第1章

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第1節 最近の景気動向

第1節では、最近の景気動向を概観しつつ、デフレ脱却・経済再生に向けた進捗の状況を検証する。

1 概観

(景気は緩やかな回復基調の下、支出面の改善に遅れ)

GDPの動向から最近の景気動向を概観しよう。

2015年に入ってからの実質GDPの四半期ごとの動きをみると、1-3月期は比較的高いプラス成長となったものの、4-6月期は小幅なマイナス成長、7-9月期はプラス成長となった(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(1))。

需要項目別にみると、個人消費は、雇用・所得環境の改善傾向が続く下で、2015年1-3月期には持ち直しの兆しがみられていたが、4-6月期には消費者マインドの持ち直しの足踏みや天候不順等の影響からマイナスとなった後、7-9月期には再びプラスとなったものの、総じてみれば底堅い動きとなっており、力強さを欠いている。また、設備投資は、企業収益の改善が続く中で、2015年4-6月期は小幅マイナス、7-9月期は小幅プラスとなるなど、おおむね横ばいで推移している(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(1))。このように、景気は緩やかな回復基調の下、支出面の改善が遅れている。

(デフレ状況ではなくなる中、名目GDP成長率はプラスで推移)

デフレ状況ではなくなる中で、名目GDP成長率は、2015年7-9月期に前年比3.5%となり、年率換算で500兆円を超えた(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(1))。

このような名目GDPの増加は、所得面からみれば、家計や企業の所得が増加したことを表している。

家計部門の所得である名目雇用者報酬の推移をみると、2013年以降、振れを伴いながらも前年比プラス幅を拡大しており、2015年の7-9月期には前年比1.7%の伸びとなっている(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(2))。これは雇用・所得環境が改善していることを示している。

また、企業収益をみても、2014年以降、急速に増加している(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(3))。財務省「法人企業統計季報」によれば、2015年7-9月期の経常利益は季調済前期比6.3%減となるなど増加が一服しているものの、前年比9.0%、17.9兆円と過去最高水準で推移している。

(交易条件の改善などから実質GNIは拡大)

ここで、対外面も考慮した実質ベースの国民所得である実質GNIの動向をみてみよう。実質GNIは、実質GDPに交易条件の変化に伴う実質所得の増減(プラスの場合は交易利得、マイナスの場合は交易損失)と海外からの所得純受取を加えたものである。

2012年10-12月期を基点とした実質GNIの変化(前期比累積寄与度)をみると、2014年7-9月期までは交易損失により実質GNI成長率は実質GDP成長率をおおむね下回って推移した(第1-1-3図別ウィンドウで開きます)。しかし、2014年10-12月期には海外からの所得純受取が大幅に増加したため実質GNI成長率が実質GDP成長率を上回った。2015年1-3月期には輸出価格が維持される中、原油価格の下落を受けた輸入価格の低下を主因に交易条件が大幅に改善し、それまで悪化していた交易損失がほぼ解消した。その後は交易利得となったことから、2015年7-9月期には実質GNI成長率が実質GDP成長率を7割程度上回って推移している。

2 好循環の進展

(労働需給が引き締まりつつある中、雇用・所得環境は改善)

労働需給が引き締まりつつある中、雇用・所得環境も改善している。完全失業率は2015年10月に3.1%と20年ぶりの低水準となり、有効求人倍率は9月及び10月に1.24倍と23年ぶりの高水準となるなど、労働需給は引き締まりつつある状態にある(第1-1-4図別ウィンドウで開きます)。以下では雇用・所得面の改善の進展をみていこう。

(雇用者数は増加傾向にあり、最近では正規と非正規雇用者が同程度に増加)

雇用者数は、生産年齢人口(15歳~64歳人口)が減少傾向にある中にあっても、2013年に入ってから顕著に増加している(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(1))。

雇用者数の変動を雇用形態別にみると、2013年から2014年までの雇用者数の増加は、主としてパート・アルバイト等の非正規雇用者の増加によるものであった(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(2))。しかし、2015年に入ってからは、正規と非正規雇用者がほぼ同程度増加している。

この背景には、2013年から2014年までは柔軟な働き方を希望する女性や高齢者を中心に非正規での就業が主であったが(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(3)1別ウィンドウで開きます2別ウィンドウで開きます)、2015年に入ってからは、人手不足感が高まる中で、企業が若年層を中心に非正規よりも正規雇用者の採用を重視するようになってきていることが影響していると考えられる3別ウィンドウで開きます

(一人当たり賃金はパート比率上昇による下押し効果がある中でも持ち直し)

賃金の動向をみると、一人当たり名目賃金は、女性や高齢者の労働参加の進展に伴うパート比率の上昇が下押しに寄与しているものの、この影響を一般労働者の賃金上昇の効果が上回った結果、2013年以降、全体としては緩やかに上昇している(第1-1-6図別ウィンドウで開きます(1))。

また、一般・パート別に名目賃金をみると、一般では、春季生活闘争(以下「春闘」という。)による賃金引上げの動きを受け、改善の動きが続いている。2015年の春闘での賃金引上げ率は、2.20%(平均賃金方式(全ての組合員数による加重平均))と17年ぶりの高水準となった。しかしながら、定期昇給を除いた賃金改善分(ベースアップ等)は、0.69%(賃金改善分が明確に分かる組合の集計における賃金引上げ率2.35%の内訳4別ウィンドウで開きます)と改善傾向にあるものの、いまだ低水準となっている。

パートでは、2015年の時給は1,067円と、前年比1.4%と高めの上昇率となった5別ウィンドウで開きます

こうしたことから、一人当たり実質賃金をみると、2013年以降、名目賃金の上昇率が、企業経営者等のデフレマインドがなお残る中で、結果的に消費税率引上げを含めた物価上昇率を下回ったことなどから、減少が続いてきたが、最近では下げ止まっている(第1-1-6図別ウィンドウで開きます(1))。

一般・パート別に実質賃金をみると、両者ともに最近、前年比はプラス基調で推移している。一般では4か月連続で前年比プラス、また、パートでもプラスが続いてきたが、10月は一時的な要因によりマイナスとなった6別ウィンドウで開きます第1-1-6図別ウィンドウで開きます(2))。

以上のことから、総雇用者所得も名目・実質ともに4か月連続で前年を上回っている(付図1-4別ウィンドウで開きます)。

(過去の労働需給引締り局面対比、一般労働者の賃金の伸びは低め)

労働需給が引き締まりつつある中で、賃金は緩やかな上昇にとどまっている。この背景を探るため、一般・パート別に、過去3回の労働需給引締り局面(1999年7-9月期~2000年10-12月期、2003年4-6月期~2007年4-6月期、2009年7-9月期~2015年7-9月期(直近))ごとに、名目賃金(定期給与)と有効求人倍率との関係をみてみると、以下の点が指摘できる。

第一に、一般では、最近の局面になるほど、定期給与の水準が下がる中で、有効求人倍率の上昇に対する定期給与(対数値)の上昇ペースが低下している(第1-1-7図別ウィンドウで開きます)。

第二に、パートでは、前回、前々回の局面に比べて定期給与の水準が上昇する中で、有効求人倍率の上昇に対する定期給与の上昇ペースは前回局面とほぼ同程度である。

以上のことから、労働需給が引き締まりつつある中で名目賃金の上昇幅が過去に比べて小さいのは、一般の賃金の反応が鈍いことが一つの要因であると考えられる。この背景には、企業の労働需要はパートのみならず、一般についても高まっているものの、企業は将来の安定的な経済成長に確信を持てない中で7別ウィンドウで開きます、パートに比べ長期的な雇用のコミットメントをすることになる一般の賃金の上昇には抑制的に対応してきたことが考えられる。最近では、一般でも賃金上昇の動きがみられ始めており、今後、労働需給が引き締まっていく中、賃金が更に上昇していくことが期待される。

コラム1-1 転職時における賃金動向8別ウィンドウで開きます

賃金が上昇する経路としては、1ベースアップなどによる経路と、1転職による経路がある。ここでは、転職後の賃金動向をみてみよう。

転職による賃金変化についてみるために、転職時に賃金が増加した者の割合から減少した者の割合を引いた賃金変動DIを確認すると、2006年以来の高水準となっている(コラム1-1図別ウィンドウで開きます(1))。景気の緩やかな回復とともに、自らの知識やスキルをいかせる場や、より良い待遇を求めて転職を行う自発的転職者が増加する中で、60歳未満の世代、特に若い世代において、転職時に賃金が上昇している。

2014年において、転職時に賃金が改善した背景を把握するため、転職時における産業間、企業規模間の移動や、雇用形態の転換について確認してみよう。

第一に、産業間の移動について確認すると、多くの産業において同一産業からの転職者の割合が増加する中で、賃金変動DIは改善している(コラム1-1図別ウィンドウで開きます(2))。転職時の賃金改善の背景には、前職までに蓄積してきた知識やスキルを活かしやすい同一産業への転職者が増えたことにあると考えられる。

第二に、企業規模間の移動について確認すると、前職よりも規模の大きい企業に移動する者の割合が増加し、規模の小さい企業に移動する者の割合が減少している(コラム1-1図別ウィンドウで開きます(3))。転職者がより良い待遇を求める中、企業の人手不足感の高まりもあいまって、より規模の大きい企業へ転職したものと考えられる。

第三に、雇用形態の転換について確認すると、転職時に非正規から正規に転換する者が増加する一方、正規から非正規に転換する者が減少している(コラム1-1図別ウィンドウで開きます(4))。企業は、人手不足感が高まる中で、人材の確保・定着を図るため、正社員への雇用シフトを進めており、こうした動きも転職時の賃金改善に寄与したと考えられる。

3 家計部門の動向

(個人消費は、総じてみれば底堅い動きとなっている)

個人消費は、包括的な指標である消費総合指数でみると、上述のように雇用・所得環境が改善を続ける中で、総じてみれば底堅い動きとなっている(第1-1-8図別ウィンドウで開きます(1))。この背景としては以下の要因が指摘できる。

第一に、最近、実質総雇用者所得が増加しているものの、物価上昇に比して賃金の改善が緩慢であることが挙げられる(前掲第1-1-6図別ウィンドウで開きます(1))。

第二に、消費者マインドの持ち直しに足踏みがみられることである9別ウィンドウで開きます第1-1-8図別ウィンドウで開きます(2))。最近、生鮮食品や食料品など身近な品目で価格上昇が相次ぐ中(第1-1-8図別ウィンドウで開きます(4))、特に第I分位のうち若年層(主として子育て世帯)などで節約志向が高まっている。所得階級別にみると、平均的家計の消費支出は、2014年4月の消費税率引上げ後に落ち込んだ後、緩やかに改善し、2015年入り後はほぼ横ばいであるのに対し、第I分位のうち若年層10別ウィンドウで開きます(主として子育て世帯)では、消費税率引上げ後に消費支出が大きく下落した後、ほぼ改善することなく推移している。この結果、貯蓄額(可処分所得-消費支出)が増加していることから、節約志向が強まっていることが分かる(第1-1-8図別ウィンドウで開きます(5)(6))。

第三に、2015年6月の天候不順の影響である。6月は雨の影響で日照時間が平年より短いなどの天候不順を背景に、エアコン・扇風機といった家電販売が減少したほか、衣料品の動きも弱かったことから、個人消費はある程度下押しされたと考えられる(第1-1-8図別ウィンドウで開きます(7))。なお、冬場にかけて冬物衣料の売上が減少するなど、暖冬の影響もみられる。

今後、消費は、雇用・所得環境の改善が続く中、消費者マインドも次第に改善し、持ち直していくことが期待される。

(住宅投資は持ち直しから横ばいに)

住宅投資は、2015年初頃から徐々に上向きに転じ、貸家、分譲住宅を中心に持ち直していたが、最近ではおおむね横ばいとなっている(第1-1-9図別ウィンドウで開きます)。消費税率引上げ後の持ち直しの背景には、雇用・所得環境が緩やかに改善していること、日本銀行の「量的・質的金融緩和」を受けて住宅ローン金利が低水準で推移していること(付図1-6別ウィンドウで開きます)、各種の住宅支援策の効果11別ウィンドウで開きますなどが挙げられる。最近では、貸家は2014年夏場と比較して水準が高いものの、横ばいとなっており、分譲住宅については、マンション価格が上昇し、販売の持ち直しに一服感がみられる中で着工も横ばいとなっている。

なお、2015年10月に顕在化した、いわゆる基礎杭工事問題の影響については、事業者から家計の分譲マンションに対する購入意欲の低下を懸念しているとの声も聞かれており、今後の動向には注視が必要である。

4 企業部門の動向

経済の好循環の加速・拡大を実現するためには、企業が前向きの行動を強めていくことが期待される。ここでは、企業部門の動向について、輸出、生産、設備投資の順で点検する。

(中国を始めとするアジア新興国等の減速などから輸出は弱含み)

輸出は弱含んで推移している。輸出数量を仕向地別にみると、2015年入り後は中国を中心とするアジア新興国向けとアメリカ向けが弱いことが分かる(第1-1-10図別ウィンドウで開きます(1))。

中国を中心とするアジア新興国経済の減速を受けて、半導体等電子部品や液晶デバイスなどの情報関連財(生産財)が減少しているほか、アメリカにおけるシェールガス開発事業の低迷を背景に建設機械等の資本財が減少している(第1-1-10図別ウィンドウで開きます(2))。

なお、実質輸出をみると、輸出数量の動きとは異なり、2015年5月以降下げ止まっている。これは、輸出品の高付加価値化を反映している(第1-1-10図別ウィンドウで開きます(3))。実際、電気機器や輸送用機器など広範な品目で高付加価値化(高級化)が近年進展している(第1-1-10図別ウィンドウで開きます(4))。

(輸出の弱含み等から生産は弱含み)

次に生産面を確認しよう。鉱工業生産指数は、2015年初をピークに弱含んで推移している(第1-1-11図別ウィンドウで開きます(1))。この背景には以下のような点が挙げられる。

第一に、輸出の弱含みの影響である。上述の通り、アジア新興国向けスマートフォン関連等の電子部品・デバイス(生産財)や工作機械(資本財)などのはん用・生産用・業務用機器の生産が低調に推移した(第1-1-11図別ウィンドウで開きます(2)(3))。

第二に、制度的な要因による在庫調整の動きである。軽乗用車の在庫については、消費税率引上げの影響により高水準となっていた在庫が徐々に調整されていたが、2015年4月の軽自動車税率引き上げの影響もあり、再び在庫が積み上がり、生産が抑制された(第1-1-11図別ウィンドウで開きます(4))。また、土木建設機械では、環境規制強化前の駆け込み生産増から、在庫が積み上がり、その反動で生産が減少している。

こうした生産の動向を受けた在庫の最近の動向を確認すると、土木建設機械では在庫が依然として高止まっている一方、乗用車などの輸送機械では在庫が減少している。今後は、こうした在庫調整の進展や海外景気の緩やかな回復等を背景に、生産は持ち直していくことが期待される。

(過去最高水準の企業収益の下、設備投資はおおむね横ばい)

企業収益は過去最高水準となっているものの、設備投資はそれに比して低水準にとどまって推移している。GDPベースの設備投資は最近増加基調にあるものの、前回増加局面(2002年から2008年まで)と比較すると、増加ペースは緩やかなものになっている(第1-1-12図別ウィンドウで開きます(1))。

前向きな企業活動の代表と位置付けられる設備投資に伸び悩みがみられる状況について、最近の企業行動を上場企業の支出と現預金等の観点からみてみよう。

上場企業の保有資産の動向をみると、現預金等はここ数年、増加傾向にある。他方で、企業の前向きな動きである設備投資、研究開発投資、賃金に対する支払(キャッシュアウト)の伸びは、現預金等の残高の伸びを下回っている(第1-1-12図別ウィンドウで開きます(2))。

また、企業の賃金支払について、労働分配率をみると、2012年以降低下傾向にあり、平均的にみれば、賃金の支払は名目GDPの伸びに比して伸ばしていない。労働分配率を要因分解すると、1女性・高齢者の労働参加が高まる一方、団塊世代の退職やその後の非正規での再就職等により全体としては労働時間が減少していること、1名目GDPの伸びに時給の伸びが追いついていないことが影響している(第1-1-12図別ウィンドウで開きます(3))。

以上みたように、経済の好循環を加速・拡大する上で、企業は設備投資や賃金など前向きなキャッシュアウトを行っていくことが重要である。そのためには、企業経営の見える化を進め、積極経営を行う企業が、市場でより評価される環境を整備していくことが必要と考えられる。

5 物価動向

我が国経済は、2009年11月には、「月例経済報告」において我が国経済が緩やかなデフレ状況(物価が持続的に下落する状況)にあるとの判断がなされたが、2013年10月に消費者物価(生鮮食品、石油製品及びその他特殊要因を除く総合、以下「コアコアCPI」という。)の前年比はプラスに転じた後、最近も引き続きプラスが継続している点で、デフレ状況ではなくなっている12別ウィンドウで開きます。最近の物価動向とデフレ脱却13別ウィンドウで開きますに向けた進捗状況について確認する。

(消費者物価は緩やかに上昇)

デフレ脱却に向けた進捗状況をみるにあたり、まず、最も基本的な物価指数である消費者物価(CPI)の動向から確認しよう。

物価の基調をみるために、コアコアCPIの動向をみると14別ウィンドウで開きます、2013年初に前月比でプラスに転じた後、おおむねプラス傾向で推移している(第1-1-13図別ウィンドウで開きます(1))。もっとも、2015年10月は一部品目の一時的な要因15別ウィンドウで開きますにより、前月比はマイナスとなった。

こうした物価上昇の背景をみるため、コアコアCPIの前年比の動きを要因分解すると、2015年に入ってからは食料のほか、一般のサービスのプラス寄与が緩やかに拡大していることが分かる(第1-1-13図別ウィンドウで開きます(2))。

物価上昇の持続性を探るため、個別品目ごとの財価格、サービス価格の動向をみてみよう16別ウィンドウで開きます。財品目ごとの価格上昇率の分布をみると、財については1%以上の幅で上昇している品目の割合が、2015年4月以降拡大している一方、-3%以上の幅で下落する品目割合が縮小している。(第1-1-13図別ウィンドウで開きます(3))。

また、サービスについては、0%程度の品目が大半であるものの、このところ-1%以上の幅で下落する品目の割合がなくなりつつあることが分かる。2015年に入ってからは、一人当たり賃金が上昇する中でサービス価格が上昇している。一般に、サービスは労働集約的であることを踏まえると、賃金上昇が価格上昇に波及し、それが物価を押し上げて、賃金上昇につながるという意味で、物価上昇に持続性がうかがわれる。こうした関係は直近まで続いていることが確認できる。

(GDPデフレーター、単位労働コストは上昇傾向)

次に、GDPデフレーターをみてみよう。GDPデフレーターは前年比プラスが続いており、上昇傾向が続いている。

GDPデフレーターを需要項目別に要因分解すると、2014年4月の消費税率引上げの影響で上昇した民間最終消費支出の寄与が次第に減少している一方、輸入のプラス寄与がそれを上回っており、2014年後半以降の原油価格下落の影響がみられる。その結果、全体としては、消費税率引上げの影響が剥落した2015年7-9月期には2%程度のプラスとなった(第1-1-14図別ウィンドウで開きます(1))。

また、GDPデフレーターは生産一単位当たりの名目付加価値(企業や家計の所得)を表すことから、名目ベースの企業所得や賃金の縮小を意味する「付加価値デフレ」からの脱却に向けた動きを確認できる。そこで、GDPデフレーターの動きを所得面から要因分解してみると、このところ単位利潤の改善を主因に上昇している。2014年4-6月期以降は消費税率引上げの影響を除いても前年比プラス幅が拡大していることが確認できる17別ウィンドウで開きます第1-1-14図別ウィンドウで開きます(2))。もっとも、最近では、単位労働費用は単位利潤に比してプラス幅が小幅にとどまっており、今後、利潤が賃金に分配されていくことが期待される。

賃金の増加は持続的な物価上昇を実現する上でも重要である。単位労働費用(ユニット・レーバー・コスト)は生産一単位当たりの賃金コストを表すものであり、その上昇分が販売価格に転嫁され、物価上昇につながることが期待される。

単位労働費用の動きを確認すると、2014年4-6月以降、平均して3%程度の前年比プラスで推移していたが、2015年4-6月期以降は労働生産性の寄与がマイナスとなる中で、単位労働費用の伸びは0%程度に低下した。ただし、単位賃金の前年比寄与度はプラスを維持している(第1-1-15図別ウィンドウで開きます)。なお、製造業と非製造業に分けてみても大差はない(付図1-8別ウィンドウで開きます)。

(GDPギャップの着実な縮小が重要)

最後に、経済全体の需給ギャップを表すGDPギャップと物価の関係を確認しよう。

まず、GDPギャップは縮小傾向にあるが、2015年7-9月期では-1.6%程度のマイナスがある18別ウィンドウで開きます第1-1-16図別ウィンドウで開きます(1))。今後、デフレ脱却に向けて、GDPギャップの着実な縮小が重要である。

次に、デフレ脱却に向けた進捗の状況を評価するために、消費者物価(コアコアCPI)でみた消費者物価上昇率とマクロ的なGDPギャップとの関係(いわゆるフィリップス曲線)を確認しよう。

2013年7-9月期以降、消費者物価上昇率は、GDPギャップ(2期前)のマイナス幅縮小に伴って上昇した。しかし、2014年4-6月期以降は、GDPギャップのマイナス幅が拡大に転じる中で、消費者物価上昇率は0.5%を上回る水準で推移している(第1-1-16図別ウィンドウで開きます(2)19別ウィンドウで開きます)。なお、GDPギャップの動きの背景には、2014年4-6月期の消費税率引上げ以降、民間最終消費と民間投資の回復が遅れていることがある。

経済の好循環が進展し、物価が安定的に上昇していくためには、GDPギャップに代表されるマクロ的な需給ギャップの縮小が、物価上昇につながりやすくしていくことも重要である。

また、2000年代前半以降、GDPギャップと物価の関係が弱まっているが20別ウィンドウで開きます、今後両者の関係が強まっていくことが期待される。すなわち、緩やかな物価上昇が実現する中で、GDPギャップの縮小に対し、物価上昇が高まりやすくなることである21別ウィンドウで開きます。企業のデフレマインドが払しょくされ、賃金引上げやそれに伴う販売価格上昇等が生じることが期待される。

最近のフィリップス曲線は、2001年から2012年までに比べて、上方へのシフトがみられている。これは予想物価上昇率が上昇したことが寄与していると考えられる。予想物価上昇率については様々な指標があるが、家計やエコノミスト、金融市場における指標をみると、最近、上昇率が低下している指標もみられているが、おおむね安定的に推移している(第1-1-16図別ウィンドウで開きます(3))。

以上のことから、最近の物価動向については、消費者物価(コアコアCPI)、GDPデフレーター等の動きをみると、デフレ脱却に向けて着実に進展していることが確認できる。ただし、マイナスにあるGDPギャップは未だ明確に改善をたどっておらず、デフレ脱却に向けさらなる取組が重要である。

今後、できるだけ早期にデフレ脱却を達成するためには、企業収益や雇用所得の改善が、個人消費や設備投資などの持ち直しにつながっていくことを通じて、GDPギャップのマイナス幅が着実に縮小していくことが期待される。

(デフレ脱却に向けた動きを加速化させる必要)

景気動向、物価動向をみると、デフレ脱却に向けては、投資・消費を中心とする内需主導の経済の好循環を加速・拡大していく必要がある。このためには、企業が過去最高水準の収益を維持する中で、賃上げや設備投資など前向きなキャッシュアウトを行うことが望まれる。

政府は「未来への投資に向けた官民対話」などを通じて、投資環境の整備と企業の設備投資拡大や賃金上昇などの積極的な行動を通じた、好循環の加速・拡大に向けた取組を進めている。

企業の前向きな行動を高めていくためには、成長期待を高めることも重要である22別ウィンドウで開きます。2015年11月の経済財政諮問会議で取りまとめられた「希望を生み出す強い経済実現に向けた緊急対応策」等を着実に実施することにより、民間の取組ともあいまって、600兆円経済の実現に向けた動きを加速するとともに、デフレ脱却への歩みを確実なものとし、景気をしっかり下支えすることが重要である。

以下では、第2節において、最近の個人消費や労働供給の動向に対して年々インパクトを強めている高齢者の消費・就労について検討する。

コラム1-2 公共工事請負金額と公共工事出来高

公共工事請負金額をみると、減少傾向で推移している。公共工事出来高についても2014年夏頃から1年程度高止まりしていたが、最近は減少に転じている(コラム1-2図別ウィンドウで開きます(1))。

請負金額と出来高の動きは、数か月の時差がありつつも2000年以降、おおむね連動してきたが、2014年度以降、両者の動きに乖離がみられるのはなぜであろうか。

この背景には、1予算23別ウィンドウで開きますの早期執行と1公共事業の工期長期化が挙げられる。すなわち、1により、請負金額が2014年春から夏まで盛り上がり、その後夏以降は、1により出来高が緩やかに増加し、安定的に推移したと考えられる。

実際、1により、2014年度以前から継続されている過年度工事が増加している(コラム1-2図別ウィンドウで開きます(2))。これには、建設労働者不足への対応や公共事業の施行時期の平準化等を目的とした発注ロットの大型化も影響を与えているとみられる。

もっとも、今後の出来高については、ある程度の期間をかけて請負金額と同水準程度まで減少していくものと思われる。

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