第4章 識者の意見
加藤 百合子
株式会社エムスクエア・ラボ代表取締役社長
-「選択する未来」委員会 委員
「農業と他産業の掛け算で、新しい成長発展の道を」
エムスクエア・ラボでは、「農業×Any=HAPPYに!」という理念で農業支援事業に取り組んでいる。農業は社会基盤産業であり、どの産業、どの事業でも農業と結びつけるといろんな方が参画でき、地域全体が盛り上がる事業が生まれてくる。「農業こそが日本の未来を救う」と私は考えていて、農業の価値は非常に高いものと思っている。「選択する未来」委員会の議論の中では、出生率、IT、信頼など様々なキーワードが出てきたが、それらを農業と絡めるとおそらく課題がひとつずつ解決していくのではないか。
日本の胃袋が減っていくことは自明であり、農業の市場としては海外を捉えていかなければならない。農業を観光と結びつけていく、あるいは医療と結びつけていくことが有効だ。例えば、メディカルツーリズムと食を連携させる。病院に最新の検査を受けに来た方が一か月滞在する。その間に「和食」というブランドのある食事をとって温泉に入り療養する。日本に滞在すると健康になれる、というような簡単なブランドだけれども、これまであまり取り組まれてこなかった類のものを、国を挙げたブランドとして確立できると、農業の活性化、そして地域にも産業が起こせて雇用が生まれる。
キーワードは「地産来消」で、地元でつくり、来客した人が消費する。そういう仕組みはこれから求められるだろうし、地域にとっても経済効果は大きくなっていくのではないか。
医療だけでなく、他にも農業を軸に様々な仕事を創出でき、農業の価値をより高めることができるだろう。
「農業×教育」という視点で見れば、食そのもので成績が上がるという結果も出ている。精神的に安定しない子供でも農業あるいは緑と向き合って技術を磨き就職も決まって安定するという例もあり、食や農業と教育を絡めた良い事例が多く出てきている。加工・販売という6次産業化ではなく、掛け算での6次産業化がこれから求められよう。
「農業×観光」では、今後増加する来客者に向けて、からだに良い、美容に良い、温泉もあって、先端医療もある、そうしたものを掛け算できると地方にとっては非常に大きな産業になっていくだろう。
「農業×工業」では、農業には研究開発と品質管理が不足している。基本的にプロセス管理がない。工業のノウハウを農業に応用していくことが有効だが、工業者が農業者と組むときに、共通言語がないという課題がある。価値観の違う業界の人たちが一緒に取り組むには我々のようなつなぎ役の人材を育てていくことが必要である。
「農業×IT」では、農家にはITだけではなかなか活用してもらえない。そもそも農業を取り巻くITのビジネスモデルが足りないというのが現実であり、例えば、物流会社と組んで、ひとつのモデルづくりに取り組んで事例を増やしていくといったことが大切だ。栽培技術ではオランダがブランディングできた。日本はブランディングできていないが、品質に神経を使う国民性に鍛えられた青果流通システムを含めた農業が世界に打って出られるものになる可能性があるのではないかと考えている。
地域には、「モノ・カネ・情報」はあって、多くのイノベーションの芽が出てきているが、「ヒト」を育てる部分に課題があり、その芽をしっかり拾い上げて育てるというプロセスを整えることがしっかりできれば、夢を持ったイノベーターが出てくるだろう。