第1章 マクロ経済の動向
我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により2020年4-6月期を底として大幅に落ち込んだ後、感染症の再拡大やそれに伴う緊急事態宣言・まん延防止等重点措置等の影響により振れを伴いながらも、徐々に経済社会活動の正常化が進んだ。この間、2022年2月にはロシアによるウクライナ侵略があり、また米欧におけるコロナ禍からの回復もあって、世界的な物価上昇が生じ、我が国においても40年ぶりの物価上昇などマクロ経済環境の大きな変化が生じた。2023年5月には、新型コロナの感染症法上の位置付けが5類感染症に移行し、景気の自律的な循環を制約してきた要因は解消された1。こうした中、春闘における30年ぶりの高い賃上げや企業の高い投資意欲など、我が国経済には前向きな動きがみられており、四半世紀の間達成し得なかったデフレからの脱却に向けた千載一遇のチャンスが到来している。
一方、企業の業況や収益の改善が続いているものの、その好調さが、必ずしも十分に賃金や投資に回っておらず、内需は力強さを欠いている。また、先行きのリスク要因をみると、海外景気の下振れリスク等には注意が必要な状況にある。さらに、令和6年能登半島地震の経済に与える影響に十分留意する必要がある。本章では、第1節で、主として2023年以降の我が国のマクロ経済の動向を振り返るとともに、個人消費の持続的な回復に向けた課題を検討する。第2節では、直近までの物価の動向やその背景を分析し、我が国経済にとって長年の桎梏であるデフレからの脱却に向けた現状と課題を整理する。
1 新型コロナウイルス感染症に関する最初の事例報告から5類移行に至るまでの主だった動きについては、付図1-1に年表としてまとめている。なお、感染症法における感染症の類型は1類~5類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症があり、5類は季節性のインフルエンザなどが相当する。新型コロナは新型インフルエンザ等感染症に位置付けられていたが、5類に移行したことで、政府として一律に日常における基本的感染対策を求めることはなくなり、感染症法に基づく新型コロナ陽性者及び濃厚接触者の外出自粛も求められなくなるなどの変更がなされた。