第3章

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第1節 我が国の対外的な稼ぎ方の変化と稼ぐ力の検証

本節では、我が国の対外的な稼ぐ力を、付加価値を生み出す力と定義した上で検証する。具体的には、我が国の経常収支の各項目の推移を概観し、我が国経済の稼ぎ方がどのように変化しているのかを確認した後、財の輸出、対外直接投資、インバウンド消費の順に、我が国が実際に対外関係で稼ぐことができているのかを、主に国際比較によって検証する。

1 我が国の稼ぎ方の変化

まず、我が国の稼ぎ方の変化について確認するため、経常収支の受取について各項目の変化をみてみよう。

(我が国では、第一次所得やサービスの受取が増加)

我が国の経常収支について、受取側の推移を対GDP比でみると、まず、全体としては、リーマンショックが発生した2008年度から2009年度にかけて一時的な落ち込みをみせたものの、特に2013年度以降は上昇しており、我が国の経済活動における対外関係の重要度が増してきていることが分かる(第3-1-1図別ウィンドウで開きます(1))。2000年度と2014年度の比較でみると、経常収支の受取全体は、対GDP比で1.8倍に増加している中で、輸出は1.6倍、第一次所得の受取は2.2倍、サービスの受取は2.5倍にそれぞれ増加しており、第一次所得やサービスの受取の伸びが財輸出の伸びを上回る形で上昇してきている。各項目が経常収支の受取に占めるシェアについては、2000年度は輸出が70.4%、第一次所得の受取が17.6%、サービスの受取が11.0%であったのに対し、2014年度には、それぞれ62.1%、21.6%、14.8%となっており、受取総額のうち、第一次所得やサービスの受取のシェアが拡大している。それぞれの拡大の背景としては、第一次所得の受取は、海外進出等による直接投資収益の高まり(第3-1-1図別ウィンドウで開きます(2))、サービスの受取については、経済のサービス化、特許使用料の受取の増加や、特に最近では、訪日外客数の増加によるインバウンド消費の高まり等が考えられる。こうした経常収支の動きは、我が国の対外的な稼ぎ方に生じた変化を表していると考えられるが、実際に我が国は対外的な関係において効果的に稼ぐことができているといえるのだろうか。

2 輸出の稼ぐ力の検証

経常収支の受取のうち、まずは、最も規模の大きい輸出の稼ぐ力について検証する。本項では、輸出の稼ぐ力を、輸出のうち自国内で生み出した付加価値という観点から検証する。

(輸出の稼ぐ力を測る上では、自国内で生み出した付加価値が重要)

本節冒頭で触れたとおり、我が国の財の輸出は増加している。一方で、世界の財の輸出金額の合計に占める我が国の輸出のシェアは、2000年時点で7.5%であったが、リーマンショック後の2009年には4.7%まで低下した。その後、世界の輸出が持ち直す中でも、我が国のシェアは緩やかな低下傾向が続き、2013年には3.9%まで低下している。こうした輸出シェアの低下は、生産拠点の海外移転やアジア新興国等の追い上げを背景として、他の先進国でも同様にみられている。それでは、輸出額や世界貿易に占める輸出シェアは輸出による稼ぐ力を適切に表しているのであろうか。

世界の貿易量は世界のGDPを上回る伸びとなっており(第3-1-2図別ウィンドウで開きます)、世界中で複数国に跨って財やサービスの供給・調達を行ういわゆるグローバル・バリュー・チェーン(以下、本章において「GVC」という。)の深化を示している1別ウィンドウで開きます。企業が生産工程の最適化を図るために、GVCへの参画を進めると、各国の輸出に占める海外からの素原材料や中間財の投入量の割合が上昇し、輸出のうち各国が国内で生み出した付加価値は減少することになる。輸出の稼ぐ力をみる場合は、中間財等の輸入によって海外が生み出した付加価値を除いた上で、各国がそれぞれ、実際に自国内でどの程度の付加価値を生み出し稼いでいるのか、という視点が重要である。

一方で、現行の国民経済計算や国際収支統計の枠組みにおいては、輸出額には海外が生み出した付加価値もあわせて計上されることになる(第3-1-3図別ウィンドウで開きます)。例えば、A国が国内で生産した付加価値aの中間財をB国に対して輸出し、B国が当該中間財を加工して新たにbの付加価値を加えて最終財をC国に輸出するという枠組みを考えた場合、A国からB国への輸出はaとなるものの、B国からC国への輸出は実際にB国が生み出した付加価値であるbではなく、a+bとして計上される。つまり、現行の統計の枠組みでみた場合、中間財を輸入して組立を行い、最終財を輸出するという、いわゆる加工貿易を主として行っている国の輸出額は相対的に大きくなる。

こうした観点から、本項では、OECDとWTOが共同で作成・公表している付加価値ベースの貿易額(Trade in Value Added、以下、本章において「TiVA」という。)等を用い、我が国の輸出の稼ぐ力について、実際に我が国が国内で生み出した付加価値の額に着目して検証する。

(我が国の輸出は国内で生み出した付加価値ベースでみても拡大傾向)

まず、我が国の付加価値ベースの輸出の推移を確認すると、輸出総額、国内で生み出された付加価値(以下、「国内付加価値」という。)、海外で生み出された中間財等による付加価値(以下、「海外付加価値」という。)のいずれも増加傾向にある。我が国の稼ぐ力という観点からは、このうち、国内付加価値が重要であるが、国内付加価値については対GDP比でみても増加傾向にある(第3-1-4図別ウィンドウで開きます(1))。一方、国内付加価値と海外付加価値の上昇率を比較すると後者が高く、輸出に占める国内付加価値の比率は低くなっている。こうした国内付加価値比率の低下傾向は、世界でGVCへの参画が進む中、TiVAベースでみても、他の多くの先進国で確認されているが、他国との比較でみると、我が国の輸出総額に占める国内付加価値の比率は高い水準にあり、特に、重要な鉱物資源を保有する資源国を除くと最も高くなっている2別ウィンドウで開きます第3-1-4図別ウィンドウで開きます(2))。これらの結果からは、我が国は、相対的に高い国内付加価値比率を維持しつつ、国内付加価値を増やしているということがいえよう。

ただし、稼ぐ力を考える上では、輸出に占める国内付加価値が増加しているかに加え、世界の需要の伸びに対して我が国がより多くの付加価値を提供できているか、という点が重要と考えられる。例えば、ある財に対する世界の需要が高まり、当該財について各国が輸出を飛躍的に伸ばす中で、我が国の輸出の伸びが各国の伸びに比べて低い場合は、我が国は、当該財への需要の高まりという機会を十分にいかしているとはいえず、稼ぐことができているという評価を下すことは困難であろう。また、新興国の台頭により、先進国が全体として輸出を減らしている中で、我が国が輸出量を維持しているような財については、我が国は比較的稼ぐことができていると考えられよう。こうした観点から、世界の輸出に占める我が国の国内付加価値のシェアの過去からの推移をみて、我が国が稼ぐ力を発揮できているかを確認する。

(第一次金属及び金属製品などで世界の輸出に占めるシェアの縮小幅が抑制)

まず、製造業について、世界全体で輸出された財の付加価値に占める我が国のシェアをみると、1995年には11.7%であったが、その後、企業の海外進出や中国等の新興国が台頭する中で縮小傾向にあり、2011年には7.6%になっている3別ウィンドウで開きます第3-1-5図別ウィンドウで開きます)。また、NAFTAやEU等、我が国以外の先進国も同様にシェアが縮小する傾向がみられる。

次に、業種別にみると、ほぼ全ての業種で我が国を含めた先進国のシェアは縮小していることが分かる。特に、電気及び光学機器については縮小幅が大きく、その一方で中国等の新興国のシェアが大きく拡大している。電気及び光学機器以外の業種については、先進国全体のシェアの縮小幅は相対的に小さくなっており、我が国の状況をみると、鉄鋼などの第一次金属及び金属製品や化学品及び非金属鉱物で相対的にシェアの縮小が抑制されていることが分かる。我が国でシェアを落としている業種については、電気及び光学機器と輸送用機器が挙げられるが、特に電気及び光学機器で縮小幅が大きくなっていることが分かる。

(我が国では、数量ではなく、財の高付加価値化がシェア縮小の抑制につながる傾向)

全世界から輸出された財の付加価値に占める先進国のシェアは縮小していることを確認したが、こうした中で、我が国のシェアの縮小が相対的に抑制されている分野についてはどのような特徴があるだろうか。付加価値を増やすためには、輸出する財の数量を増やすか、財一単位当たりの国内付加価値を向上させるかのいずれかが必要となる。そこで、まず業種ごとの国内付加価値総額と数量の関係を確認する。すると、各業種で国内付加価値が増加する中、数量については、2000年から2011年にかけて、微減となっている電気及び光学機器を除き全ての業種でおおむね横ばいもしくは微増となっており、業種ごとの付加価値の増加の要因は、ほぼ財一単位当たりの国内付加価値の増加によって実現されている(第3-1-6図別ウィンドウで開きます)。前掲第3-1-5図別ウィンドウで開きますと比較するとシェアの縮小が抑制されていた第一次金属及び金属製品のような業種については、財一単位当たりの国内付加価値の増加幅が大きく、電気及び光学機器のようにシェアを落としていた業種については、財一単位当たりの国内付加価値の増加幅が小さくなっており、高付加価値化がシェアの縮小の抑制につながる傾向がみられる。

(輸出による稼ぐ力を高めていくには、高い付加価値の創造が重要)

それでは、我が国で高い付加価値を生み出していくためには何が必要なのであろうか。前項の結果を踏まえると、価格競争に服しやすく標準化度合いの高い量産型の財と差別化を図るため、高付加価値で競争力の高い財を提供することが重要であると考えられる。そこで、業種ごとの技術の国際競争力について、技術輸出と技術輸入4別ウィンドウで開きますの金額により特化係数を作成して確認すると5別ウィンドウで開きます、第一次金属及び金属製品の中で最もシェアが大きい鉄鋼業などで高い数値を示しており、技術の国際競争力を保持していることが分かる(第3-1-7図別ウィンドウで開きます)。

それでは、高い国際競争力を保持する分野では、具体的にどのような製品が輸出されているのであろうか。ここでは鉄鋼業を例にとって確認する。鉄鋼は、大きく、普通鋼と、普通鋼よりも硬度や耐熱性が高い等、高性能な特殊鋼に分類されるが、近年、鉄鋼業では、輸出に占める特殊鋼の割合が高まっており6別ウィンドウで開きます、これが鉄鋼業分野における国内付加価値及び財の高付加価値化に寄与している可能性が指摘できる。また、特殊鋼は、例えば自動車のエンジン部品や駆動部品等に使用されるものであり、こうした世界で一定水準の需要が見込まれる製品の部材については、世界からの安定的な需要が見込まれると考えられる。このように、GVCが深化する中でも、鉄鋼業については高度な技術を保持し、そうした技術を要求される財に特化する形で、付加価値の高い財の提供を可能とし、シェアを維持しているということが考えらえる。

以上のとおり、新興国が台頭する中、先進国の輸出に占めるシェアが縮小しており、価格競争に服しやすく標準化度合いの高い量産型の財では稼ぐことが困難になっていると考えられる。我が国についても、数量を増やすことによって輸出で付加価値を稼ぐという方法よりも、輸出される財一単位あたりの国内付加価値を高めることによって、稼ぐ力を保持していると考えられる。我が国で輸出によって付加価値を稼いでいる分野としては第一次金属及び金属製品などが挙げられるが、こうした分野では高い付加価値を生み出すための技術の国際競争力も高く、それが輸出財の競争力の維持と稼ぐ力につながっている。今後とも、輸出の稼ぐ力を高めていくため、技術の向上やサービスの投入7別ウィンドウで開きますによって付加価値の高い財を生み出していくことが期待される。

3 対外直接投資の動向と稼ぐ力の検証

本項では、我が国の経常収支の受取の中でも、特にシェアの高まりをみせている第一次所得の受取について取り上げる。まず、第一次所得の受取の推移について概観した後、特に対外直接投資に焦点を当て、その稼ぐ力を、投入した資本からいかに効率的にリターンを得られているかという観点から直接投資収益率に着目し、主にアメリカとの比較から検証する。

(我が国の第一次所得の受取は対外直接投資収益に支えられ増加傾向)

第一次所得の受取の内訳は、大きく雇用者報酬と、投資収益、及びその他8別ウィンドウで開きますの3つに分かれる。雇用者報酬については、海外の企業と雇用関係にある個人が労働の対価として得た報酬を計上するものであるが、投資収益は、海外への直接投資の結果として積みあがった資産から生じる収益を計上する直接投資収益と、外国債や海外企業からの債券利子、配当金のうち、直接投資収益に該当しないものを計上する証券投資収益、及びその他投資収益9別ウィンドウで開きますに分かれる。2014年の第一次所得の受取に占める割合をみると、直接投資収益が36.1%、証券投資収益が58.9%と両者で全体の9割以上を占めている。

我が国の第一次所得の受取の動きをみると、リーマンショック後、円高方向への動きに伴い企業が海外生産の拡大を進める中で、2010年を底に増加している(第3-1-8図別ウィンドウで開きます)。特に、2012年秋以降は円安方向への動きが進み、そこから得られる収益の円建て評価額が膨らんだことが、増加に寄与していると考えられる。次に内訳をみると、第一次所得の受取の大部分は米国債等の証券投資から得られる証券投資収益であったものの、GVCの構築が進む中で、2000年代半ばから直接投資収益のシェアが拡大傾向にあり、2014年には受取全体の3分の1程度を占めるなど、直接投資収益の役割が高まっていることが分かる。また、直接投資については、証券投資に比べて収益率が高いことから(第3-1-9図別ウィンドウで開きます)、そのリスクを踏まえつつ、直接投資の割合を高めることによって第一次所得の稼ぐ力を高めていくことも可能であると考えられる。そこで、本項では、直接投資収益に絞って稼ぐ力を検証する。

(我が国の直接投資収益率はアメリカや英国に比べると低い)

まず、我が国の直接投資収益の対GDP比を他国と比較すると、アメリカ、英国、ドイツといった他の先進国よりも相対的に低い水準にあることが分かる(第3-1-10図別ウィンドウで開きます(1))。これは、歴史的に古くから対外直接投資を行ってきたアメリカや英国に比べ、我が国では直接投資収益の源泉となる直接投資残高が少なく、またその対GDP比が低いことが背景にある(第3-1-10図別ウィンドウで開きます(2)、(3))。源泉となる残高が低ければ、そこから得られる収益が少なくなるのは当然の帰結であるが、直接投資残高や収益の多寡は各国の稼ぎ方の違いであり、特に、GVCの深化に伴い、輸出から直接投資への稼ぎ方の変化がみられる中で、直接投資の残高や毎年の収益額によって稼ぐ力を一概に評価するのは難しい。そこで本項では、投入した資本からいかに効率的にリターンを得られているかで直接投資収益による稼ぐ力を検証する。具体的には、我が国の直接投資収益を直接投資残高で除した直接投資収益率を各国と比較することとしたい。

我が国の直接投資収益率を2010年から2013年までの平均でみると、ドイツよりは高く、主要先進国の中では中位にあり、直接投資による稼ぐ力としては一定程度の成果を上げていると評価できるものの、アメリカや英国よりは低い水準にとどまっている(第3-1-10図別ウィンドウで開きます(4))。そこで、我が国の対外直接投資による稼ぐ力について、特に直接投資収益率が高いアメリカとの比較を中心に確認することにより、稼ぐ力の検証を深めるとともに、収益率向上に向けた課題について検証する。

(我が国の直接投資収益率は、新興国・資源国への投資の拡大により上昇)

我が国とアメリカの対外直接投資の残高と収益率の違いを、それぞれの投資先を地域別に分けて、過去からの変化も含めてみてみよう。

まず、我が国の直接投資残高をみると、そのシェアは、2000年代前半は、北米向けが44.1%で最も高く、EU向けの24.7%、アジア・大洋州向けの22.8%と続いており、2000年代前半までは北米を筆頭にEU、アジアを中心として直接投資を行ってきたことが分かる(第3-1-11図別ウィンドウで開きます)。一方で2010年代前半をみると、直接投資残高のシェアは、北米向けは低下、アジア向けや中南米・大洋州向けは上昇しており、近年は新興国・資源国を対象とした投資を積極的に行ってきたことが分かる。この間、それぞれの地域ごとの収益率については、アジア・大洋州やEUで上昇がみられたものの、その他の地域では上昇はみられない。直接投資収益率は全体としては5.2%から6.2%へと上昇しているが、これは、主に相対的に収益率の高い地域へ投資が拡大された結果であると考えられる。

次に、アメリカについて確認すると、直接投資収益率は、全体では2000年代前半から2010年代前半にかけて9.4%から10.3%へと上昇している。この間、直接投資残高については、地域ごとのシェアには大きな変化はみられず、一方で、収益率については、多くの地域において上昇しており、アメリカは収益率の高い地域への投資の拡大というよりも、各地域の収益率が上昇したことにより、全体の収益率が上昇したことが分かる。

このように我が国とアメリカを比較すると、両国ともに直接投資収益率は過去に比べると上昇傾向にあり、稼ぐ力自体は向上していると評価できよう。ただし、我が国の収益率上昇の要因は、収益率の高い地域への投資が拡大した結果である一方で、アメリカの収益率上昇の要因は、地域ごとの収益率上昇であった。収益率の高い地域への投資は、海外とともに成長するという、いわゆるグローバル化によるメリットをいかしたものであると考えられる。しかしながら、アジアや資源国に対する投資は、収益率は高いものの、同時にリスクも高くなる傾向がある10別ウィンドウで開きます

以上を踏まえると、我が国は、収益率の高い地域への投資により直接投資の稼ぐ力を高め、他の先進国と比べても一定程度の成果を上げていると考えられるものの、アメリカのように地域ごとの収益率を上げることにより、対外直接投資全体の収益率の向上を図ることが今後の課題であると考えられる。

(直接投資収益率の向上には海外投資に関する経験の蓄積が重要)

それでは、我が国が今後、直接投資収益率を高めるためにどのような取組を行うべきかを考えてみよう。我が国の直接投資収益率について、2010年から2014年までの平均をみると、全ての地域でアメリカが我が国よりも高くなっている(前掲第3-1-11図別ウィンドウで開きます)。また、業種ごとに我が国とアメリカの直接投資収益率を確認すると11別ウィンドウで開きます第3-1-12図別ウィンドウで開きます)、ほぼ全ての業種でアメリカが我が国を上回っている。このように我が国とアメリカで対外直接投資収益率の差が生じる背景については、先行研究では、海外投資に関する経験の蓄積による差や、海外への企業の進出形態の違いなどが指摘されている12別ウィンドウで開きます

海外投資に関する経験については、長年にわたり対外直接投資を行っているような企業については、過去からの経験の蓄積等によって収益率が向上している可能性がある。海外への企業の進出形態については、我が国の企業は、我が国の生産方式等をいかすために新たに投資先国に法人を設立する、いわゆるグリーンフィールド投資が中心であったのに対し、米国の企業は企業買収の形での進出を行ってきたことが挙げられる(第3-1-13図別ウィンドウで開きます)。

すなわち、アメリカは、我が国に比べ、過去から直接投資を行ってきた経験が蓄積されていることに加え、企業買収による直接投資を進めることで、既存の経営資源を利用しているということである。ただし、特に近年の傾向をみると、我が国の直接投資に占めるグリーンフィールド投資の割合が低下し、アメリカとの差も縮小してきている。こうした動きは、近年の我が国の直接投資収益率の上昇に寄与している可能性がある。ただし、例えば企業買収を行うにしても、買収先企業との企業文化の違い等もあり他国では成功した事例でも、実際に我が国で成功するとは限らないことに留意が必要である。海外とともに成長するという観点は重要であるが、それに伴うリスクも同時に存在する。こうしたリスクを減らすのは、先に述べた経験であり、またリスクを管理できる人材であると考えられる13別ウィンドウで開きます

4 インバウンド消費の現状と訪日外客数のポテンシャル

本項では、旅行収支が黒字となる中、サービスに関する稼ぐ力として注目されるインバウンド消費の現状を確認するとともに、インバウンド消費拡大の背景となる訪日外客数のポテンシャルについて検証する。

(インバウンド消費は訪日外客数の増加などを背景に拡大)

我が国の経常収支の受取のうち、サービスの受取が占めるシェアは高まっていることは先に述べたとおりである(前掲第3-1-1図別ウィンドウで開きます)。サービス収支は、特許の使用などの非居住者と居住者間のサービスのやり取りや、ある国の居住者が他国を訪問中に取得した財貨・サービスの支払(いわゆるインバウンド消費)などが計上されるが、我が国のサービス収支の受取が近年増加している背景には、インバウンド消費の拡大が挙げられる。インバウンド消費は、2013年は前年比30.4%増の1兆4,167億円、2014年は同43.1%増の2兆278億円と拡大しており、2015年7-9月期は四半期では過去最高となる1兆円を超える水準となっている14別ウィンドウで開きます第3-1-14図別ウィンドウで開きます)。インバウンド消費拡大の要因には、訪日外客数の増加に加え、旅行者一人当たりの消費額の増加があるが、特に、訪日外客数については、2014年には1,341万人に達し、2年連続で過去最高水準を更新、さらに2015年については、10月時点で1,631万人に達しており、3年連続で過去最高水準を更新している。こうした中、インバウンド消費は、その規模こそ輸出や直接投資に比べ小さいものの、急速に拡大しており、我が国の稼ぎ方の一つとしてその存在感を高めているといえよう。また、訪日外客が国内各地方を訪問することによるインバウンド消費は直接的に地域経済に裨益することから、地方経済の活性化の観点からも重要である。そこで、本項ではインバウンド消費の稼ぐ力について、特に訪日外客数のポテンシャルに着目して検証したい。

(訪日外客数は近年高い水準にあるが、今後も拡大する余地は大きい)

我が国に限らず、外客数については、出発元の国の人口や所得水準といった状況に加え、為替水準や文化的な違いなど様々な影響を受けることが想定されるが、基本的には、外客数は受入国及び出発国の人口や経済規模が大きいほど増え、距離が遠いほど小さくなることが予想される。この関係を組み込んだモデル式は、2つの物質の質量と距離が重力に及ぼす関係になぞらえて「グラビティモデル」と呼ばれる。本項では、グラビティモデルを推計し、得られた訪日外客数の推計値を潜在的な訪日外客数として実績値との比較を行い、我が国が潜在的な数値よりも訪日外客数を獲得できているかを検証し、インバウンド消費による稼ぐ力を発揮できているかを確認する。

推計の結果、国境の共有や言語の共有に代表される文化的な要因、両国の人口は外客数を増加させる方向、距離は外客数を減少させる方向に寄与している(第3-1-15図別ウィンドウで開きます)。為替については、出発国の為替の増価が外客数の増加に寄与しているが、受入国の為替水準は有意な結果が得られなかった。また、受入国の一人当たりGDPが高いほど旅行者が多い、という関係が得られた。受入国の一人当たりGDPは、旅行者の誘致に重要なインフラの整備状況などを代理していると考えられる。自由貿易協定(FTA)の締結も、ビジネス機会の拡大等を通じて旅行者の増加に寄与していると推測される。

次に、推計で得られた係数に基づき訪日外客数の推計値を算出し、実績値とあわせて確認すると、推計値については2010年以降一貫して上昇している一方で、実績値については、東日本大震災があった2011年に大きく落ち込んだ後は増加している。特に2013年から2014年にかけては実績値の伸びが推計値の伸びを大きく上回っている。これは、東南アジアを始めとした国々を対象としたビザの緩和15別ウィンドウで開きますや、外国人旅行者向けの消費税の免税対象品目の拡大、その他にも各地域や産業で進められるインバウンド消費を取り込むための取組等16別ウィンドウで開きますによって、アジア諸国の所得などの上昇といったモデルで説明される要因以上に訪日外客数が増加していることが背景にあると考えられる。本モデルの推計結果を踏まえると、我が国は、特に2013年以降、インバウンド消費による稼ぐ力を高めている、と評価されよう。

また、本推計では、前述のとおり出発国の一人当たりGDPの増加やFTAの発効が外客数を増やす結果となっているが、我が国は、一人当たりGDPの増加が比較的高いアジアに位置しており、また、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の締結に向けた取組が進められていること、さらには2020年にはオリンピック・パラリンピック東京大会が開催されることなどを踏まえると、訪日外客数が今後とも拡大する余地は大きいと考えられる。こうした機会をいかし、インバウンド消費の拡大を図っていくためにも、引き続き、訪日外客数の増加に向けて、官民を挙げた取組を進めていくことが期待される。

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