第4章 識者の意見

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内田 由紀子
京都大学こころの未来研究センター准教授

「人と都市のつながりの再構築を」

日本文化の中では、関係性に価値観を置いて幸せを得てきたということが、これまでの研究から明らかになっている。しかし、この2、30年、競争原理により個人主義化が進み、一人で生活できる社会が都市部で顕著となった。

そんな中、最近の若者への調査では、高校生や大学生がかなり関係性志向に回帰しているというデータが出ている。一人で何でもやりたいわけではなく、むしろ家族や昔からの友人、知人も大事にしたいという人たちが増えている。これは、都市化が進んで個人主義になってきた中で、都市の中の孤独・不安が浮き彫りになってきたことに対するある種のカウンターではないだろうか。

人が集まるところには情報やモノが集積するため、人は人が集まるところへ行きたいと思う傾向がある。ところが、人が多過ぎるようになると、今度はだんだんと関係性に面倒を感じてしまい、少し距離をとりたくなる。そして、距離をとるうちに、他者となかなかうまく付き合えないようになってしまう。こういうものに対して、人はストレスを感じる。孤独であるというのは非常につらいことなのだ。

こうした孤独を解消するために、関係性への回帰、家族への意識の回帰が起こってくるとすれば、それが実現しやすい適正なサイズがあるだろう。東京の都市部でいろんな人とつながりましょうといっても、多過ぎてなかなか一人一人の顔を覚えたりはできない。一方で、小さな町・村であれば、その適正サイズがむしろ機動力を持って新たなスケールメリットになっていく。スケールメリットというのは大きければいいということに使うものだが、そうではなくて、機動力を持てる、あるいは人とのつながりを感じられるサイズというものがある種の新しいスケールメリットとして再定義できるのではないか。

関係性というものをもう一度生かそうという動きがある中で、今後はそれをどう実現していくかということに注力したほうがよい。例えば、社会科学ではソーシャルキャピタルといって、社会関係資本、すなわち社会関係というのは資本であるという考え方がある。これは物的資本や人的資本と同じように、つながる資本として生かすことができる。

この資本には2つの種類があると言われている。一つは、ボンディングといって、中の人同士が結束してお互いに助け合う。もう一つは、ブリッジングといって、ある都市とある都市、あるいはある拠点とある拠点をつなぐ。

つまり、中で助け合いをしながら外には閉じずに、情報交換、人の交換、モノの移動を行っていく、そういう地域の連携を一つの手がかりにすることによって、日本の都市部、地方部はどんどんつながりを持って、よりお互いに魅力的な要素が出てくるのではないかと考えている。

また、地方の中でここでないとできないことという特色を持たせることでもって、ブリッジングの機能を拡充させていくことを考える必要があるだろう。そのためには、地域の住民の人たちの中で、一体何が地域の中の誇りになっているのか、あるいは何が愛着になっているのか、何が幸せをもたらす要素になっているのかをきちんと分析することが大切だろう。

それほど大きくなくてもよいので、安定した、それなりに暮らせるぐらいの雇用を確保した上で、その町の特長を出していって、よいボンディングとブリッジングを形成し、都市の孤独というものから日本全体を救う役割を地域が担えるようになれば非常によいのではないか。

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