第3章 雇用をめぐる変化と課題 第1節

[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 雇用をめぐる変化

ここでは、雇用をめぐる変化について、20年程度のすう勢的な動きを振り返りつつ、感染拡大後の動向までを整理する。最初に、人口や平均世帯の変化、そして働き方の変化について示していく。

1 世帯や雇用構造の変化

世帯構成に占める2人以上世帯は減少しているが、共働き世帯は増加

最初に我が国の人口や世帯の動向を確認しておこう。総務省「国勢調査」や「人口推計」によると、日本の総人口は、2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じ、2020年には1億2,623万人となった。また、人口が減少する下で、世帯数は2000年の4,706万世帯から一貫して増加し、2020年には5,572万世帯となっている(第3-1-1図(1))。

世帯の規模(1世帯当たりの人員)は、3人以上の世帯が減少し、単身の世帯が増加することで、2000年の2.70人から2020年には2.27人へと縮小している。特に、単身世帯1の占める割合は、2000年の27.6%から2015年には34.5%へと上昇している(第3-1-1図(2))。

なお、世帯主の年齢別構成比をみると、65歳以上の世帯主の割合が2000年の23.8%から2015年は36.1%へと上昇している。同時に、こうした世帯主世帯の人員規模をみると、単身世帯割合が上昇している(第3-1-1図(3)(4))。

2人以上の世帯数割合が減少する中でも、いわゆる共働き世帯の割合が増加している。総務省「労働力調査」によると、2000年から2020年にかけて、共働き世帯が1,319万世帯から1,516万世帯に増加し、専業主婦世帯が1,032万世帯から680万世帯に減少した結果、共働き世帯の占める割合は56.1%から69.2%へ上昇した2第3-1-1図(5))。

共働き世帯の増加もあり、女性の雇用者数が増加

こうした世帯構成や働き手の数の変化を雇用面からみていこう。総務省「労働力調査」では、雇用者を世帯類型や続柄別に集計しているが、現行の続柄区分に基づく3データをみると、役員を除く雇用者のうち、単身世帯割合が3%ポイント上昇する一方、2人以上世帯の世帯主の割合は、2.4%ポイント低下し、同世帯の配偶者の割合が4%ポイント上昇している(第3-1-2図(1))。男女別に続柄別の雇用形態をみると、男性の2人以上世帯の世帯主では、高齢期の雇用増も反映し、契約社員・嘱託等の雇用形態が増加している。単身者では、正規雇用の割合は2000年から2020年の間に10%ポイントほど低下したが、2010年以降、正規雇用者数は増加している(第3-1-2図(2)(3))。また、配偶者の続柄にある女性の雇用者は、総数が2000年の973万人から1,343万人へと約4割増加しているが、正規雇用や契約社員・嘱託、あるいは派遣も伸長し、パート・アルバイトの割合は5割強と変わらない(第3-1-2図(4))。単身者の女性については、2000年から2010年の間は増加がみられないものの、その後は大幅に増加している。減少していた正規雇用者数は増加に転じているが、契約社員・嘱託や派遣形態の雇用者が増加したこともあり、その割合は67.6%から55.3%へ低下している(第3-1-2図(5))。

2013年以降、いわゆる不本意非正規の割合は減少

総務省「労働力調査」では、非正規雇用労働者が現職の雇用形態に就いている理由への回答がある。65歳以上の男女及び15~64歳の女性による回答を2013年と2020年の2時点で比べると、2020年は「自分の都合の良い時間に働きたい」の回答割合が増えており、また最も高くなっている。65歳以上の男女では、「正規の職員・従業員の仕事がない」の回答割合が低下しており、希望する雇用形態での就業が促されているとみられる。15~64歳の女性の回答では、「家事・育児・介護等と両立しやすい」が増加となる一方、「家計の補助・学費等を得たい」や「正規の職員・従業員の仕事がない」の回答割合は減少しており、こちらも選択動機に変化がみられる(第3-1-3図(1))。

雇用形態の変化もあり、労働時間数は減少

以上のような雇用者や雇用形態の変化を受けて、平均的な労働時間は減少傾向が続いている。月間の一人当たり労働時間は、20年間で154.7時間から135.2時間まで減少している。減少時間(19.5時間)について、フルタイムの一般労働者の労働時間、パートタイム労働者の労働時間、パートタイム労働者比率に要因分解すると、それぞれの寄与は、6.3時間、5.4時間、8.2時間となる。労働時間の短縮は、一般、パートそれぞれでも進んだが、高齢者や女性の労働参加が進み、パートタイム労働者の割合も上昇してきたことから、雇用形態の変化によって、42%程度が説明される結果となっている(第3-1-3図(2))。もっとも、次項にて詳しくみていくが、2020年の労働時間には感染症の影響を受けた休業による減少が含まれており、2019年までの寄与をみると、それぞれ3.4時間、4.1時間、8.5時間と、雇用形態の変化によって説明される割合は54%程度となる。

コラム3-1 外国人労働者の動向

我が国における外国人労働者数は、2008年に48.6万人、雇用者全体に占める割合は0.9%だったが、2019年には165.9万人に達した。2020年は、感染拡大に伴う出入国制限措置が取られたことから増勢は大幅に鈍化したものの、172.4万人となり、雇用者全体に占める割合は2.9%となっている(コラム3-1図(1))。

外国人労働者の増加に伴い、外国人を含む世帯(外国人のみの世帯と、日本人と外国人の複数国籍世帯の合計)数も増加している。住民基本台帳で比較可能な2013年以降、7年間で141.1万世帯から216.6万世帯へと増加し、総世帯の増加数に占める割合は30.9%となっている(コラム3-1図(2))。

2020年の外国人労働者の内訳を在留資格別にみると、身分に基づく在留資格(定住者・永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等)が54.6万人と最も多く、次いで技能実習40.2万人、資格外活動(留学生のアルバイト等)37.0万人、専門的・技術的分野の在留資格36.0万人、特定活動4.6万人となっている(コラム3-1図(3))。

産業別に在留資格の動向をみると、在留目的が仕事と連動する技能実習及び特定活動4について、前者は建設業や製造業、後者は医療・福祉の割合が高い。資格外活動は宿泊業・飲食業、卸売・小売業等が多く、留学生等がアルバイト等として就業していることがうかがえる。また、我が国の経済社会の活性化や一層の国際化を図る観点から就労目的で在留が認められている専門的・技術的分野は、情報通信業に就労する外国人の8割弱、教育業の約4割を占めている(コラム3-1図(4))。

専門的・技術的分野として分類されている在留資格のうち、2019年4月に創設された特定技能5は、製造業のほか農業や建設業に多く、2021年3月で約2万人を超えている(コラム3-1図(5))。このほか、特に高度な専門知識や技術等を有すると認められた外国人に対して付与される在留資格である高度専門職の動向をみると、制度創設の2015年4月以降、国が積極的に高度外国人材の受入れを推進したこともあり、2020年末現在における在留者数は約1.7万人に達している(コラム3-1図(6))。

2 感染症下における雇用の変化

前項では、世帯構成と働き手の変化、そして雇用形態の変化について、女性の雇用者が増加したことや平均労働時間が減少してきたことを示した。ここでは、2020年以降の感染拡大下において生じた変化をみていく。

2020年の労働時間減少は、休業を反映する出勤日数の減少が主要因

前項でも触れたとおり、2020年の労働時間の減少が感染症の影響を受けていることは明らかであるが、その要因がどの程度なのか分析しよう。具体的には、業種別の一人当たり労働時間(一般労働者)の減少について、1)一日当たり労働時間、2)土日数や祝日数の増減といったカレンダー要因、3)感染症の影響を含む休業や有給休暇取得等のその他の出勤日数要因の三つに分解する。その際、2019年との差をとることによって、感染症の影響を評価しよう。

まず、製造業では最初の緊急事態宣言下にあった2020年5月に17時間程度の落ち込みがみられ、3)その他の出勤日数要因が多くを説明していた。その後、宣言が解除されて経済活動が再開されたが、生産の増加に伴って、こうした要因の寄与は相対的に小さくなっている(第3-1-4図)。

非製造業は業種別に評価しているが、一人当たり労働時間は、情報通信業や医療・福祉では、おおむね2019年並みかそれを上回る長さで推移し、3)その他の出勤日数要因による減少はほぼなかったものの、感染症の影響を大きく受けた宿泊・飲食サービス業や生活関連サービス・娯楽業では様相が異なる。2020年5月には50時間程度の大幅な落ち込みがみられ、減少の8~9割が休業を含むその他の出勤日数要因によって説明される。その後は、労働時間の減少幅に縮小傾向はみられるものの、2021年1月以降、再度の緊急事態宣言の下で飲食業等に限定して営業の自粛要請等が実施されたこともあり、その他の出勤日数要因のマイナス幅が再び拡大している。

雇用者数を感染拡大前と比べると、正規雇用は増加し、非正規雇用は減少

2020年の労働時間は、需要変動を調整するために大きく変化したが、時間調整を超えて雇用者数も変動した。感染拡大前の2019年と比べると、雇用者数は、2020年4-6月期に大きく減少し、減少した水準から持ち直しの動きが始まるのは10-12月期であった。2021年の前半6か月は、振れを伴いながらも2019年に比べると減少した水準で推移している。雇用形態別にみると、パート・アルバイト等の雇用者数が減少している一方、正規の雇用者数は増加基調で推移している(第3-1-5図(1))。

性別及び年齢別にみると、2020年は、男女ともに減少していたが、今年に入り、女性の雇用は男性よりも早く持ち直している。女性の雇用増減を年齢別に分けると、65歳以上の雇用者数(2019年対比)は、2021年に入ってからプラスで推移し、64歳以下はいまだマイナスである。男性の雇用者数は、64歳以下のマイナス傾向が続いており、65歳以上はおおむね2019年水準で推移している(第3-1-5図(2))。

男女の年齢別雇用者の動きを正規・非正規別にみると、65歳以上の女性は、正規・非正規のいずれの雇用形態においても、2019年に近い水準で推移しているが、64歳以下の女性は、正規が増加傾向、非正規は減少傾向で推移してきた。こうした動きの背景としては、医療・福祉業などにおける基調的な正規雇用者の増加があるほか、いわゆる働き方改革の一環として、パートタイム・有期雇用労働法が2020年4月から大企業(2021年4月から中小企業)に対して施行されたことが影響している可能性も考えられる。企業においては、正規雇用者と非正規雇用者の不合理な待遇差の解消を図る際、ボーナス制度の導入等を通じた非正規雇用の待遇を変える動きだけでなく、同時に、非正規雇用の者を正規化する動きがみられた6。2020年以降の感染拡大下においても、こうした動きが継続していたことがうかがえる。なお、男性の場合は、65歳以上において、正規雇用が増加傾向、非正規雇用が減少傾向となっており、女性と同様の動きがみられるが、64歳以下については、正規・非正規のいずれの雇用形態においても減少傾向がみられた(第3-1-5図(3)(4))。

また、2021年1-6月の雇用者数について、産業別・雇用形態別に2019年からの増減をみると、感染症の影響が大きい宿泊・飲食サービス業や生活関連サービス・娯楽業では、女性を中心に非正規雇用が大幅に減少している。一方、需要が増加している情報通信業や医療・福祉等では正規雇用が増加している(第3-1-5図(5))。

感染症の影響が大きい属性は、国内外に類似性

感染拡大を受けた就業環境の変化は我が国だけで生じたものではなく、世界各国でみられた7。ここで、OECD(2021)が加盟国における雇用変動を分析した結果を紹介しよう。これによると、加盟国で感染拡大による雇用への影響が顕著に現れた2020年4-6月期を中心に雇用調整圧力が生じたが、影響を受けた雇用者の傾向として、1)雇用形態ではパートタイム、2)個人属性では若者と高齢者、男女間では相対的に女性(第3-1-6図(1)8、3)教育期間別では短期間(相対的に低スキル)9、賃金水準別では相対的に低賃金者に影響が出たとされている。これを就業先の業種別にみると、雇用調整が大きい順に、宿泊・飲食サービス業、運輸・保管業、卸売・小売業等、製造業となっている(第3-1-6図(2)10

こうした海外での分析結果を踏まえて、我が国における感染症が雇用に与えた影響についてみると、2019年時点でも進学率の上昇を背景として大学卒以上の雇用者数は増加傾向、高校卒等には減少傾向がみられたが、2020年4-6月期から2021年1-3月期にかけて、大学卒以上の雇用者数は引き続き増加する一方、高校卒等を中心に雇用者数が大きく減少するなど、学歴別にみた雇用動向の違いが顕著となった(第3-1-7図(1))。また、産業別の雇用増減をみると、感染拡大のあった2020年においても、正規雇用者数は、宿泊・飲食サービス業において減少傾向がみられたものの、全体としては前年よりも増加傾向で推移した。他方、非正規雇用者数は、宿泊・飲食サービス業を中心として、ほとんど全ての業種で減少した(第3-1-7図(2))。

3 感染拡大下における働き方の変化

前項では、感染症の影響による労働時間の減少は休業による調整が大きいことや、こうした影響が幾つかの業種に集中していること、またOECD諸国においても、同様の減少が生じていたことを紹介した。ここでは、感染拡大をきっかけに顕著となった働き方の変化、テレワークについて取り上げる。

感染拡大前後では、テレワーク実施率に水準差

テレワークの実施率及び実施頻度について、内閣府が実施した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(以下、内閣府意識調査という)を用いて推移をみよう。ここで比較するのは、第2回調査結果の<1>感染拡大前の2019年12月、<2>最初の緊急事態宣言が解除された直後に実施した2020年5月、<3>第2回調査期間(同年12月11日~12月17日)の3時点と、3回目の緊急事態宣言中であった<4>第3回調査期間(2021年4月30日~5月11日)の合計4時点である。

限られたサンプル調査の結果であり、一般化には留意が必要であるが、4回の結果をみると、感染拡大前に比べると、感染拡大後のテレワークの実施率(いずれかの形でテレワークを実施した割合)は、振れが大きいものの高まっている。また、感染拡大後の実施率は、全国平均が2~3割程度であるのに対し、東京都23区居住者の平均は4~5割強と高い(第3-1-8図(1))。テレワークの実施頻度別にみると、東京都23区は、「ほぼ100%テレワーク」と回答した割合が全国平均の2倍以上、また、50%以上実施する「テレワーク中心」と回答した割合も全国平均を大幅に上回っている。ただし、2020年5月時点では「テレワーク中心」と回答した割合は3分の1以上を占めていたが、2021年5月時点では、全体の実施率が上昇する中で、その割合は若干低下した。特に、ほぼ100%「テレワーク」とする割合は23.9%から14.3%へと大きく減少し、テレワークと出勤を組み合わせる形への移行がみられる。

なお、どの程度の雇用者がテレワークを実施可能かについて、アメリカの研究例によれば、アメリカでは最大37%の労働者が在宅勤務可能と試算している11。これを応用した日本の研究例によれば、我が国では3割前後の労働者が実施可能とされている12

テレワーク実施と通勤時間の減少により、生活時間の配分は変化

次に、感染拡大前後の通勤時間の変化をみると、テレワークの実施状況と連動しており、通勤時間が「減少した」とする割合は、全期間を通して東京都23区が最も多くなっている。ただし、その割合は2021年5月調査では若干低下しており、前述のテレワークと出勤を組み合わせる形への移行の動きと整合的となっている(第3-1-8図(2))。

テレワークの実施や通勤時間の短縮は、結果として在宅時間の増加をもたらしている。感染拡大前と比較した家族と過ごす時間の変化をみると、2020年5月時は、約7割が感染拡大前よりも増加したと回答し、その後の調査においても5割弱となっている (第3-1-8図(3))。また、感染拡大前の2019年12月と比較して「家族と過ごす時間が増加した」と回答した者に対して「現在の家族と過ごす時間を保ちたいと思うか」と聞いた設問については、「保ちたい」あるいは「どちらかというと保ちたい」とする割合が8割を超えている。こうしたこともテレワーク実施率の定着には寄与したと考えられる。なお、テレワークを実施したメリットとして、通勤時間の削減や家族と過ごす時間の増加(余暇時間の増加)を挙げる結果は、複数のアンケート調査でも確認されている。例えば、国土交通省(2021)では、テレワークのメリットとして、回答者の7割強が通勤の負担軽減を、また約6割が時間の有効活用を挙げている。パーソル総合研究所(2020)のアンケート調査でも、通勤や移動にかかる時間の削減や通勤や移動のストレスがないとの回答が各々7割、また家族と過ごす時間が取れるとの回答が5割となっている。このほか、労働政策研究・研修機構(2021)では、在宅勤務継続者の平日一日当たり余暇時間は、感染拡大前と比較した場合、2020年4~5月中は0.3時間、2020年12月は0.16時間程度増加したとしている。

ルーティン(定型)化した仕事はテレワークに馴染まない傾向

感染拡大を契機にテレワークの普及が進んだことを指摘したが、これを更に進めるには、普段行っている仕事のうち、どの程度をテレワークに移行可能かを把握することが有用である。テレワーク実施率と仕事=タスクの性質に関する雇用者の主観的な意識(ルーティンワーク(定型的な仕事)の度合い、肉体労働の度合い、対人でのやりとりの度合いを、回答者が主観に基づき0~100までの値で回答。)との関係に着目した先行研究1314によると、「ルーティンワークの度合い15」が高いほどテレワークの実施率が低下(-7.1%ポイント)するとされる。そこで、「ルーティンワークの度合い」とテレワーク実施率の関係を感染拡大前の2019年12月と感染拡大後の2020年12月で比較した。まず2019年12月には、職種単位での「ルーティンワークの度合い」が相対的に低いほどテレワーク実施率が高いという傾向がみられたが、2020年12月には傾向線の傾きが急になり、その傾向が一層顕著になったことがうかがえる(第3-1-9図(1))。さらに、2時点間におけるテレワーク実施率の変化幅と「ルーティンワークの度合い」との関係をみると、両者にも右下がりの関係がみられるものの、「ルーティンワークの度合い」が相対的に低い職種におけるテレワーク実施率は総じて上昇する一方で、「ルーティンワークの度合い」が相対的に高い職種のそれはあまり変化していない(第3-1-9図(2))。なお、この1年間で20%ポイント以上テレワーク実施率が上昇した職種をみると、技術者、企画・販促系の事務職、IT関連の専門職となっている。

テレワーク時の意思疎通や情報交換の難しさにより、主観的な労働生産性は低下

ルーティン化していない仕事がテレワークに馴染みやすい傾向にあることが示されたが、テレワークの実施は生産性にどのような影響を与えるだろうか。雇用者が感じる主観的な生産性の変化について、内閣府をはじめ幾つかの機関で調査されている。2020年4月から2021年5月までに実施された5つの調査結果では、いずれも上昇より低下したとの回答割合が多い。上昇と変化なしを識別できない例を除き、低下から上昇の割合を引いた指標(DI)を算出すると、16~53.5と幅は広いものの、いずれも低下超となっている(第3-1-10図(1)1617

では、生産性が低下したと感じる要因は何か。2021年5月に実施された内閣府意識調査では、ハード面におけるデメリットを指摘する声もあるが、「社内での気軽な相談・報告が困難」、「取引先とのやりとりが困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」といったソフト面を挙げる回答が上位3位を占める(第3-1-10図(2))。このようにデジタル化に馴染まない仕事や情報交換の方法が生産性低下の要因であるとの指摘は他の調査研究でも指摘されている18

以上をまとめると、テレワーク実施時の平均的な生産性は職場勤務時より低下したと回答した雇用者は多いが、その原因は、在宅勤務実施に必要な環境整備といったハード面もあるが、より構造的な課題として、平均的な雇用者にとって、出勤時には可能な、社内での気軽な相談や報告、相対でのみ可能な円滑なコミュニケーションがテレワーク実施時には困難であることにより、生産性に影響を与えていることが考えられる。また、2021年5月の調査結果でみられた「ほぼ100%テレワーク」から職場勤務を組み合わせる型へ働き方の移行もみられ、労働生産性の改善が期待される。感染防止の観点からは、弾力的にテレワークの実施率が高められるような仕組みが必要である。


(1)総務省「国勢調査」や国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」における正式な呼称は「単独世帯」であるが、ここでは文脈上「単身世帯」と記載することとする。
(2)男性就業者世帯に占める共働き世帯の割合。
(3)「子又は子の配偶者」の区分は「労働力調査(詳細集計)」以降設けられた。
(4)法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動。例えば、外交官等の家事使用人やアマチュアスポーツ選手、経済連携協定に基づく外国人看護師、介護福祉士候補者等。在留期間は5年、3年、1年、6月、3月又は法務大臣が個々に指定する期間(5年を超えない範囲)とされている。
(5)特定技能制度とは、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる仕組み。特定技能1号と特定技能2号があり、介護分野や農業分野をはじめとした特定産業分野14分野において特定技能外国人の受入れを行っている。特定技能1号は相当程度の知識又は経験を必要とする技能を必要とする業務に従事するとされ、特定技能2号は熟練した技能を必要とする業務に従事するとされている。なお、特定技能2号については、現時点で建設分野及び造船・舶用工業分野においてのみ受入れを行うこととされている。
(6)内閣府(2020)第2章第2節を参照。
(7)ILO(2021)のまとめによると、世界全体での2020年の労働時間は感染症拡大前の2019年10-12月期と比較して8.8%、フルタイム労働者換算で2億5,500万人に相当する減少となり、リーマンショック時の約4倍となった。雇用喪失の規模は2019年比で1億1,400万人、このうち失業者は3,300万人、非求職者数は8,100万人と、主として非求職者数の増加によりもたらされているとしている。また、雇用減少率は男性が3.9%減、女性が5.0%減と女性の減少率が高く、25歳以上の成人労働者よりも15~24歳の若年労働者の減少率が相対的に高かったとしている。
(8)なお、リーマンショック時に影響を受けた労働者については、正規雇用者、男性が多く、就業先も製造業を筆頭に、情報通信、金融等であったことから、今回との違いが指摘されている。
(9)低スキルの定義は、学歴が高校中退以下、もしくは、ごく簡単な文章が読めるとともに単純な算数・計算ができる、とされている。
(10)OECD(2021)では、低スキル職種は一般に人工知能や機械により代替されやすく、感染拡大前より雇用者が機械に代替される動きはあったこと、感染拡大を契機に感染リスクを回避する必要性から非接触・非対面に向けたデジタル化・省力化投資が加速していること、を理由として、感染症拡大の影響が長期化する中で経済構造も変化しているため、感染拡大が終息し景気が回復しても、最も感染症拡大の影響を受けた産業や労働者グループについては回復が遅れる、もしくは戻らない可能性が高いとみている。また、このような労働需要の労働集約型から技能集約型へのシフトは、従前から存在していた労働者間の処遇格差拡大につながる恐れがあることから、成長分野への失業なき労働移動のために、職業訓練や労働者の職業能力向上がポストコロナにおける各国共通の課題であるとしている。
(11)Dingel and Neiman(2020)による。アメリカの職業情報データベースであるO-NET(Occupational Information Network)に基づき、968の職業について、職業毎の業務情報から在宅勤務可能性指標の値を算出している。
(12)小寺(2020)による。Dingel and Neiman(2020)の分析結果を我が国に適用するため、「職業情報提供サイト」(以下、「日本版O-NET」という)」のデータを利用してアメリカと日本の総務省「国勢調査」における職業小分類とアメリカの職業分類との対応関係をより実態に沿うよう補正して試算している。なお、「日本版O-NET」とは、「未来投資戦略2018」(平成30年6月15日閣議決定)に基づき、2020年3月より開設されたもの。
(13)例えば石井他(2020)による研究。彼らは、2020年4~5月に実施した労働者に対するアンケート調査結果を用い、小寺(2020)による職業小分類単位の在宅勤務可能性指標を総務省「平成27年国勢調査」の職業小分類単位の就業者シェアをウエイトとして加重平均し、職業大分類レベルの在宅可能性指標として算出した上で、個人属性が2020年の緊急事態宣言下での在宅実施確率に与えた影響を分析している。在宅勤務実施率に有意な影響を与えた個人属性は、学歴、収入水準、勤務先の企業規模、雇用形態などである。各々高学歴、高収入、大規模、正社員といった属性を持つ労働者ほど在宅勤務がしやすい職種に偏在しており、在宅勤務可能性に属性に基づく職種差が存在することを示した。加えて、ワークライフバランスへの配慮やキャリア・アップ支援の存在など、企業における人材マネジメントの違いも在宅勤務の実施可能性に影響することを示した。
(14)川口・茂木(2020)による研究。彼らは、リクルートワークス「全国就業実態パネル調査」を用いて、テレワーク実施の有無に対する個人属性、企業属性、タスクの性質 、人的資源管理変数の影響を分析している。タスクの性質以外にも、人的資源管理変数の一つであるKPI(目標を達成する上でその達成度合いを計測・管理するための定量的な指標)設定の有無も影響が大きく、成果が観察可能となるため、テレワーク実施率が有意に高くなる(3.3%ポイント)という結果を報告している。
(15)これは、リクルートワークス「全国就業実態パネル調査」における「ルーティンワークの度合い」である。データは、回答者自身の仕事に関して「繰り返し同じことをする」割合および「その都度違うことをする」割合を、合計して100%になるよう質問することで作成されており、「職種別のルーティンワークの度合い」とは、「繰り返し同じことをする」割合の職種別平均を指す。
(16)森川(2020)は、最初の緊急事態宣言が解除された後の2020年6月下旬に実施した就労者に対する調査に基づいた分析をしている。同調査の生産性とは、在宅勤務を行っている雇用者による、職場勤務時を100とした場合の在宅勤務時の生産性の割合という主観に基づく回答であり、0から200の間の値をとる。その結果は、在宅勤務の生産性が職場勤務時に比べ低いとした者の割合は82%となり、平均的な生産性は60~70%程度とかなり低下していた。この結果を感染拡大前から在宅勤務を実施していた者とそうでない者に分けると、前者が76.8%に対し、後者が58.1%と18.7%ポイントの差がみられた。感染拡大以前から在宅勤務を行っている者の生産性が相対的に高い理由としては、在宅勤務でも生産性が低下しないタイプの仕事を行っていること、あるいは自宅の執務環境が良好な者が在宅勤務を行っているという選別効果や、在宅勤務経験の蓄積を通じた学習効果などが考えられるが、いずれの理由で相対的に高いとはいえ、職場勤務時よりは低下するとの結果を得ている。
(17)パーソル総合研究所(2021)も主観的な生産性変化を調べている。職場勤務時を100とした場合の在宅勤務時の生産性は、感染拡大前からテレワークを実施していた者は89.4、感染症対策を契機にテレワークを開始した者が82.2と、後者の生産性が相対的に低いものの、いずれの者でも出社時と比較した場合に生産性は低下するという結果が得られている。
(18)前出の森川(2020)の場合、1)「職場のようにフェイス・トゥ・フェイスでの素早い情報交換ができない」(38.5%)、2)「自宅はパソコンや通信回線などの設備が勤務先よりも劣る」(34.9%)、3)「法令や社内ルールによって自宅ではできない仕事がある」(33.1%)、4)法令や社内ルールによるものではないが、自宅からでは現実にできない仕事がある」(32.4%)、5)「自宅だと家族がいるので仕事に専念できない」(19.9%)、6)上司、同僚、部下の目がないので緊張感がなくなる」(19.3%)、7)仕事ができる自分専用の部屋がない」(15.1%)、8)「その他」(10.2%)となっている。
[目次]  [戻る]  [次へ]