付注1-2 為替レートに対する弾性値の推計について

1 概要

為替レートの変化が経常収支に与える短期的な影響を試算するため、輸出金額・輸入金額・所得収支・サービス受取・サービス支払の、為替レートに対する弾性値を推計した。輸出金額・輸入金額については、数量要因・価格要因に分解したうえで分析を行った。

2 データ

財務省「貿易統計」、日本銀行「実効為替レート(名目・実質)」、「企業物価指数」、財務省・日本銀行「国際収支統計」、内閣府「景気動向指数」、CPB“Netherlands Bureau for Economic Policy and Analysis”

3 推計方法

輸出数量、輸出価格、輸入数量(鉱物性燃料)、輸入価格(鉱物性燃料)、輸入数量(鉱物性燃料除く)、輸入価格(鉱物性燃料除く)、所得収支、サービス受取、サービス支払それぞれについて、以下の推計式を用いて回帰分析を行った。推計に用いる変数は、ダミー変数を除き全て2015年を100とした指数の後方3か月移動平均とし、輸出入の数量指数・価格指数はいずれも内閣府による季節調整値を採用している。なお、輸出数量と輸入数量のコロナダミーの設定期間が異なるが、輸出数量は世界的な需要の減少と我が国の緊急事態宣言の影響を受ける一方、輸入数量については中国において2020年2月から世界に先行して実施されたロックダウンの影響が強く出ていることを反映したものである。

また、今回の推計の目的は為替レートの変動に対する各被説明変数の短期的(1四半期以内)な弾性値を試算することであり、例えば輸出数量の変化に与え得る我が国の輸出財の競争力の変化や、時間経過を伴って生じる数量の反応(いわゆるJカーブ効果)は推計式では考慮されていない。推計期間の設定に当たっては、リーマンショック後の貿易収支がおおむね均衡するようになった期間のみを対象としており、コロナ禍も含まれている。そのため、円安によって契約通貨ベースでみれば、相対的に低価格で輸出できることで生じる輸出数量増加に関する弾性値は、コロナ禍における部品供給制約によって低く出ている可能性がある点には留意が必要である。

(1)輸出数量

Δln(EQI)=α×Δln(WIQ)+β×Δln(REER)+γ×dummy(lehman)+ε×dummy(sinsai)+μ×dummy(corona)

EQI:輸出数量指数、WIQ:世界の輸入数量、REER:実質実効為替レート、dummy(lehman):リーマンダミー(2009年1~3月=1、その他=0)、dummy(sinsai):震災ダミー(2011年3~5月=1、その他=0)、dummy(corona):コロナダミー(2020年4~6月=1、その他=0)

(2)輸出価格

Δln(EUV)=α×Δln(EPIC)+β×Δln(NEER

EUV:輸出価格指数、EPIC:輸出物価指数(契約通貨ベース)、NEER:名目実効為替レート

(3)輸入数量(鉱物性燃料)

Δln(IQIF)=α×Δln(CI)+β×Δln(IUVF

IQIF:輸入数量指数(鉱物性燃料)、CI:景気動向指数(一致指数)、IUVF:輸入価格指数(鉱物性燃料)

(4)輸入数量(鉱物性燃料除く)

Δln(IQINF)=α×Δln(CI)+β×Δln(IUVNF)+γ×dummy(corona)

IQINF:輸入数量指数(鉱物性燃料除く)、CI:景気動向指数(一致指数)、IUVNF:輸入価格指数(鉱物性燃料除く)、dummy(conora):コロナダミー(2020年2~3月=-1、2020年4~5月=1、その他=0)

(5)輸入価格(鉱物性燃料除く)

Δln(IUVNF)=α×Δln(IPIC)+β×Δln(NEER

IUVNF:輸入価格指数(鉱物性燃料除く)、IPIC:輸入物価指数(契約通貨ベース)、NEER:名目実効為替レート

(6)所得収支

ln(IB)=c+α×ln(NEER)+β×time

IB:所得収支、NEER:名目実効為替レート、time:時間トレンド

(7)サービス受取

Δln(SG)=α×Δln(WIQ)+β×Δln(NEER)+γ×dummy(corona)

SG:サービス受取、WIQ:世界の輸入数量、NEER:名目実効為替レート、dummy(corona):コロナダミー(2020年2~4月=1、その他=0)

(8)サービス支払

Δln(SP)=α×Δln(CI)+β×Δln(NEER

SP:サービス支払、CI:景気動向指数(一致指数)、NEER:名目実効為替レート

4 推計期間

2009年1月~2022年9月

5 推計結果

付注1-2 表を画像化したもの

6 為替レートに対する弾性値

付注1-2 表を画像化したもの