第4章 識者の意見
藤山 浩
島根県中山間地域研究センター研究統括監、
島根県立大学連携大学院教授
「田園回帰-人口と所得の1%を取り戻す-」
今、島根県では、「田舎の田舎」で次世代が増えるという注目すべき現象が起きている。市町村単位ではなく、より小さな、まさに定住を受けとめる土俵としての小学校区、公民館区等の基礎的なコミュニティで、5年前に比べて4歳以下の子どもが増えたところが3分の1以上ある。注目すべきは、町の中よりも、市役所、役場から10分、20分入った山間部あるいは離島も増えているのである。
島根県全体でも社会減がかなり縮小している状況だが、特に山間部や離島の町村で社会増を実現。さらに、30歳代だけに区切ってみると、この5年間で3分の2の市町村が増加。子どもと30代はかなり取り戻しているということが言える。
島根県の中山間地域218エリアについて、各年代であと何組増やせば人口が安定するのかを試算したところ、これ以上増やさなくても立派に人口の定常化を果たしているエリアは全体の1割あり、それはどこも山間部や離島であった。そして、中山間地域の人口をすべて安定化させるために必要な人口は、地域人口全体のちょうど1%、実はこれは、それぞれの地区ごとに見ると、1組か2組程度増えればいいという数なのだ。
人口増と並んで重要なのが、外に流出するお金をいかに地域内の循環に回せるかということである。1%でも取り戻すことができれば地域はより活性化する。そして、そのヒントは、各家庭の支出内訳にある。例えばパンは3万円購入している。300世帯あればそこに本当は1千万円のパンの需要がある。ところが、それを外から買っているうちは所得も人口も増えない。また、灯油、ガス代などエネルギー系は11万円もあり、1千世帯あれば億を超える。安易に外に流出させていないかということである。島根県全体でみると、ほぼ県民所得に等しい額が外に流れ出している。
食料や燃料は中山間地域で調達できなくはない。現状は1割以下だが、仮に5割に引き上げるとしたら億円単位の額となる。もちろん一挙に取り戻すことはできないが、その可能性はゼロではない。
ヨーロッパはかなり田園回帰が進んでいて、イタリアに五百~千人程度の小さな村がある。徹底して日ごろの衣食住を地元でつくり切っていて、そこにつくる人が定住できる。しかもそれが地域独自の文化となり、多くの観光客を集めている。守りと同時に攻めとなっている。
日本でも、田舎の豊かさ、農山村の豊かさというのは小規模だが、非常に多彩な豊饒さがある。人口1,500人のある村では、栽培・加工品目は4千品目を超える。種類は240種類ある一方で、販売は99種類にとどまっている。こういった非常に豊かなロングテールの多彩さがまだまだ市場に、あるいは経済の循環に入ってきていない、あるいは切り捨てられてきたという実情がある。グローバルを否定する必要はないが、今まで大きなロットにならないために流通から切り捨てられていた、ローカルの豊かなものを束ねて外とつないでいく、ここに本当の豊かさがある。生き物も自然界も全てこういう多様性の原理が最終的には優越している。ここを活かすことがこれからの循環型社会にとって非常に重要。
最後は循環構造。どういう未来の設計図を描くべきか。地方にとって非常に重要なことは、中山間地域の小規模・分散性を活かすということである。
こうした構想は「小さな拠点」として、国のこれからの地方創生の考え方にも取り入れられ始めている。「小さな拠点」を新たな結節機能として、「合わせ技」の事業組織や雇用、旅客・貨物同時輸送などの新たな社会システムを展開したい。一番地元の集落あるいは人々の暮らしに大切な足元をしっかりつくる。そこでできない機能は2次、そして3次としっかりとしたトーナメントを組んでいく必要。でなければ、地域拠点都市や地方都市の単なる端っこになってしまう。大地や人々の暮らしに根差した循環を取り戻すというのがこれからの循環型社会のためにも必要だろう。
<参考文献>
藤山 浩、「田園回帰1%戦略~地元に人と仕事を取り戻す」農文協(2015)