第4章 識者の意見

[目次]  [前へ]  [次へ]

増田 寛也
東京大学公共政策大学院客員教授、前岩手県知事
-「選択する未来」委員会 委員

「自分の街がなくなるかもしれないといわれると危機感が共有される。人口と地域社会と経済の課題に一体的に取り組むことが大切だ」

地方圏で人口減少、そして高齢化が進んでいく。大都市圏は当面人口は維持されるが、再生産力が著しく低くなっているので、人口減少や高齢化が今後急速に進行する。その中で、東京に行くことなく地域できちんとした経済を回していく構造、それから、東京は東京でその良さを発揮させる。すなわち、東京と地方が相互に支え合い、持続的な発展を遂げる。そういう姿をこれから考えていくべきではないか。

東京における機能、それから地方における機能、相互に補完をする。ともすればこの議論というのは、ゼロサムで東京にヒト・モノ・カネ・情報が集中しているものを奪い取って、地方へ持っていくという対立的な概念になりがちだが、そうではなく相互補完ということが重要である。

そして、様々な地域の「個性を活かした地域戦略」、一方で地域は地域で「集約・活性化」を行っていく。そこを支える共通の大きな基盤として「新しい絆」という概念で、様々な新しい動きを出していく。こういったところがキーワードだと思う。

「個性を活かした地域戦略」ということで、これは様々な取組が既に行われている。島根県海士町は、陸の孤島と隠岐諸島の中でも一番資源がない地域と言われた時期があったが、UIターン者が次から次に移住して、社会増で地域の人口を支えている。様々なスキルを持った人間が移住して、例えば岩ガキ、ナマコ、隠岐牛など、瞬間冷凍の新しい技術とマッチングさせて全国に販売し、非常に大きな成果を出している。

大分県豊後高田市は、昭和の時代に戻った、まさに「三丁目の夕日」の時代のレトロさを地域の個性として売り出して、多くの観光客を呼び集めている。

徳島県神山町は、インターネット基盤があるところに東京からオフィスを誘致し、自然豊かな中で、新しい発想のもとで様々なクリエイティブな活動を行っている。ここで印象的なのは、入ってくる人間を神山町から逆指名して、その考え方に沿う人を呼び込むといった取組がある。

「集約と活性化」というのは、まちづくりの中で人口増を前提に面的に広がってきた都市構造をどのようにこれから維持させていくのかということで、行政サービスを市街地中心部に多機能集約化して生活の利便性を高めるというものだ。地域をこれからも生かしていくためにも、地域は地域の中で多数ある集落の中で、一番生活の利便性を高めていく上で必要な機能を町の中心部に集約化して、そしてその地域を生かしていく。これは決して周辺部を切り捨てるということではない。急激な人口減少に対して利便性を高めるための積極的な取組と考えるべきである。

「新しい絆」によるしなやかな地域づくり。新しい絆、しなやかなという言葉が象徴しているとおり、従来の取組よりもこれからの時代を見た取組ということで、主体はあくまでも住民で、住民自らの参加のもとで、住民が地域へのプライドを持ちうるような持続可能な循環型の地域社会を形成する。このプライド、地域への誇りだとか、言葉を変えればこだわりということかもしれないが、そういうような地域に対しての誇りを持てるような地域にしていくことが大切だろう。

全国的にみると数多くの成功事例が個別にいろいろ出てきている。そこから学ぶということも必要であるが、成功事例のところへ行って、見て、似たようなことをしようと思ってもうまくいかないということがあるのは、地域それぞれの土壌をどう耕していくかということになるので、個性を活かした地域戦略をこれから推進していく上でも、人材をこれからどういうふうに育て、増やしていくかという問題がいかに重要であるかということではないか。

[目次]  [前へ]  [次へ]