第1章 マクロ経済の動向と課題

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我が国経済は、2023年5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症に移行されて以降、経済の自律的な循環メカニズムが整い、緩やかな回復基調を取り戻した。企業収益は過去最高を更新し、設備投資も33年ぶりに104兆円を超えるなど、企業部門は全体として好調さを維持している。また、歴史的な人手不足感の高まりの中、完全失業率が低位で推移し、2024年の春季労使交渉での賃上げ率が33年ぶりの高水準となるなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。その一方で、我が国経済は、予測困難な外生的ショックを含め様々な逆風に直面しており、その回復力は弱いものと言わざるを得ない。第一に、名目賃金や所得の伸びが物価上昇に追いつかない中で、個人消費が力強さを欠いており、さらに急速に円安が進む中で、輸入物価を通じてコストプッシュ型の物価上昇が進むことへの懸念が、消費者マインドを委縮させる要因となっている。第二に、昨年末から本年初以降、令和6年能登半島地震、さらには一部自動車メーカーの認証不正問題に伴う生産・出荷停止事案という大きな外生的ショックが、個人消費や設備投資を中心に経済成長率を下押しする事態となった。

我が国経済は、バブル崩壊以降のコストカット型の経済から脱し、四半世紀にわたり成しえなかったデフレからの脱却、そして持続的な賃上げや活発な投資がけん引する民需主導の自律的な成長型経済に移行する千載一遇のチャンスを迎えているが、今まさにそのチャンスを掴みとれるか否かの正念場にある。本章では、こうした状況にある我が国のマクロ経済動向を点検する。第1節では、2023年年央から2024年前半の我が国経済の状況を総括的に確認する。第2節では、2024年前半までの物価動向のほか、賃金、価格転嫁、物価上昇の広がりなど、物価の背景を様々な角度から点検し、デフレ脱却に向けた現在地を確認するとともに、物価と賃金が共に動く経済の下での各種制度の在り方について課題を整理する。

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