むすび

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(2016年の日本経済の現況)

日本経済は、雇用・所得環境の改善が進む中で、緩やかな回復基調が続いている。こうした回復基調の背景には、二つの好循環がみられる。

第一は、海外経済の緩やかな回復を起点とした好循環である。2016年後半には、資源価格が安定し、為替レートの円高方向の動きが一服する中で、海外経済の回復を背景に、電子部品デバイスや自動車等を中心に、日本の輸出や生産が持ち直しており、企業の業況判断も改善している。

第二は、国内の労働市場の改善を起点とする好循環である。雇用・所得環境については、有効求人倍率が上昇し、失業率がさらに低下しているほか、総雇用者所得も増加しており、引き続き改善が続いている。こうした中で、個人消費についても、天候等の一時的な下押し要因が弱まる中で、持ち直しの動きがみられている。

このようにマクロ経済環境が改善する中で、今後、景気回復がどの程度力強さを増していくかは、個人消費の持ち直しの持続性や民間設備投資の回復に依存している。個人消費については、これまで賃金等の所得の伸びに比べて可処分所得の伸びが緩やかであったことや、特に若年層で所得の伸びに消費が追いついていない状況がみられた。ただし、今後については、雇用所得環境の改善が続く中で、賃金上昇にも持続性がみられることから、消費も所得の伸びに沿って持ち直していくことが期待される。民間設備投資については、2016年に入ってから持ち直しの動きに足踏みがみられたが、これは海外経済の弱さや為替市場の変動等を背景に、企業マインドに慎重さがみられた影響が大きいものと考えられ、今後については、製造業での海外への生産拠点の移転などの下押し要因が弱まる中で、新製品開発など未来に向けた前向きな投資が予定されており、回復に向かうことが期待される。

このように、日本経済の先行きについては、緩やかに回復していくことが期待されるが、リスクとしては、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。

(物価と賃金の動向)

物価の動向については、デフレ脱却への動きが続いているものの、2016年に入ってから、原油価格の下落や為替レートの円高方向への動き等により、消費者物価総合はやや下落し、基調を示すコアコアでみて横ばいの動きとなっている。ただし、原油価格の下落や為替レートの動向といった外生的な要因による押下げの影響を除いてみれば、財・サービスのうち価格が上昇している品目の割合は高まっており、デフレ脱却に向けた動きは続いている。特に、賃金の上昇を反映してサービス価格は上昇している。

デフレからの脱却を展望する上で重要な鍵を握るのは、賃金上昇の継続性である。賃金の上昇は、ラグを伴うものの、コスト面から消費者物価を上昇させる効果を持っている。デフレ脱却のためには、3年連続で2%程度と高い伸びとなった賃金上昇を、今後4巡目、5巡目と続けていくことが重要である。また、最低賃金の引上げは、最低賃金近辺での賃金の底上げに加え、それ以上の賃金階層についても一定の押上げ効果を持っている。今後さらに賃金上昇の動きを広げていくためには、同時に企業の生産性向上を一層強く推進していくことも重要である。

(少子高齢化と労働市場)

今回の景気回復局面では、過去の景気回復期と比べても、失業率や有効求人倍率といった労働市場関連指標が相対的に大きく改善している。この背景としては、人口減少や高齢化による生産年齢人口の減少が労働需給を引き締める方向に作用している面があるが、最近では女性や高齢者を中心にした労働参加率の上昇によって、そうした人口動態の影響が緩和されている。他方で、短時間労働者の増加もあって、マンアワーでみた総労働供給の伸びは緩やかなものとなっており、また、労働生産性の伸びも低下傾向にある。このように、労働供給制約の影響は一部に顕在化しつつあり、今後の経済成長のためには、さらに労働参加を高めつつも、労働移動の円滑化やイノベーションをもたらす外国高度人材の活躍に向けた対応などを含めた取組が重要である。

(先進技術とその活用、生産性向上に向けた取組)

第4次産業革命がもたらす技術革新の影響は、生産や消費といった経済活動だけでなく、働き方などライフスタイルも含めて経済社会の在り方を大きく変化させる可能性がある。日本経済にとっては、こうした新たな産業変化をいち早く取り込むことにより、国民の豊かさを向上させつつ、生産性を飛躍的に高め、潜在成長力を強化する大きな可能性が存在している。

日本経済が、こうした新たな産業革命に適合し、世界をリードしていくためには、いくつかの課題を克服する必要がある。具体的には、第一に、企業のR&D投資の資金配分の硬直性を見直すことや、オープンイノベーションと呼ばれる企業や大学など様々な組織を超えた研究開発の機会を広げることが必要である。加えて、政府も先端技術の採用を促すような政府調達の在り方を検討する必要がある。第二に、第4次産業革命の前提ともなるICTへの適用を進めるため、企業の組織構造をより分権的なものとするような取組が重要である。第三に、イノベーションを支える人材の育成や、副業や転職などを認める多様で柔軟な働き方の実現が重要である。

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