はじめに
新型コロナウイルス感染症の感染が世界的に拡大してから2年以上が経過した。当初は、我が国を含め、各国は経済社会活動の抑制により感染拡大に対応せざるを得ず、感染症は経済に大きな影響を与えてきた。2020年末以降、欧米諸国を中心にワクチン接種が進展する中で経済社会活動の正常化に向けた取組が進み、感染症と経済との関係は大きく変化した。こうした関係の変化を背景に、2021年に入って欧米を中心に景気が世界的に同時に持ち直したことにより需給がひっ迫し、原材料価格や賃金の上昇傾向は鮮明となった。世界的に進む脱炭素に向けた取組を背景に原油生産能力の拡大が進まなかったことも原油価格の上昇につながった。さらに、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略が原材料価格の高騰に拍車をかけた。今やインフレへの対応が世界的な課題となっている。
我が国においても、ワクチン接種の進展等を受け、2021年秋以降、ウィズコロナの考え方の下、経済社会活動の正常化を進めてきたが、感染症による危機を乗り越えつつあったところで、原材料価格の高騰等に伴う世界的な物価上昇と海外への所得流出という新たな試練を迎えている。同時に、本格化する人口減少・少子高齢化、潜在成長率の停滞、気候変動問題などへの対応は引き続き大きな課題として残されている。物価上昇や所得流出に適切に対応するとともに、社会課題の解決に向けた取組を付加価値創造の源泉として位置付け、課題解決と経済成長を同時に実現していくことが求められている。本報告は、このような問題意識に沿って以下の3章立てで分析や論点整理を行う。
第1章では、感染症下での日本経済の動向を振り返るとともに、直面する物価上昇の影響を過去の原油価格上昇局面の経験も踏まえて評価し、今後の対応の在り方を考察する。また、感染症下の財政動向を点検した上で中長期的な経済財政運営に向けた課題を整理する。
第2章では、団塊世代が後期高齢者となりはじめ、今後、高齢化や人口減少が本格化する下でも経済成長を続けていくため、成長と分配の両面の課題を概観した上で、労働に焦点を当て、労働力の確保と労働の質の向上に向けた論点を整理する。
第3章では、新しい資本主義の重点投資分野のうち、特に国際的に取組が活発化しているグリーンとデジタルに焦点を当て、世界における我が国の立ち位置と現状を整理するとともに、投資の拡大に向けた課題と社会課題の解決に向けた論点を整理する。