平成17年度 日本経済2005 第1章 第4節 まとめ

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第4節 まとめ

第1章では、日本経済の現状と当面のリスク要因について分析した。日本経済は緩やかな回復が続いているが、こうした景気の基調は、基本的には、企業部門の財務体質の強化と労働市場の改善という構造的な部分での動きを反映したものである。ただし、短期的にみると、上押し圧力と下押し圧力が共に存在する中で、回復のペースは比較的緩やかなものとなっている。そうした上押し要因と下押し要因について整理すると以下のようになる。

現局面において景気押上げに寄与している要因としては、第一に、企業収益の改善が4年にわたって続く中で、企業が債務縮減だけでなく設備投資にも前向きな姿勢をみせていることである。企業の設備過剰感がなくなり、設備投資拡大の動きは、これまで牽引してきた製造業だけでなく非製造業にも及ぶなど広がりをみせている。ただし、過度な設備投資が資本ストック調整につながらないかという観点からは、こうした設備投資資金が効率的なプロジェクトに向かっているかどうかは注視する必要がある。第二に、雇用者数が増加する中で、雇用の質についてもパート比率が低下するなど、雇用の改善の動きが一層明確となっていることである。また、団塊の世代の退職といった企業の人口構成上の要因も、新規採用の増加を通じて、企業の雇用意欲を高めている。第三に、中国向けを始めとした輸出が2005年央までの一時的な停滞を抜け出して持ち直しの動きを続けていることがある。国際機関等の予測では、世界経済は引き続き回復を続けていくことが見込まれており、輸出は今後も緩やかな増加を続けていくと見込まれる。

他方、景気下押し要因としては、第一に、昨年来の原油価格の高騰の影響が懸念されることである。原油価格の高騰は、企業収益に対しては交易条件の悪化を通して、家計については石油製品価格の上昇による負担の増加を通して影響を与える。ただし、企業収益面については、一部の業種や中小企業では厳しさがみられるものの、企業部門全体としては、価格転嫁が進まない分は売上高増加によってコスト増を吸収しており、影響は限定的なものにとどまっている。また家計部門についても、石油製品価格の上昇が他の財・サービスに転嫁される動きは限定的であり、一般物価が上昇するには至っていないことから、実質所得の押下げ効果は限定的である。第二に、生産面において、IT関連財が2005年央から回復基調に転じている反面、非IT財で在庫の積みあがりがみられることである。これは、鉄鋼等において、中国産を中心とした汎用品の供給が過剰となっていること等を背景としており、生産全般にわたって在庫調整が必要な状況には至っていない。第三に、財政政策については、引き続き歳出が抑制される中で、2006年1月から定率減税の縮減が予定されていることである。ただし、雇用が改善する中で所得も緩やかな増加を続けており、こうした財政政策の景気への影響は限定的と考えられる。

さらに、短期的な押上げ、押下げ要因ということではないが、景気の持続性への影響を持ち得るものとして、デフレの動向及び金融環境がある。デフレについては、消費者物価(生鮮食品を除く総合)でみた場合には、2005年末以降、石油製品価格の高騰と公共料金等の特殊要因の影響を反映して、当面前年比で横ばいあるいは若干のプラスで推移する可能性がある。デフレは、金利調整や賃金調整余地を狭めるなど実体経済には基本的にマイナスの影響を持つものであるため、デフレの脱却が確実なものとなれば、景気回復の持続性に対してプラスの影響を持つものと考えられる。そうした意味では、デフレから緩やかなインフレへの転換は望ましい動きである。そうしたデフレからの脱出への過程において、金融政策には、金融環境の過度の変動をもたらすことなく、デフレにはもう逆戻りしないという段階まで安定的なインフレが定着するよう後押ししていくことが求められる。

以上のような様々な要因を考慮すると、今後も、日本経済は民間需要を中心に緩やかな回復を続けていくものと考えられる。ただし、既に述べたような景気への下押し要因だけでなく、アメリカや中国経済の動向にも引き続き留意する必要があることに加え、景気拡大が4年近くに及ぶ中で、在庫循環や資本ストック循環の動きには、これまで以上に注意が必要であろう。

さらに、視点をやや中期的な要因にも向けると、世界的な金融の動向や、デフレ脱却後における金利上昇の影響をどうみるのか、あるいは過剰債務の解消に伴って企業部門の貯蓄超過が今後解消され、さらに設備投資、配当、賃金に対して企業が前向きな姿勢に転じるのかといった点も、今から頭の整理をしておく必要がある。これらの点については、第2章で詳しく論じる。

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