は、2025年秋以降増加傾向も、大きな変調はみられない)
倒産件数をみると、足元でやや増加している。これは、人手不足を要因とする倒産8の増加傾向が反映されたものと考えられている(第1-1-8図(1))。中小企業の資金繰りDIをみても、全産業と非製造業は横ばい、米国の関税措置の影響を受けやすい製造業ではやや悪化しているものの、特段大きな変調がみられるわけではない(第1-1-8図(2))。ただし、米国の関税措置の影響が相対的に大きい自動車産業は、裾野の広い業種でもあるため、引き続きその動向を注視していく必要がある。

(設備投資は引き続き堅調、今後の投資意欲も旺盛)
次に、設備投資の動向をみていく。設備投資は、全体の半分弱を占める機械投資を中心に持ち直しの動きが続いている。名目額では2025年7-9月期で約124兆円となっており、これは過去最高水準である。実質でも緩やかな増加が続いており、2025年7-9月期は前期比マイナス0.2%になったものの、後述する積極的な設備投資計画をみる限り、先行きにおいて、大きく腰折れをする可能性は高くはないと考えられる(第1-1-9図(1)~(3))。

形態別にみていくと、まず機械投資については、各種の能力増強投資や、世界的な半導体需要への対応を背景に増勢が続いている。特に、2025年1-3月期においては、国内の先端半導体工場への半導体製造装置の搬入が機械投資の増加に大きく寄与した。機械投資の先行指標となる機械受注も引き続き高水準での推移が続いており、これらが今後設備投資として実現することが期待される(第1-1-10図(1))。
設備投資の約4分の1を占める建設投資は、出来高は横ばい傾向で推移している。一方、建築工事費予定額は、大型案件もあって、2025年前半に大きく増加したことに加え、手持ち高が積み上がってきている。これには建設業における人手不足やそれに伴う人件費の高騰、くわえて原材料費の上昇も影響しているとみられるが、今後は手持ち工事が徐々に実施されていくことで、設備投資の息の長い増勢に寄与すると考えられる(第1-1-10図(2))。
最後に、設備投資の約35%を占めるソフトウェア、研究開発(R&D)投資といった、いわゆる知的財産投資は堅調に推移している。ソフトウェアについては、人手不足を背景に省力化やデジタル化といった投資が堅調であると考えられる(第1-1-10図(3))。R&D投資については、2024年度の実績は前年度比17.6%増と2020年度以降、順調に増加しており、企業は高付加価値製品を生み出すために、研究開発という無形資産投資に取り組んでいることが背景にあると思われる。一方、研究開発投資のGDP比を約10年前と比べると、各国が着実に比率を伸ばしているのに対して、我が国はほぼ横ばいである(第1-1-10図(4)、(5))。我が国経済のイノベーションや生産性、ひいては潜在成長率の向上に向け、他国と劣後しない研究開発投資を進めていく必要があろう。

将来の設備投資を占う意味で、設備投資計画の動向を確認する。日銀短観によると、2025年度の設備投資計画は、12月時点では全規模全産業で前年度比+9.5%と、2023年度や2024年度の12月時点の伸びに比べるとやや鈍化しているものの、二桁に近い高い伸びを維持しており、引き続き企業の旺盛な設備投資意欲がうかがえる。米国の追加関税措置の影響が相対的に大きい自動車産業でみても、12月時点で前年度比+10.6%の伸びとなっている。こちらは2023年度の12月時点の伸びを上回っており、関税により企業収益が影響を受けているにも関わらず、高い設備投資意欲を維持していることが示唆される(第1-1-11図(1)、(2))。過去何らかの負のショックがあった際の設備投資計画と今回の計画の推移を示したのが、第1-1-11図(3)である。2008年のリーマンショック、2019年の米中貿易摩擦、2020年のコロナ禍を並べてみると、今回の計画の推移は、12月時点において、そのいずれの計画よりも上方に位置していることが分かる。前述したとおり、人手不足への対応を意図したソフトウェア投資の旺盛さなどもある中で、米国の関税措置が設備投資に与える影響は、これまでの計画でみる限りは、過去の大きな負の経済ショック時ほどではないことがうかがえる。相互関税率が15%となり、米国の通商政策を巡る不透明感が一定程度緩和されたことを踏まえると、今後の投資計画の着実な実行が期待される。

一方で、企業収益の変化が設備投資に及ぼす影響を時差相関係数で確認してみると、相関係数が最も高いのは非製造業で1四半期後であるのに対し、製造業では5四半期後、自動車産業に限定しても4四半期後となっている。製造業は非製造業と異なり、企業収益の変化が比較的ラグをもって設備投資に影響を与えやすい傾向があるといえる(第1-1-12図(1)、(2))。これについては、製造業の場合、非製造業と比べて大規模な投資が多いことが影響している可能性が考えられる。今回の米国関税措置の影響についても、引き続き注視が必要な状況である。

(雇用は引き続き堅調、人手不足感が広がる)
これまで確認した企業活動の状況を踏まえつつ、雇用動向を確認する。まず完全失業率について、2023年以降2.5%程度の水準で推移しており、特段の変調はみられない。就業率については、2023年以降、緩やかな上昇がみられ、2025年に入っても緩やかな上昇傾向を維持しており、こちらもこれまでのトレンドに変化はみられない(第1-1-13図(1))。
米国の通商政策の観点から、相対的にその影響が大きい自動車関連の求人動向をみると、ハローワークの輸送用機械器具の求人は、2025年後半にかけてやや大きめに低下する局面がみられた。有効求人全体が緩やかに減少する中で、特徴的な動きとなっている。民間職業紹介9の求人をみると、自動車・電気・電子・機械計においては、正社員、パート・アルバイト共に、2025年夏にかけて大きめに減少する局面がみられ、9月頃に下げ止まった後、持ち直してきている(第1-1-13図(2))。この求人は自動車の動きだけを取り出したものではないものの10、ハローワークの求人の動きとあわせてみれば、米国の通商政策をめぐる不透明感などから、自動車産業では新たな雇用を一旦止めていた可能性も考えられる。

他方、労働市場全体をみると、人手不足はますます強まっている。人手不足感を表す日銀短観の雇用人員判断DIは、製造業・非製造業共に大幅な不足超であり、特に非製造業ではバブル期以来、過去最高水準での人手不足感が続いている。最近では横ばい傾向となっているものの、すう勢的には高い水準での人手不足感となっていることに変わりはない(第1-1-14図(1))。
業種別の雇用人員判断DIをみても、全ての業種で不足超であるが、特に人手不足感が強いのは、製造業では食料品、非製造業では建設業や宿泊・飲食サービスとなっている。非製造業の人手不足にはいわゆる運輸業や建設業等の「2024年問題」や、旺盛なインバウンド需要が背景にあると考えられる(第1-1-14図(2)、(3))。
こうした人手不足感の高まりを反映して、いわゆるスポットワークアプリを通じた雇用は引き続き拡大している(第1-1-14図(4))。労働市場全体でみたシェアはまだ小さいながらも、人手不足に対応するための重要な採用経路になってきており、今後のスポットワークの拡大の動向が注目される。

(個人消費は引き続き緩やかに回復するも、力強さには欠ける状況)
次に、雇用と関連して、家計部門の消費の動向をみていく。はじめに確認したように、個人消費は2025年7-9月期まで3四半期連続のプラスとなっており、コロナ禍の落ち込みから緩やかな回復が続いている。もっとも、プラスではあるもののゼロ近傍の低い伸びが続いており、その回復に力強さを取り戻すには至っていない。家計最終消費支出の内訳をみると、自動車や家電等、消費全体の約7%を占める耐久財は、上下の振れがやや大きいものの、2024年後半以降で、実質GDPに対する前期比寄与度はプラスが続いていたが、2025年7-9月期では、自動車の消費が減り、実質GDPに対する寄与度はマイナスとなっている。耐久財と同じく、消費の約7%を占める衣服など半耐久財、食料品や光熱費など同30%弱を占める非耐久財は、2025年に入ってマイナスないしゼロ近傍での推移が続いている。これらは生活に身近な品目であることから、物価高が相対的に大きく影響している可能性がある。消費の50%台半ばを占めるサービスについては、形態別消費の中で最もシェアが大きいものの、足下では、全体として増加にさほど寄与していない状況が続いている(第1-1-15図(1)、(2))。

こうした個人消費、特に食料品を始めとする非耐久財の動向に影響を及ぼしていると考えられるのが、消費者マインド(消費者態度指数)と予想物価上昇率である。2024年秋頃から、主に米価格の急騰を受けて、予想物価上昇率が上昇し、それと逆相関する形で、米国の関税措置なども相まって、消費者マインドは悪化してきた。米価格の上昇がひと頃よりは落ち着いてきたことなどを背景に、予想物価上昇率は2025年4月をピークに低下し、7月の日米間の関税交渉の合意などもあって、消費者マインドも改善してきていることが分かる。消費者マインドの個人消費への影響をみると11、第2四半期から第3四半期まで実質家計消費を有意に押し上げていることから、今後、消費者マインド改善の効果が実質家計消費にも波及していくことが期待される(第1-1-16図(1)、(2))。

ここで、非耐久財に注目すると、食料品価格の高い上昇率が続いていることから、食料品支出は名目で大きく伸びている一方、実質では減少傾向が続いている。こうした状況から、物価高が継続する中で、人々は統計で観測される平均的な価格より安い価格の食料品を購入するという節約行動をとっていると考えられる。例えば、スーパーマーケットよりも価格水準が安いドラッグストアの前年同月比の売上高の伸びは、スーパーマーケットやコンビニよりも一貫して高く、逆に価格水準が高い百貨店の売上高は2024年から前年比マイナスで推移している。こうした傾向からも人々の消費行動が節約する方向へと変化していることがうかがえる((第1-1-17図(1)~(4))。

次に耐久財について、代表的な品目をみると、自動車は、2024年に入って一部自動車メーカーの認証不正問題の影響で、新車自動車販売台数が大きく落ち込んだものの、その後は振れを伴いながらも30~35万台前後の水準を回復してきた。その間、米国向け自動車輸出が落ち込む中でも、国内販売は特段の影響を受けていないことが確認できる(第1-1-18図(1))。家電については、テレビやエアコンなど主要な19品目12が横ばいの動きとなる中、携帯電話はすう勢的に増加傾向となっている。エアコンも堅調に推移しており、特に人口が密集する東京都が新制度として2024年10月に開始した東京ゼロエミポイント事業13の影響もあり、エアコンの買い替え需要が発生しやすい2025年夏前にかけて大きく伸びた。その後反動減が生じたものの、同年8月末の同施策の拡充により再び東京エリアで販売額が増加しているなど、堅調な動きが続いている。また、最近になって大きく伸びているのが、ゲーム機本体とパソコンである。ゲーム機本体については、2025年6月に発売された新機種の販売が大きく伸びており、その後、若干の低下はみられるものの高水準で推移している。パソコンについては、OSシステムに対する無償サポートが2025年10月に終了することを受けて、パソコンの大型の買い替え需要が同年夏頃から生じている。パソコンなどは単価が高額であるため、その後もボーナスなどを利用した買い替えが続いているとみられる(第1-1-18図(2))。

消費の過半を占めるサービスについて、代表例である旅行と外食の動きを確認していこう。旅行はコロナ禍からの落ち込みを経て持ち直している。宿泊売上(単価×宿泊者数)をみると、物価高による節約行動が続いている影響で、日本人宿泊者数の寄与は小さいものの、外国人宿泊者数はインバウンド需要に支えられ2019年同月比でプラス寄与が続いている。また、特に寄与が大きいのが単価であり、インバウンド需要の増加に加えて、宿泊業の人手不足を背景とした供給制約によって、需給がひっ迫していることが単価を押し上げているものと考えられる(第1-1-19図(1))。外食についても、宿泊に比べれば緩やかではあるものの、コロナ禍を経て売上高(名目支出金額)の増加が続いている。利用客数が緩やかに持ち直している中で、客単価が上昇していることが相対的に大きく寄与している。物価高により節約志向が強まることで、客数の増勢が抑えられる一方、単価が押し上げられることで、売上増に結び付いている構図が見て取れる(第1-1-19図(2))。

(住宅投資は弱含みの動きが続くも、金利上昇の目立った影響はみられず)
次に、住宅投資の動向をみていく。新設住宅着工戸数をみると、2025年4月に改正建築物省エネ法等14が施行されたことに伴い、同年4月を境に着工の駆け込み需要と反動減がみられた。その後の回復は緩やかなものとなっており、法改正の影響を除いたとしても、基調として弱含みの傾向が続いている。住宅投資の弱含みの背景には、住宅価格の高騰や共同住宅(マンション)建設における用地取得の難しさなどの構造的要因が寄与しているとみられる。持家、分譲、貸家の形態別にみると、いずれも法改正の影響が大きいことには変わりはないが、比較的価格の高い持家において、ここ数年すう勢的に需要が弱く、持家の取得をためらう層の需要シフトによって、持家より安価な分譲戸建住宅や貸家の需要が比較的底堅いことが分かる(第1-1-20図(1))。建設工事費デフレーターをみると、原材料価格の高騰に加え、人手不足に伴う人件費の上昇が顕著となっており(第1-1-20図(2))、価格高騰による住宅投資の弱含みは、今後もある程度継続する可能性がある。人口動態の構造的な変化もあり、住宅着工戸数が法改正前の水準を回復するのにどの程度の期間を要するのか楽観できない状況にあると考えられる。
また、日本銀行は2025年12月に政策金利である短期金利(無担保コールレート(オーバーナイト物))の誘導目標を、これまでの「0.5%」から「0.75%」に引き上げた15。こうした利上げの影響により、変動金利や10年固定型金利など、住宅ローン金利が上昇している状況にあるが、個人向け住宅ローンの資金需要判断DIをみると、足元まで金利引き上げによって大きな変調が起きている様子はなく、今後の動向に注視が必要であるものの、住宅投資需要への影響の顕在化はみられていない(第1-1-20図(3)、(4))。一方、既往の住宅ローンについては、近年多くの人が変動金利型を選択しているが16、年代別の貯蓄高と住宅・土地のための負債をみると、20代や30代など子育て世帯において、貯蓄よりも負債が大きい状況にある(第1-1-20図(5))。こうした世代にとっては変動金利の上昇による住宅ローン等の家計の負担増が、預金金利の上昇による資産増加の効果を上回るため、年代によって資産・負債状況が異なることを念頭においたきめ細かな対応が重要といえる。

改正建築基準法:省エネ基準への適合や、省エネ化に伴い重量化している建築物に対する構造安全性の基準への適合を、審査プロセスを通じて確実に担保するため、木造建築物の審査・検査の対象を拡大(対象外とするものは、都市計画区域等の区域外の平屋かつ延べ面積200m2以下の建築物とする(改正前は2階以下かつ延べ面積500m2以下の建築物))。