第2章 新たな産業変化への対応(第3節)

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第3節 まとめ

近年IoTやビックデータ、AI、ロボットなどに代表される第4次産業革命が世界的に進展しており、近い将来、生産や消費といった経済活動だけでなく、働き方などライフスタイルも含めて経済社会の在り方が大きく変化しようとしている。日本経済にとっては、こうした新たな産業革命をいち早く取り込んでいくことにより、国民生活の豊かさを向上させつつ、生産性を飛躍的に高め、潜在成長力を強化する大きな可能性が存在している。

しかし、我が国企業や政府の対応は諸外国に比べ遅れており、例えばIoT導入状況やフィンテックへの投資額をみても、アメリカやドイツと日本の差は顕著であり、このままでは差が拡大してしまう可能性が高い。

こうした対応の遅れの背景には、我が国企業が抱える構造的な問題も考えられる。第4次産業革命の果実を享受できるか否かは以下のような課題を迅速に解決できるかどうかに左右される。

まず、我が国企業のR&D投資がTFPの向上に結びついていないことである。この背景にはR&Dが新事業よりも既存事業の改良に注力していることや、硬直的なR&Dへの配分、OIへの取組が低調であることなどが挙げられる。政府としても、企業にR&Dを促すような先端技術を要求する仕様で政府調達を行うよう努力するほか、OIを推進できるよう、企業や大学など様々な組織を超えて研究開発に従事できるような、副業や兼業、転職などを認める多様で柔軟な働き方の整備や、世界水準の報酬・制度・生活環境により世界中からトップ人材等を集める研究開発・実証拠点の形成などが重要である。

第二に、我が国企業のICTへの適応に遅れがみられることである。この背景には、ICT導入に伴い、その効果を高め得る分権的な組織構造への変革を行う企業が我が国では少なかったことや、導入するITに対応するための従業員の能力開発が不十分であったことなどが挙げられる。第4次産業革命はICTの延長線にある技術革新であるため、こうした課題を解決することが重要である。

第三に、イノベーションを支える人材が少ないことである。IoTやAIの導入により雇用が減少する懸念を指摘する向きもあるが、例えば、近年の情報サービス業においては、継続的に新しいサービスが生まれるプロダクト・イノベーションにより、需要飽和は観察されず、雇用も継続的に増加している。こうしたプロダクト・イノベーションを絶えず生み出していける人材を育てていくことが雇用を増加させる点でも重要である。政府も率先して、科学技術を支える研究者の育成に加え、様々な分野で、必要なスキルを習得できるような能力開発支援の拡大が重要である。

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