第2章 人口・経済・地域社会の将来像
(4)少子化対策
●これまでの経過-1990年代から少しずつ拡充
1990年のいわゆる「1.57ショック」で、厳しい少子化の現状が社会的に強く認識されるようになった。当時は、少子化は子ども同士のふれあいの減少等により自主性や社会性が育ちにくいといった影響や、年金などの社会保障費用に係る現役世代の負担の増大、若年労働力の減少等による社会の活力の低下等の影響が懸念された。
1994年に最初の総合的な少子化対策となる「エンゼルプラン」が策定され、仕事と子育ての両立に向けた雇用環境の整備や、保育所の増設、延長保育、地域子育て支援センターの整備等の保育サービスの拡充などが図られた。続けて1999年の「少子化対策推進基本方針」・「新エンゼルプラン」、2001年の「仕事と子育ての両立支援等の方針(待機児童ゼロ作戦等)」等により、子育ての負担を軽減し、子どもを産みたい人が産めるようにするための環境整備に力点を置いて少子化対策が実施されてきたが、急速な少子化の流れを変えるまでは至らなかった。
そこで、これまでの少子化対策のどこが不十分なのか、また、更に対応すべきは何なのかを改めて点検し、幅広い分野について検討された結果、2002年に「少子化対策プラスワン」が政府でまとめられ、その中で「これまでの取組は、子育てと仕事の両立支援の観点から、特に保育に関する施策を中心としたものであったが、子育てをする家庭の視点から見た場合、より全体として均衡のとれた取組を着実に進めていくことが必要であり、さらに、『男性を含めた働き方の見直し』『地域における子育て支援』『社会保障における次世代支援』『子どもの社会性の向上や自立の促進』という4つの柱に沿って、社会全体が一体となって総合的な取組を進めることとし、国、地方公共団体、企業等の様々な主体が計画的に積極的な取組を進めていくことが求められている」との考え方が示された。
そこで、次世代を担う子どもを育成する家庭を社会全体で支援するため、地方自治体及び企業で集中的・計画的な取組を促進する「次世代育成支援対策推進法」が2003年に制定された。
1995年に高齢社会対策基本法が成立しているが、急速な少子化が進展しつつも高齢社会への対応にのみ目を奪われ、少子化に対する国民の意識や社会の対応は著しく遅れていたことから、2003年に議員立法による「少子化社会対策基本法」が制定され、少子化社会における施策の基本理念を明らかにし、施策を総合的に推進することとした。また、内閣においても2003年に内閣府特命担当大臣(青少年育成及び少子化対策担当)が設置された。
このように2000年代に入ってから少子化対策の推進体制が整備され、関連予算も徐々に措置されるようになり、2000年代後半には合計特殊出生率の継続的な低下が収まって、僅かながら増加に転ずる兆しが見え始めた。
それでもなお、厳しい少子化の進行を背景として、2012年には社会保障・税一体改革の一環として、子ども・子育て関連3法が成立した。
子ども・子育て新制度の主なポイントは、①認定こども園・幼稚園・保育園に対する財政支援の一本化、②幼保連携型認定こども園の認可・指導監督等の一本化と設置の促進、③地域の子ども・子育て支援の充実であり、これらの取組により、質の高い幼児期の学校教育・保育を総合的に提供し、地域の子ども・子育て支援を充実させ、全ての子どもが健やかに成長できる社会の実現を目指している。子どもが欲しいという希望が叶い、子育てをしやすい社会にするため、国や地域を挙げて、子どもや家庭を支援する新しい支えあいの仕組みを構築することが求められている。
●分野別社会支出の比較-高齢者対策に比べて少子化対策は大幅に少ない
日本では、高齢化の進行に伴う社会保障の充実により高齢支出の割合は年々増加しており、社会支出(高齢・遺族・障害等・保健・家族・失業・住宅・その他)全体に占める割合は2011年時点で46.5%となっている。一方、出生率が低下傾向にあるものの、少子化対策は高齢者対策と比べて、その取組は進んでおらず、1980年度の家族支出は4.5%とその割合は低く、更に1990年度は3.2%と減っていたが、その後、2000年度は3.8%、2011年度は5.7%と微増傾向にあるものの、いまだ全体に占める比率は低い。
古くから少子化対策に取り組み、出生率を回復させたフランスやスウェーデンでは家族関係支出は全体の1割程度を占めている。1980年以降の30年間で、家族支出の割合は微減し、高齢支出の割合は微増する傾向にあるが、日本と比較して高齢支出はその割合は低く、家族支出の割合は高い。
●少子化対策における国・自治体の役割-市区町村が子育て支援施策を実施
日本の社会保障制度は、昭和20年代、戦後の混乱・生活困窮者の緊急支援として基盤整備され、その一環として1946年に生活保護法、1947年に児童福祉法、1949年に身体障害者福祉法の福祉三法が制定された。児童福祉法では、「すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない」とされ、市町村は児童・妊産婦の福祉に関して必要な実情把握・情報提供・調査指導を行い、体制の整備や職員の人材確保、資質向上のために必要な措置を講ずることとなっている。また、2003年制定の「少子化社会対策基本法」では国・地方公共団体の責務が定義されており、国は少子化に対処するための施策を総合的に策定・実施する責務を有し、地方公共団体は国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定・実施する責務を有するとある。
国は、法制度の創設・改正、全国統一的な指針や基準の作成、必要な予算の確保等、制度の枠組みと基盤づくりを行っている。施策の実施は、都道府県や住民に最も身近な地方自治体である市区町村が、地域や住民のニーズに応じながら担当し、児童手当等をはじめとした家庭・個人への直接給付、妊娠・出産支援、母子保健・小児医療体制の充実、地域の子育て支援、保育サービスの充実、放課後対策、子育てのための住宅整備、働き方の見直し、ワーク・ライフ・バランスの促進など、子育て支援施策の多くが、地方自治体、特に市区町村を中心に実施されている。