第3章 女性の就業と出生を巡る課題と対応 第1節
第1節 女性の就業と子育てを巡る現状と課題
本節では、女性の就業と子育てを巡る現状に関する分析を行い、そこから導き出される今後の課題について検討する。具体的には、欧米主要国との国際比較や日本国内の地域間・都道府県間の比較を通じて、それぞれの年齢階級でどのような特徴があるのかを明らかにする。加えて、就業形態の差についても、国際比較、国内の地域間比較を行いその特徴を示す。また、子育て世帯の就業促進に向けて、公的支援による効果や浸透状況、今後の課題についても指摘する。
1 他国と比較した我が国の特徴
●我が国の女性労働参加率は2013年頃から上昇テンポが加速
まず、女性の労働参加率の変化を各国と比べることで、我が国の女性就業を巡る状況を確認する。欧米主要国における15~64歳の女性の労働参加率の推移をみると、スウェーデンが一貫して高い水準で推移しているほか、英国は徐々に上昇し、2000年代半ばにはアメリカを超え、その後上回って推移している(第3-1-1図(1))。アメリカについては、他国で労働参加率が上昇する中、停滞が続いている1。ドイツの労働参加率は、徐々に上昇し、最近では英国と同程度となっている。我が国については、緩やかな上昇が続いてきたが、2013年頃から上昇の勢いを増している。その水準はスウェーデンと比較すると依然として差がみられるものの、英国、ドイツと同程度の水準となっている2。
次に、年齢階級別に労働参加率の推移をみると、20歳代後半(25~29歳)では、スウェーデン、イタリアを除き、各国ともにおおむね上昇傾向で推移し、最近では、イタリアを除く各国の水準はほぼ同程度になっている。なお、スウェーデンは、もともとの水準が高かったこともあり、この20年ほぼ横ばいとなっている。我が国の労働参加率も欧米主要国とほぼ変わらない水準を実現し、直近の2019年では比較した国の間では最も高い水準となるほど20歳代後半女性の労働参加は着実に進展している(第3-1-1図(2))。30歳代前半(30~34歳)でも、多くの国で上昇傾向が確認できる。我が国では2000年代半ばには6割程度、その後も着実に上昇を続け、最近では7割超に達している(第3-1-1図(3))。30歳代後半(35~39歳)についても、多くの国で緩やかな上昇が確認できる。我が国については、2000年代半ば以降上昇傾向が確認できるが、スウェーデンやフランス、ドイツ、英国といった欧州諸国とは依然として水準に開きがある(第3-1-1図(4))。
以上、出産・育児により低下することが指摘されていた20歳代後半から30歳代後半の年齢階級における我が国の女性の労働参加率をみると、いずれの年代においても上昇しているが、30歳代では欧米主要国に比べて差がみられ、今後、その水準が上昇する余地は残されている。
●我が国の25~54歳女性のパートタイム労働者比率は高め
我が国の女性の労働参加率は高まってきているが、就業形態については、どのような特徴があるのか、引き続き各国との比較を通じて確認する。
まず、各国の女性のパートタイム労働者比率の推移をみる(第3-1-2図(1))。国によってそのばらつきは大きく、2000年以降の変化についてみると、我が国やイタリアでは上昇傾向がみられ、2019年までに、それぞれ約10%ポイントと9%ポイントの上昇となっている。他方、英国やスウェーデンでは低下傾向がみられ、2019年までにそれぞれ5%ポイントと4%ポイントの低下となっている。
次に、全体の6割以上を占める25~54歳3のパートタイム労働者比率の推移をみる(第3-1-2図(2))。ドイツや英国のパートタイム労働者比率は高いが、趨勢的に低下しており、この点では水準は低いフランスやスウェーデンも同じ傾向である。我が国はイタリアと類似しており、緩やかな上昇傾向がみられる。
以上、我が国ではパートタイム労働者比率が緩やかに上昇するグループに属しており、また、ドイツや英国と同様に比率は高めとなっている。一般的に、パートタイム労働への従事は、家計の補助的な収入を担う役割と位置付けられることが多く、働き方としても、臨時的、一時的な就業にとどまることも多い。
●我が国を含め各国の子育て世帯の女性就業率は、子どものいない世帯よりも低い水準
これまでみたとおり、我が国の女性の労働参加は進んできたが、30歳代の労働参加率が欧米諸国との比較では低めであり、上昇の余地がある。こうした現状の背景の一つとして、子育ての多くを女性が担っていることが女性就業の阻害要因になっている可能性もある。
そこで、配偶者のいる25~54歳の女性について、子どもの有無によって就業率にどのような違いが存在するのか、国際比較によって確認する(第3-1-3図)。まず、6歳未満の子どもがいる女性の場合、その就業率は、英国では7割程度、フランスやアメリカでは6割を上回っているが、我が国では2015年の実績値が5割程度、過去5年の上昇傾向を基に算出した2018年の推計値でも5割台半ばにとどまる。最年少の子どもが6歳以上になると、我が国でも就業率は7割以上となるが、英国やフランスでは8割程度と高く、依然として差がみられる。さらに、子どものいない女性の就業率と比較して、6歳未満の子どもの存在が平均就業率をどの程度押し下げるのかを求めると、比較している4か国では14%ポイント程度(10~16%ポイント)の押下げとなっている。我が国では、2015年の実績値で17%ポイントの押下げとなっていたが、2018年の推計値では14%ポイントまで縮小し、比較している国と同程度となっている。
こうした子育て世帯の女性就業率が低下することは、一時的にでも労働市場から退出する女性が多く、離職に伴うキャリア形成の断絶が生じていることを示唆しており、継続就業が可能となる環境整備が重要である。
2 地域間比較を通じた特徴
次に、我が国の女性の就業の動向について、国内の地域間・都道府県間の比較を通じて、女性の就業と子育てを巡る現状について整理し、課題を提示する。
●地域間の就業率差は、子どものいる女性の就業率差が主要因
まず、女性全体の就業率(15歳以上人口に対する就業者の割合)の傾向について、地域別に確認をする(第3-1-4図(1))。全国の女性就業率は、2010年頃までほぼ横ばいで推移してきたが、2013年以降は上昇している。地域別にみても、水準に差があるものの、何処においても、2013年以降は上昇している。特に、水準の高かった北陸や東海に加え、近年では南関東や沖縄の上昇が顕著である。
次に、各地域と全国の就業率の差を生み出す要因について、年齢階級別に比較する(第3-1-4図(2))。ここでは、ある年齢階級の就業率は、子どものいる女性の就業率と子どものいない女性の就業率の加重平均であるという定義関係を利用し、子どものいる女性の就業率差、子どものいない女性の就業率差、子どものいる女性比率の差、と3つに分ける。
具体的にみると、南関東の25~29歳階級は、全国平均よりも就業率が1.9%ポイント高いが、その要因は、第一に、子どものいる女性の割合(全国より低い)、第二に子どものいない女性の就業率(全国より高い)が押上げ要因となっており、子どものいる女性の就業率(全国より低い)は押下げ要因となっている。一方、中国、四国、九州、沖縄といった地域では、子どものいる女性の割合(全国より高い)は押下げ要因、子どものいる女性の就業率(全国より高い)は押上げ要因となっており、南関東とは逆の構造となっている。ただし、この年齢階級では、全国的に子どものいない女性の割合が高いため、子どものいない女性の就業率が全国との差をもたらしていることが分かる。30~34歳階級以上では、子どものいる女性の割合による違いは縮小し、多くの地域において、子どものいる女性の就業率要因が決定的に重要になっている。その結果、子どものいる女性の就業率が全国より高い東北、北陸、沖縄といった地域では、全国平均より就業率が高くなっている。年齢階級が上昇すると、子どものいる女性の割合や子どものいない女性の就業率は一層影響度が低下する。東北、北陸では全国平均より子どものいる女性の就業率が高く、南関東や近畿といった大都市圏を擁する地域では、子どものいる女性の就業率が低くなっており、地域全体の就業率に影響している。
●正規雇用比率の地域差には産業構造が関係
女性の就業形態についても、地域別に確認する(第3-1-5図(1))。2019年の年齢階級別の正規雇用比率(総務省「労働力調査」)をみると、全国でもほぼ全ての地域でも、25~34歳の年齢階級で最も高くなっており、その後年齢階級が高くなるにつれて低下する。ただし、正規雇用比率は低下程度には地域差がある。特に、東北、北陸では、35~44歳、45~54歳の年齢階級においても正規雇用比率は5割程度を維持し、中国や四国においても、全国より高い水準となっている。
加齢に伴う正規雇用比率の低下程度に地域差がみられる背景には、雇用業種による違い、産業立地の違いがある。2017年の都道府県データ(総務省「就業構造基本調査」)を用いて、女性就業者に占める医療・福祉、製造業それぞれの割合を横軸、女性就業者に占める正規雇用比率を縦軸に散布図を描くと、これらの産業への就業者割合が高いほど、正規雇用者の比率は高くなる傾向が確認できる(第3-1-5図(2))。
●子育て世帯の就業率にみられる地域差の背景の一つには3世代世帯同居比率
子どものいる女性に限った就業率(総務省「国勢調査」)を30歳代・40歳代でみると、年齢階級が高くなるにしたがって上昇し、全国では45~49歳の年齢階級でピークとなる(第3-1-6図(1))。これは、子どもの年齢が上昇するにしたがって、子育てが就業の阻害要因となりづらくなることと整合的である。地域別にみても、その傾向はほぼ同様であるものの、その水準には地域差がある。北陸の就業率はいずれの年齢階級においても高く、東北、中国、四国、九州・沖縄といった地域の就業率も全国平均を上回っている。一方、南関東や近畿といった大都市を擁する地域や北海道の就業率は全国平均を下回っている。
これらの地域差は、子育て世帯を取り巻く様々な環境が影響しているが、その一つは3世代同居の程度である。先行研究においても、3世代同居をしている、あるいは両親と近距離に居住する子どものいる女性は、そうでない女性よりも就業率が高いと指摘されている4。そこで、各地域の3世代世帯の占める割合を確認すると、北陸や東北は高く、子どものいる女性の就業率が高い地域と一致する(第3-1-6図(2))。また、北海道、南関東、近畿ではその割合は低く、これも子どものいる女性の就業率が低い地域と一致する5。
厚生労働省(2015)によれば、親世代との同居や近居を理想とする人が過半数となっており、子育て世代は近居を志向する傾向がある。こうしたことも背景に、3世代の同居・近居を後押しすることを意図して、住宅リフォームへの補助6やUR賃貸住宅の家賃減額7などの施策が講じられている。なお、子どものいる女性の就業率差の背景には保育環境の整備状況なども挙げられるが、これについては、後述する。
3 子育て世帯の就業促進にむけて
子育てと継続就業の両立は重要な政策課題となっているが、これまでみたとおり、子育て世代の女性就業率はもう一段上昇できる余地があり、また、雇用形態についても、正規化を促すことが求められている。以下では、保育所増設、育児休業制度、正規雇用化の三点について、政策対応とその効果を概観する。
●保育環境整備には就業促進効果
子育て世帯に対しては、前述の3世代同居・近居の後押しも含め様々な公的な支援が行われている(付表3-1)。その中でも、保育環境の整備が進んでいるが、保育所等定員数の推移についてみると、2010年の約216万人から増加が続き、2020年には、約297万人となるなど、量的な拡充が図られていることが分かる(第3-1-7図(1))。保育の受け皿としては、他にも企業主導型保育事業などがあり、2020年4月1日時点では約313.5万人分となっている。他方、待機児童数の推移をみると、2010年の約26,000人から減少が続いていたものの、2015年以降は再び増加したが、これには、就業が進んだことに加え、子ども・子育て支援新制度(2015年4月~)の開始に際し、保育を必要とする事由として、フルタイム以外のパートタイム、夜間、居宅内の労働のほか、求職活動、就学などが追加されたという、保育サービスの利用範囲を拡充した効果も含まれている。その後、2018年以降は大きく減少しており、2020年の待機児童数は約12,000人となっている。
こうした保育環境の整備(保育所等定員率(保育所等定員数の未就学児人口に対する割合))と女性就業率(既婚、未婚を含む20~49歳の女性の就業率)の関係について、都道府県別に2010、15、17年の3時点について描くと両者には正の相関関係がみられる(第3-1-7図(2))。就業している女性の増加に対応して保育環境の整備が促されるという面もあるが、保育所等定員が計画的に増加したために女性の就業が促されていると考えられる8。
こうした保育の量的拡大や充実は、1994年の「エンゼルプラン」でも掲げられて以降、少子化対策の一環として進められてきた。2018年度からの3か年計画である「子育て安心プラン」においても前述のとおり保育の受け皿確保が進められており、2021年度以降も、必要な者に適切な保育等が提供されるよう取組が進められる予定である。こうした最近の動きについては、統計の制約から細かく分析できないが、地域単位の女性就業率と当該地域の保育所等定員率について2015年から2019年まで描くと、都道府県別の分析と同様に正の相関関係がみられる9。(第3-1-7図(3))。
●育児休業取得は増加しているものの、男性の取得は少ない
子育てをする際には、一時的に休業することができる育児休業制度が定められている。10、11育児休業の取得は、男女ともに子育てをしながら働き続ける環境を提供する上で必要不可欠なものとなっており、制度として用意されているだけでなく、実際に利用しやすい仕組みや取得者への後押しなども重要である。そこで、育児休業の取得状況について、その育児休業給付受給者数の推移を確認する。2009年度には15万人以下であった育児休業給付受給者数はこの10年程度で着実に増加し、2019年度には35万人程度に達しており、2倍以上に増加している(第3-1-8図(1))。育児休業が社会に制度として定着するとともに、子育てをしながら働き続けることを支えているということができるだろう。足下の育児休業給付受給者数をみても、着実に増加傾向が続いている。
一方、育児休業取得者の割合の推移をみると、男女で大きな差がみられる(第3-1-8図(2))。女性の育児休業取得者の割合(在職中に出産した女性のうち育児休業を取得した人の割合)は、2007年時点で9割近くに達しており、その後は8割台で推移している。一方、男性の育児休業取得者の割合(在職中に配偶者が出産した男性のうち育児休業を取得した人の割合)は、2007年は0.50%であり、直近では上昇しているものの、2019年でも7.48%にとどまっている。共働き世帯が標準となった今、配偶者である女性の継続就業のためにも、男性の育児休業の取得が求められており、今後は、企業側の育児休業取得への後押しや、周辺も含めた労働者の意識の変化、またそれらを促す政策対応が必要である12。
●育児休業にも就業促進効果
次に、育児休業の取得状況(育児休業給付受給者数(男女計)の20~49歳女性の就業人口に対する比率)と女性の就業率(既婚、未婚を含む20~49歳)の関係について、都道府県別のデータ(2010、15、17年)を用いて描くと、両者の間には正の相関が確認できる(第3-1-9図(1))。すなわち、育児休業給付受給者の割合が高い地域では就業率も高いことから、取得しやすい環境が就業を促しているとみられる13。また、年々の動きをみると、就業率が高まるにつれて、育児休業給付受給者の割合の押上げ効果(傾き)は小さくなる傾向もみられることから、普及に伴って効果が逓減する性質がうかがえる。
全国の女性就業率(既婚、未婚を含む20~49歳)と育児休業給付受給者数の割合の推移をみると、2010年には7割に達していなかった就業率が2019年には全国平均で75%を上回るまで上昇する中、育児休業給付受給者数の割合は、当該女性人口の1%程度から2%程度まで上昇している(第3-1-9図(2))。
●いわゆるL字カーブの解消には継続雇用率の高い正規雇用化に向けた取組も不可欠
既にみたように、我が国の女性の正規雇用比率は、25~34歳をピークに、年齢が上がるにつれて低下する傾向がある。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」では、長時間労働是正や女性の積極登用・評価に加えて、雇用形態や職種の転換に関する取組14も示し、女性の正規雇用を促そうとしている。また、同法に基づく認定(えるぼし認定)や認定に対する公共調達時の加点評価なども行われている。こうした従前からの取組に加え、出産後の女性の正規雇用比率が低下する、いわゆるL字カーブの解消と継続就業率の向上については、政府による女性の正規化重点支援が行われることとなっており15、今後、女性活躍の観点からも、正規雇用比率の向上がのぞまれる。