「日本経済レポート(2024年度版)」刊行にあたって
内閣府政策統括官(経済財政分析担当)は、毎年夏の「年次経済財政報告(経済財政白書)」公表後の経済状況に関する分析を行い、「日本経済レポート」として公表しています。今回のレポートでは、2024年の我が国の経済・物価動向を振り返るとともに、個人消費の回復と賃金の持続的上昇に向けた課題、企業の倒産・起業に係る現状と課題について分析を行いました。
第1章では、マクロ経済の動向を概観するとともに、デフレ脱却に向けた現在地を確認しています。企業部門の堅調さが継続し、家計部門も実質所得が増加に転じるなど、日本経済は緩やかな回復を続けています。ただし、今後は、中国など海外経済の下振れを通じた影響に加え、2018年以降の米中貿易摩擦が我が国製造業の輸出・生産を下押しした経験に鑑みれば、通商政策を含む米国の政策動向とその影響に十分留意する必要があります。デフレ脱却に向けた歩みは、賃金と物価が共に据え置きで動かない状況が変化し、着実に進んでいます。ただし、デフレに後戻りしないかどうかについては、物価の基調やマクロ的な物価変動要因だけでなく、賃金上昇の持続性、人件費を含む企業の価格転嫁、物価上昇の広がり、各経済主体の予想物価上昇率等のミクロ的な背景を含め、総合的かつ慎重に判断していく必要があります。
第2章では、個人消費の伸びが力強さを欠く背景や、賃金上昇の持続性に係る分析を行っています。日本の家計の平均消費性向は、共働き世帯の増加の影響もあって、2010年代前半以降低下傾向にあります。さらに、最近の消費性向の低下には、一部の家計は賃金・所得の増加を恒常的なものとは捉えていないこと、食料品など身近な物価の上昇が消費意欲を下押ししていること、いわゆる長生きリスクなど老後への不安が貯蓄志向を高めていること等の要因が複合的に影響しています。現役世代の消費回復のためには、2%程度の安定的な物価上昇と、これを持続的に上回る賃金上昇の継続が重要と考えられます。賃金については、現在と同様に人手不足感が強かった2010年代後半と比べ、潜在的な労働供給余地の減少や転職市場のDXも含めた発展もあって、企業の賃金設定行動が変容し、賃金上昇の持続性が高まりつつあると分析しています。
第3章は、企業の倒産と起業に係る現状と課題を分析しています。資金繰りにおける大企業と中小企業の差は、過去30年で最も小さくなっていますが、輸入物価上昇に伴う仕入価格上昇を背景に業種間のばらつきが大きくなっています。大・中堅企業、中小企業ともに利益率のばらつきも大きくなっています。賃金と物価が共に上昇する経済に移行していく中では、価格転嫁の円滑化や省力化・デジタル投資の促進、経営基盤の強化に資する事業承継・M&Aの支援等が重要です。一方、参入面の起業動向をみると、日本の起業率は国際的に低いものの、新たなビッグデータから推計した近年の起業率は緩やかな上昇傾向にあります。起業後の経営状況が良好な企業は、起業時の設備投資や、起業後の人への投資等に積極的であることも分かりました。
一昨年(2023年)、名目GDP(米ドル換算)は、人口規模が3分の2のドイツが日本を上回り、日本は世界第4位になりました。その背景には、円安の進行に加え、日本の潜在成長率が20年以上の長きにわたって1%以下ないしゼロ%台半ばにとどまってきたことがあります。この現実を直視し、潜在成長率の向上に真正面から取り組むことが今後の持続的な成長の基盤を築く上で不可欠と考えます。
日本経済は、四半世紀続いた、賃金も価格も据え置きで動かないという凍りついた状況が変化し、賃金と価格をシグナルとして労働や資本が動くという、市場経済が本来持っているダイナミズムを取り戻しつつあります。このダイナミズムを復活させ、十二分に活かすこと、そしてそのための環境整備こそが、潜在成長率の向上、ひいては日本経済の持続的成長のために重要と考えます。
本報告の分析が日本経済の現状と課題に係る認識を深める上での一助となれば幸いです。
令和7年2月
内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
林 伴子
※本報告の本文は、原則として2025年1月31日までに入手したデータに基づいている。