付注2-4 傾向スコアマッチングによる転職効果の分析について

1 概要

転職が賃金の伸びに与える影響を評価するために、ある年tに転職した者について、転職前の職場からの賃金のみから成るt-1年の賃金と、転職後の職場からの賃金のみから成るt+1年の賃金を比較する。また、その際定期昇給等のトレンドを除いて評価するために、傾向スコアを用いてマッチングを行った同期間について転職を行っていない者の賃金の変動と比較して分析した。

2 データ

2015年から2021年までの状況について毎年調査を実施している、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」の調査票データを用いて検証した。

3 推計方法

本分析では、環境改善を目的とした自発的な転職(例えば賃金や労働条件等に関する不満・不安に起因する転職)を実施した者1における、転職に伴う賃金の変動について、傾向スコアマッチングを用い、非転職者からサンプリングした群との比較を通じて、ATTAverage Treatment effect for the Treated。処置群における、処置の因果効果の平均値)を求めた2

(1)マッチングの方法

マッチングについては、性別、年齢、年齢の二乗項、居住地、企業規模、従事している職の産業を説明変数として、転職の有無に関してロジスティック回帰することで個人の傾向スコアを求め、そのスコアに基づきマッチングされた全てのペアに関して平均絶対距離が最も小さくなるよう「最適ペアマッチング」を行った。なお、企業規模及び産業については、転職者は前職に準ずる。

(2)ATTの推計方法

雇用者iのt年の賃金をwi,tとしたとき、転職年がt年であったときの転職に伴う賃金の変動を、転職前年から翌年にかけての2年間累計の賃金変化率として、以下のように定義する3

付注2-4 数式を画像化したもの

このアウトカムΔwi,tについて、転職者とマッチングされた非転職者からなるデータセットを用いて、以下の式により、ATT(ここではβ1)を推計した。

付注2-4 数式を画像化したもの

4 記述統計

付注2-4 表を画像化したもの

5 マッチングしたサンプルを用いた転職効果の推計結果

付注2-4 表を画像化したもの

1 本分析では、調査において、調査実施年の前年に仕事を辞めた・退職しており、かつ、新たに仕事に就いた、前職も現職も正規雇用である者のうち、主な離職理由が①賃金への不満、②労働条件や勤務地への不満、③会社の将来性や雇用安定性への不安のいずれかである者を環境改善を目的とした転職者とした。
2 賃金の変動(推計に用いる2年累計変化)について、上下2.5%分位点で超える変動を示す期間を異常値として除いている。
3 転職年の賃金には、前職の職場の賃金と、現職の職場の賃金が共に含まれていると考えられるほか、入社初年度はボーナスが支給されていない事例があることなども踏まえ、ここでは転職前年と転職翌年の賃金水準を比較している。そのため、前年・翌年の賃金データが利用可能な2016年から2020年の転職者が分析対象である。