「日本経済レポート(2023年度版)」刊行にあたって

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内閣府政策統括官(経済財政分析担当)は、2004年12月以降、毎年「日本経済」シリーズを公表し、「年次経済財政報告(経済財政白書)」後の日本経済の現状に関する分析を提供しています。今回の報告書では、コロナ禍からの回復を果たした2023年の日本経済の動向を振り返るとともに、過去四半世紀にわたる日本経済の課題であるデフレ脱却に向けた展望と、潜在成長率の引上げに向けた労働供給や設備投資の拡大に係る課題の分析を行いました。

第1章では、マクロ経済の動向を概観しています。2023年の日本経済は、コロナ禍を乗り越え、緩やかな回復基調を取り戻しました。ただし、業況や収益など企業部門は好調である一方、これが賃金や投資に十分に結び付かず、内需は力強さを欠いています。個人消費は、コロナ禍で積み上がった超過貯蓄が高所得層を中心に本格的には取り崩されていないことも力強さを欠く一因となっており、賃金の継続的な上昇等を通じた将来の成長期待の引上げが重要と言えます。デフレ脱却に向けては、デフレに後戻りする見込みがないことを確認するため、賃金の上昇、人件費等の適切な価格転嫁、物価上昇の広がり、予想物価上昇率等を総合的に点検していく必要があります。

第2章では、人口減少による労働投入面からの潜在成長率の下押し圧力をいかに緩和できるかについて分析しています。2010年代半ば以降、女性や高齢者の労働参加の拡大により、生産年齢人口が減少する中でも就業者数は増加してきましたが、今後は、就業時間を増やして働き、収入を得たいという潜在的な希望の実現を後押しすることがより重要です。このため、子どもを持つ非正規雇用者の女性等へのリ・スキリング支援の充実、副業を柔軟に実施しやすい環境の整備、最低賃金の引上げの中で就業調整が行われることがないような制度の構築等が必要となります。最低賃金に関しては、物価や賃金が上昇することがノルムとなる中で、物価上昇に機動的に対応できる設定の在り方を検討することも重要です。

第3章では、企業の収益や投資、マークアップ率の動向を分析し、潜在成長率を引き上げる観点から、今後の投資拡大に向けた課題を考察しています。我が国の企業部門は、過去四半世紀にわたり、収益増加に比して賃金や投資を抑制することにより、貯蓄超過主体であり続けました。また、アメリカ企業と比べると、研究開発等の無形資産投資が量・質ともに十分でなく、賃上げや設備投資の源泉となる価格設定力を高めることができていません。企業部門が総じて好調である今こそ、こうした状況を脱し、投資の拡大を起点に、生産性の向上やイノベーションにつなげ、更なる収益力の向上と成長を生み出す構造に転換する好機です。無形資産を含む国内投資への後押しと、投資の成果の社会実装を促進する取組が重要です。

本報告書の分析が日本経済の現状に対する認識を深め、その先行きを考える上での一助となれば幸いです。

令和6年2月

内閣府政策統括官
(経済財政分析担当)
林 伴子

※本報告の本文は、原則として2024年1月23日までに入手したデータに基づいている。

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