第1章 日本経済の現状と課題 第1節

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第1節 海外経済の動向と日本経済への影響

我が国経済は、雇用・所得環境の改善や高い水準にある企業収益などを背景に、緩やかな回復が続いているが、中国経済の減速や世界的な情報関連財の生産調整がみられる中で、我が国の輸出や生産は下押しされ、その影響が製造業を中心に企業収益や投資の一部にも波及している。本節では、中国経済の減速など海外経済の動向や情報関連財の生産調整の影響が、どのように日本経済に影響しているのかを確認するとともに、米中通商問題や海外経済の不確実性など、今後のリスクを中心に検証する。

1 中国経済の減速等の影響がみられる日本経済の現状

我が国経済は、アベノミクスの三本の矢による取組を背景に、企業の稼ぐ力が高まり、雇用・所得環境が改善する中で、緩やかな回復が続いているが、中国経済の減速や世界的な情報関連財の生産調整等により、2018年後半以降は輸出が低下し、生産活動の一部にも弱さがみられている。他方で、高い水準にある企業収益や雇用・所得環境の改善などファンダメンタルズは引き続き良好であり、消費や投資といった内需は振れを伴いつつも緩やかな増加傾向にある。ここでは、2018年後半以降の世界経済の一部の弱さや世界貿易の減速が日本経済に与えている影響について概観するとともに、雇用・所得環境の改善等によって増加傾向が続いている内需の動向について確認する。

中国経済の減速等により輸出に弱さがみられるものの、内需を中心に緩やかな回復が続く

実質GDPの動きをみると(第1-1-1図)、2018年度は0.7%の増加にとどまり、2017年度の1.9%と比べて伸び率が鈍化した。ただし、GDPの各需要項目の動向をみると、内需については、2018年夏の自然災害による下押しはあったものの、雇用・所得環境の改善や高水準にある企業収益等を背景に、個人消費や設備投資がプラスに寄与している。一方で、外需については、輸出の伸びの低下によってマイナスに寄与した。こうした外需の弱さの背景としては、2016年後半から2017年にかけてみられていた世界経済の好循環が、2018年後半に、一部に停滞がみられたことがある。具体的には、2016年後半以降、先進国経済と新興国経済の同時回復がみられ、世界貿易の伸びも高まっていたが、中国における過剰債務問題の対応のためのデレバレッジや、米中間の追加関税・対抗措置等をはじめとする通商問題、英国のEU離脱といった政策に関する不確実性等を背景に、世界経済や世界貿易の伸びが低下したことが挙げられる。加えて、情報関連財分野において、スマートフォン需要やデータセンター向け需要の一服などを背景に、2018年後半以降、世界的に生産調整の動きがみられていることも、我が国の輸出を下押ししている。

2012年末から始まる今回の景気回復期における実質GDPの成長率は年率換算で1.2%程度となっているが、2012年末以降の実質GDPの動向をみると、2018年度だけでなく、2014年度と2016年度においても実質GDPの伸びが回復期間の年率換算値を下回っている。このうち、2014年度については、消費税率の引上げによる駆け込み需要の反動減もあって個人消費がマイナスの伸びとなり、GDPの伸びを押し下げたが、他方で、輸出の好調さを背景に企業収益や雇用は改善が続いた。2016年度については、2015年からの中国経済の減速や資源価格の下落等を背景に新興国経済の成長率が低下した。さらに、2016年6月の英国のEU離脱方針の決定もあって世界経済の不透明感が高まる中で、外需に加えて設備投資など内需も一時的に弱い動きとなった。ただし、2016年度においても、雇用・所得環境の改善が続き、企業収益も高い水準を維持する中で、年度後半からは、世界経済の回復に伴い、実質GDPの伸び率も再び持ち直していった。

こうした過去の動向を振り返ると、消費税率の引上げ(今回の消費税率引上げへの対策については、第1章第5節を参照)や世界経済の減速等の影響で、景気回復の動きが一時的に停滞する局面がみられたものの、国内における雇用・所得環境や企業収益といったファンダメンタルズの強さが維持されたことにより、その後の速やかな回復につながったと考えられる。

そこで、以下では、まず海外経済及び世界貿易の動向や、それが我が国の輸出・生産に与えている影響について概観するとともに、国内の雇用・所得環境や企業収益といった内需を支えるファンダメンタルズの動向について確認する。

世界経済は緩やかな回復が続いているものの、2018年後半以降は成長率がやや減速

世界の実質GDP成長率の動向をみると、世界金融危機後は、おおむね3%台半ばの成長となっているが、2017年に3.8%に上昇した後、2018年には3.6%にやや鈍化した(第1-1-2図(1))。各国・地域の世界経済の成長率への寄与度をみると、世界のGDPの4分の1を占めるアメリカが2010年代でおおむね0.4%ポイント程度の押上げに寄与しているほか、世界のGDPの約16%を占める中国が1%ポイント以上押上げに寄与しており、2018年の世界経済の成長率3.6%のうち米中で1.6%ポイントと全体の半分弱の寄与となっている。

世界経済及び、アメリカ、中国の四半期別の前年同期比の成長率1の推移をみると、世界経済の成長率は2015年後半から2016年前半にかけてそれまでの3%程度だったのが2%台前半にまで低下した(第1-1-2図(2))。この背景としては、すでに述べたように新興国の経済成長が低下したほか、中国経済の成長率が経済構造の転換を図る中でそれまでの7%台から6%台後半に緩やかに低下するととともに、アメリカの成長率についてもドル高や原油安などにより企業部門を中心に弱さがみられたことで2015年前半に3%台半ばであった成長率が1%台にまで低下したことが挙げられる。その後、政府による各種政策等による中国経済の持ち直しや、原油価格の回復により企業部門の設備投資などが戻ってきたことなどによるアメリカ経済の回復を背景に世界経済の成長率も2017年半ば以降は再び3%台に回復した。しかし2018年後半以降は、アメリカ経済が減税などの政策効果もあり引き続き3%程度と潜在成長率を上回る堅調な成長を続けたのに対し、中国経済はシャドーバンキングに対する規制強化や地方政府の債務抑制などデレバレッジに向けた取組の影響などから緩やかな減速2が続き、また米中の通商問題による不確実性の高まりなどから世界経済の成長率も再び3%を下回る状況となった。

今後の世界経済の見通しについて、IMFやOECDの公表した2019年4月若しくは5月の経済見通しをみると、2019年については、世界の実質GDP成長率は、2018年から0.3%ポイント程度低下し、3%台前半の伸びが見込まれている。アメリカは減税効果のあった2018年よりもやや低下するものの潜在成長率である2%程度の成長が続くと見込まれている。中国については、2018年後半から2019年初にかけて導入された減税など企業負担の軽減策、個人所得税減税、地方特別債の発行枠拡大、預金準備率の引下げといった一連の経済対策の効果が見込まれるものの6%台前半へと緩やかな減速が続くと見込まれている。また2020年については、アメリカ、中国ともに2019年よりも成長率見込みはやや低下するものの、その他の地域の成長率が高まることで世界全体の成長率は3%台半ばとなると見込まれている。

資源価格は2016年に比べて高い水準

次に、資源価格の動向を確認する。2014年前半には1バレル100ドルを超えていたドバイ原油価格は2014年末以降急落し、2016年初には1バレル30ドルを下回る水準にまで落ち込んだ(第1-1-3図)。こうした動きは他の資源価格でも多くみられ、42種の商品価格を指数化した日経商品指数(42種)も16年初にかけて大きく低下している。こうした動きは、資源産出国であるロシアや中東諸国などの新興国経済に大きな影響を及ぼした。

その後の原油価格の動向をみると、2016年から2018年後半にかけて緩やかな上昇を続けた後、2018年末には一時期落ち込んだものの、2019年に入り再び反転した。ただし、2019年5月の米中間の追加関税の引上げ・対抗措置の表明を受けて、その後はやや低下した。日経商品指数(42種)も、2016年から上昇傾向にあり、2019年初には2014年と同程度の水準まで回復し、2019年5月以降はやや低下したものの、2016年と比べて高い水準となっている。こうした動きは、銅地金やステンレス鋼材においてもみられ、資源価格は2019年5月以降やや低下したものの、2016年と比べると資源産出国の経済を大きく下押しする状況ではないことがうかがえる。

世界貿易は2018年後半以降弱さもみられる

世界の貿易の動向(本項では輸入の動向)をみると、2010年代に入ってから、中国経済など新興国経済の減速やグローバル・サプライ・チェーンの構築の動きに一服感がみられたこと等を背景に、貿易の伸びが経済成長率を下回るいわゆる「スロー・トレード」が続き、世界の貿易は弱い状態が続いた(第1-1-4図(1))。特に、中国経済や資源産出国などの新興国を中心に需要が弱まったため、新興国の輸入が大きく低下した。こうした動きは、中国経済や資源価格の回復とともに2016年後半以降解消し、先進国と新興国が同時回復する中で世界の貿易量も回復した。その後、2018年後半以降については、中国経済の緩やかな減速や、米中間の関税引上げなど通商問題の影響もあり、世界貿易の伸びに弱さがみられている。特に、世界経済の1位、2位の規模であるアメリカ、中国の輸入の動向をみると2018年後半からは通商問題の影響等もあり伸び率が大きく低下している。ただし、2019年に入ってからは、1月に予定されていた追加関税率の引上げの先送り等、米中間の貿易協議の進展とともに、米中の貿易の減速には底打ち感がみられたが、2019年5月に、アメリカが中国からの2000億ドルの輸入に対する追加関税率を10%から25%へ引き上げ、それに対して中国が対抗措置をとった。さらに、アメリカ政府は、これまで対象としていなかった中国からの輸入品目のほぼ全てである残り3,000億ドル相当に対しても、最大25%の追加関税を課す計画を2019年5月に表明していたが、2019年6月の米中首脳会談を踏まえ、トランプ大統領は、米中通商協議を継続し、当面は25%の追加関税の賦課を実施しない方針を表明した。こうした通商問題等の動向及びその影響については引き続き注視が必要である。

為替の動向については、2015年後半に1ドル125円程度だったドル円相場が2016年初には急激に円高方向に動き2016年央には100円程度まで円高方向へ進んだ。その後は、2018年初を除き、2019年前半までおおむね110円程度で推移しており、変動が少なくなっている。ドル元レートの動きをみても、2015年後半から2016年にかけて大きく元安方向に動いた。2017年から2018年初にかけて元高方向に動いた後、アメリカの金利上昇や米中貿易摩擦の高まりに伴う中国の景気減速懸念などを背景に2018年後半に元安方向に動いた。2019年に入ってからは元高方向で推移したが、5月以降は、米中貿易摩擦の再度の高まりを背景に、再び元安傾向となっている(第1-1-4図(2))。

2018年後半以降、中国経済の減速等の影響が輸出や生産にみられる

2016年以降、世界経済が緩やかに回復し、主要国の貿易量が増加する中、我が国の輸出数量もアジア向けを中心に持ち直しが続いたが、2018年以降は中国向けを中心に弱含んでいる(第1-1-5図(1))。中国向け輸出については、2017年から2018年初にかけて、IC(集積回路)など電子部品や半導体等製造装置が含まれる情報関連財の輸出が大きく増加していたが、その背景には、スマートフォン需要のみならず、データセンター向けの需要や車載用、家電用など世界的に幅広い用途で電子部品の需要が高まったことが考えられる(第1-1-5図(2))。しかし2018年後半からはデータセンター向け需要の一服に加え、世界的にスマートフォン出荷が伸び悩む中、情報関連財輸出が減少に転じ、中国経済の減速も相まって、資本財輸出も弱くなり、日本のアジア向け輸出は全体として弱い動きが続いている。

こうした輸出の弱さは、我が国の生産活動にも及んでいる。生産の動向をみると、輸出の持ち直しとともに、2017年以降、生産活動も緩やかに増加していたが、2018年後半以降は、輸出の弱さや情報関連財の調整が生産用機械や電子部品・デバイスの生産を下押しすることで、その影響が関連業種に波及する形で生産全体としても弱含んだ。ただし、2019年央にかけては、一部に引き続き弱さがみられるものの、下げ止まりがみられる(第1-1-5図(3))。

雇用・所得環境の改善が継続

中国経済の減速により輸出や生産の一部に弱さもみられるものの、国内の雇用・所得環境は引き続き改善している。生産年齢人口が減少する中、女性や高齢者などの労働参加により就業者数は2018年に前年と比べ134万人増加し、2012年から2018年まで累計すると384万人増加した(第1-1-6図(1))。さらに、2019年に入ってからも、就業者数の増加傾向は、製造業でやや鈍化したものの、非製造業を中心に続いている。また、景気回復の長期化や人手不足感の高まりを背景として、これまでの賃上げの流れが継続している。こうした雇用・所得環境の改善により、一人当たり賃金に雇用者数を掛けあわせた実質総雇用者所得は2015年以降増加を続けており、その水準も2013年を大きく上回っている(第1-1-6図(2))。

こうした雇用・所得環境の改善を背景に、GDPの6割弱を占める個人消費も傾向として持ち直している。GDPベースの個人消費の動向をみると、消費税率引上げ後の2014年度に2.6%減と大きく減少したが、2016年後半から持ち直し、2017年度、2018年度とプラスの伸びが続いている。(第1-1-6図(3))。2018年度において個人消費が0.4%増と低い伸びにとどまった背景には、2018年夏の自然災害による旅行等への影響に加え、食品価格の上昇や海外経済の先行き不透明感などもあり消費者マインドがやや慎重化したことが影響した可能性があると考えられる(第1-1-6図(4))。

人手不足も背景に、賃上げの流れが継続している

2019年の春季労使交渉の賃上げの動向をみると、連合調査による第6回集計時点(6月)で2.08%となり、昨年同時期(2.08%)と同程度となっている。最大のヤマ場となっている3月13日の回答日には、製造業の大手企業を中心に昨年をやや下回る回答となっていたが、その後、中小企業や非製造業を中心に昨年を上回る回答を行った企業も少なくなかったことから、賃上げ率は昨年並みの水準となり、これまでの賃上げの流れが継続していると考えられる(第1-1-7図(1))。2012年と2019年の主な業種別の賃上げ率をみても、製造業だけでなく、人手不足等を背景に、商業流通や交通運輸の賃上げ率の伸び幅が大きくなっており、これまでのように、一部の製造業の大手企業の賃上げの水準が基準(上限)となって、他の企業に波及していくといった春季労使交渉の構造が変わりつつある可能性がある(第1-1-7図(2))。

帝国データバンクの「賃金動向に関する企業の意識調査3」により、2013年以降の正社員の賃金改善4を行う理由についてみると、「労働力の定着・確保」を理由に賃金改善を行う企業の割合が増加しており、2019年度では80.4%に達している(第1-1-7図(3))。一方で、「自社の業績拡大」を理由に賃金改善を行う企業は緩やかに低下傾向にあり、2018年度から2019年度にかけてもやや低下している。企業収益の伸びがやや鈍化する中で、賃上げの流れが昨年並みに維持されている背景としては、人手不足感の高まりを背景に、人材の確保を目的とした賃上げが多くの企業に広がっていることがあると考えられる。今後は、企業収益を拡大しつつ、賃上げの流れをさらに継続させていくことが重要である。

企業収益は高水準を維持、企業の設備投資意欲は強い

企業収益の動向をみると、2018年度後半には中国経済の減速等の影響による輸出や生産の弱含みもあり、減益となったものの、水準としては過去と比べて高水準を維持している。製造業と非製造業の経常利益の動向をみると、サービス化の進展や国内需要の増加傾向を背景に特に非製造業の収益の伸びが傾向として高まっているほか、製造業についてもリーマンショック前の水準と同程度の利益水準となっている(第1-1-8図(1))。また、企業の損益分岐点をみても、企業の効率化努力もあって低下しており、多少のショックがあっても利益を確保しやすい体質となっている(第1-1-8図(2))。

民間企業設備投資の動向をみると、2016年後半以降、増加基調が続いており、その水準も1990年代初め以来の高水準となっている(第1-1-8図(3))。こうした背景には、企業収益が高い水準にあることに加え、人手不足への対応、第4次産業革命など新技術への対応のための設備投資意欲が強いこともある。ただし、2019年に入ってからは、中国経済の減速もあり、機械投資を中心に設備投資を先送りする動きがみられるが、企業の設備投資計画については、後述するように、日銀短観6月調査でも2019年度はプラスが見込まれていることを踏まえると、企業の設備投資意欲は維持されていると考えられる。

実際に、企業の利益配分のスタンスをみると、大企業では内部留保を重視する企業の割合は低下傾向にある一方、設備投資を重視する企業の割合は増加傾向にあり、今後も高水準の企業収益を背景に、設備投資意欲は堅調に推移するとみられる(第1-1-8図(4))。また中小企業においては、有利子負債削減の回答割合が減る中、設備投資の回答割合が増えており、中小企業においても企業収益が改善する中、人手不足への対応などから設備投資を積極化させている姿がうかがえる。また従業員への還元が高い水準で微増にとどまる中、新規雇用の拡大が増えており、人手不足を解消するため雇用量の確保に向けた動きを進めていることがわかる。

2 海外経済の動向が日本経済に影響を与える経路

本項では、海外経済の動向が日本経済にどのような経路で影響を与えるかについて、生産、設備投資を中心に確認することで、今後の景気動向をみる上で留意すべき点を確認する。

生産用機械、電子部品・デバイスを中心に海外経済の影響を受けやすい

海外経済の動向が我が国の生産に与える影響をみるため、経済産業省「鉱工業出荷内訳表」に基づき、業種別の海外向け出荷比率をみると、生産用機械が45%、電子部品・デバイスが39%、汎用・業務用機械が36%と比率が高くなっており、資本財関連の機械関係や情報関連財で高い比率となっている(第1-1-9図(1))。また、輸送機械も36%と高い比率になっている。

主な業種の国内向け、海外向けの出荷動向をみると、生産用機械では、海外経済の緩やかな回復、また国内における設備投資の増加を背景に国内外向けともに生産用機械の出荷が2016年以降続いたが、2018年に入ると、中国経済の緩やかな減速など世界経済の成長率が鈍化する中、海外向けの出荷が低下傾向にある(第1-1-9図(2))。この間も国内向けの出荷は底堅く推移していたが、2019年に入ってからは、国内向けについても低下している。

電子部品・デバイスでは2018年は、振れを伴いながらも横ばい圏内で推移したが、2019年に入り、海外向けの出荷が大きく減少しており、世界的な情報関連財需要の弱さの影響が確認できる。

他方、輸送機械については、海外向けはアメリカ向けが堅調に推移し、国内向けも新型車を中心に消費が堅調に推移していることで、内外ともに堅調さを維持している。

こうしたことは鉱工業全体の出荷からもみてとれる。国内向けは2018年以降、底堅く推移しており、日本国内の内需の増加傾向が続く中、鉱工業製品に対する需要も底堅いことがわかるが、海外向け出荷については2018年後半から大きく低下しており、生産活動は外需の影響を大きく受けている。

情報関連財の弱さは当面続く可能性

海外経済の動向の影響について、生産活動では生産用機械などの資本財関係、電子部品・デバイスなどで特に大きいことを確認したが、ここでは半導体やフラットパネルディスプレイなどを製造するための半導体等製造装置や、IC(集積回路)などの電子部品・デバイスを含む情報関連財を通じた影響を確認する。

情報関連財の輸出の動向をみると2016年以降、半導体等製造装置やICを中心に大きく増加し、この伸びは2018年初まで続いた(第1-1-10図(1))。こうした輸出の伸びは、我が国の生産活動も押し上げ、半導体製造装置は2018年初まで、またメモリについては2018年後半まで生産の増加が続いた(第1-1-10図(2))。しかし、電子部品の急激な増産に加え、データセンターやスマートフォン需要の一服などによりメモリ価格が2018年から下落しており、需給が緩んでいる(第1-1-10図(3))。こうした中、情報関連財の輸出、半導体製造装置の生産は2018年後半から弱い動きが続いており、メモリの生産についても2019年に入り大きく減少している。

世界の半導体出荷額の推移及び今後の見通しをみると、2018年まではメモリを中心に大きく伸びたが、2019年は需給の緩みを背景に低下する見込みとなっているなど(第1-1-10図(4))、情報関連財関係の弱さは当面続く可能性がある。

中国の投資の減速が我が国の資本財出荷を下押し

次に、海外出荷比率の高い資本財の生産について、海外経済の動向が与える影響について確認する。我が国の資本財輸出の割合をみると、アメリカが22%、中国が14%と両国で日本の資本財輸出の約3分の1を占める(第1-1-11図(1))。またEUが13%であり、アメリカ、中国、EUで日本の資本財輸出のおおむね半分を占めている。

アメリカの設備投資の動向をみると2017年以降、機械機器や知的財産投資を中心に緩やかな増加が続いている(第1-1-11図(2))。構築物投資については、シェールガス・オイルの採掘の増加を背景に増加傾向にあったが、2018年後半には原油価格低下を背景に小幅な減少が続いている。2019年に入って原油価格は上昇に転じたものの、5月以降は下落傾向となっており、構築物投資の動向には注視が必要であるが、アメリカ経済の堅調さが続く中、アメリカの設備投資については底堅く推移することが期待される。

一方、中国の投資動向をみると、中国政府の過剰債務削減に向けた取組もあり、インフラ投資を中心に2017年以降、伸びが急速に鈍化している(第1-1-11図(3))。中国政府が景気刺激に政策の方向を転換したこともあり、2019年は固定資産投資の伸びは、インフラ投資ではやや反転しているが、製造業で伸びが鈍化しているほか、依然として伸び率は過去数年に比べると低い水準となっている。

こうした中、我が国の資本財出荷の動きをみると、アメリカ向けの出荷比率が高い建設・鉱山機械は、日本国内での堅調な建設需要や好調なアメリカの設備投資を背景に増加傾向で推移している(第1-1-11図(4))。一方、中国向けが相対的に多い金属加工機械では2018年前半以降、低下傾向となっている。今後も中国向けの割合が高い生産用機械関係等では下押しが続く一方、アメリカ向けの割合が高い建設機械は底堅く推移することが期待される。

海外経済の動向により、生産用機械など製造業を中心に設備投資が下押しされる可能性

海外経済が下振れることは我が国の資本財輸出を押し下げるのみならず、海外需要の減少により輸出が減少することで、生産活動が弱含み、海外向けの出荷割合が高い業種を中心に、能力増強などの機械投資を中心に設備投資にも影響を及ぼす可能性が懸念される。設備投資は、機械投資が約5割、建設投資と研究開発投資がそれぞれ約2割、ソフトウェア投資が約1割の構成となっており、機械投資が下押しされると設備投資全体にも影響を及ぼす。

そこで、輸出と設備投資の関係を分析する。具体的には、日銀短観を使い、各年度の設備投資と輸出の実績値と6月計画時点での値との差分の関係を分析する。この分析により、6月時点で見込んでいた輸出額と実績の輸出額の差(輸出の変化)が、設備投資にどのような影響を与えるかがわかる。

大企業製造業でみると、輸出額の修正額と設備投資の修正額には正の相関があり、輸出額の実績が下振れると設備投資の実績も下振れる関係がある(第1-1-12図(1))。一方、大企業非製造業では、輸出の割合が売上げに占める全体の割合の中でみても高くないこともあり、両者の相関はほとんどない(第1-1-12図(2))。

製造業で業種別に同様の分析を行うと、海外向け出荷割合の高い、はん用・生産用・業務用機械、電気機械、輸送機械において、製造業全体よりも相関が高くなっている(付図1-1)。ただし、化学においては、相関が低くなっており、海外出荷比率が相対的に低い業種では輸出の変動が設備投資に与える影響は低くなると見込まれる。

上記分析は、輸出の見通しからの変化幅と設備投資の計画からの変化幅について単純に相関をみただけであるため、企業収益の変化などその他の要因が考慮されていない。そこで、設備投資の前期比を被説明変数、輸出及び経常利益の前期比、雇用人員判断DIなどを説明変数とし重回帰をすると、全産業の設備投資と輸出の変化で有意な結果となり、また製造業では輸出の弾力性が全産業よりも高い結果となった(第1-1-12図(3))。一方、非製造業では有意な結果とならず、本分析からも、輸出の変化が設備投資に与える影響は、非製造業よりも製造業でより顕著にでることがわかる。

以上を踏まえると、海外経済の動向の設備投資への影響は、非製造業よりも製造業で強く、製造業の中でも海外向けの出荷比率の高い資本財生産関係、電気機械、輸送用機械などで特に影響が強い。ただし、海外出荷比率が相対的に低い化学などでは輸出の影響が相対的に弱く、また輸送機械においてはアメリカ向けを中心に輸出が堅調に推移していることから、設備投資は緩やかな増加傾向が続くことが期待される。

人手不足への対応などにより設備投資全体は堅調な推移が見込まれる

我が国の設備投資は、中国経済の減速の影響は受けつつも、高水準の企業収益を背景に人手不足への対応などへの投資が下支えするため底堅く推移すると見込まれる。

日銀短観6月調査における企業の設備投資計画をみると、2018年度は前年度比5.1%と高い伸びとなっており、2019年度も5.7%とプラスの設備投資計画が見込まれている(第1-1-13図(1))。業種別にみると、製造業では化学や自動車の増加寄与が高く、非製造業では宿泊・飲食サービスや運輸・郵便などが高くなっており、製造業では自動車の電動化など技術革新への対応、非製造業では好調なインバウンドや人手不足への対応などが高い設備投資意欲の背景にあると考えられる。

そこで、日銀短観の雇用人員判断DIの変化幅と設備投資額の平均伸び率の関係を業種別にみると、宿泊・飲食サービスや運輸・郵便など人手不足感の高まりがみられる業種ほど設備投資額が伸びており、今後も人手不足への対応のための省力化投資などがでてくることで設備投資は堅調に推移すると見込まれる(第1-1-13図(2))。

このところソフトウェア投資が増加しているが、省力化のための投資や働き方改革のための新たなソフトの導入などが背景にあると考えられる(第1-1-13図(3))。特に人手不足感の強い運輸・郵便や小売業においてソフトウェア投資が増えており、情報システムを更新することで、効率的な働き方を実現し、人手不足を解消しようとしているとみられる。研究開発投資についても、電気機械や自動車、化学などを中心に引き続き伸びが見込まれる(第1-1-13図(4))。自動車や化学は電気自動車の開発などに加え、自動車においてはCASE5に向けた対応が要因と考えられる。

また好調な外食やインバウンド需要を背景に、建設投資も堅調に推移している(付図1-2)。インバウンド需要や共働き世帯の増加などにより外食が好調であることから宿泊・飲食業において建設投資が増加し、またeコマースの普及もあり運輸業も物流センターなどの建設投資が増えている。

こうしたソフトウェア投資などの省力化投資、堅調な需要を背景とした建設投資が今後も設備投資を下支えすると考えられる。

3 展望と今後のリスク要因

ここまでみたように、我が国経済は、中国経済の減速など海外経済の動向の影響を受け、輸出や生産活動の一部が弱含んでいるものの、良好な雇用・所得環境や高水準の企業収益もあり消費は持ち直しを続け、設備投資も機械投資に弱さもみられるものの増加傾向にあるなど内需は増加傾向が続いている。ただし、これまでみたように、中国経済の減速など海外経済の動向の影響は、製造業を中心に機械投資など設備投資の一部に影響を及ぼすようになっている。今後の中国経済をはじめとした海外経済の動向には注視が必要である。他方で、企業の人手不足感の高さを背景に、女性や高齢者を中心に雇用は大きく増加し、賃金も非製造業や中小企業の伸びが高まるなど、雇用・所得環境は改善しており、また、企業収益も高い水準を維持するなど、内需を支えるファンダメンタルズは良好である。こうしたことを踏まえると、海外経済の動向等には留意する必要があるものの、内需を中心に緩やかな回復が継続することが見込まれる。

今後の経済動向に関する留意点としては、以下の3点が挙げられる。第一は、緩やかな減速を続ける中国経済の動向や、米中通商問題が世界経済に与える影響である。中国経済については、2兆元(日本円で約33兆円)にのぼる企業負担の軽減策や、個人所得税減税、インフラ投資促進のための地方特別債の発行枠拡大、預金準備率の引下げなどの金融緩和策といった広範にわたる経済対策がとられており、その効果の発現が期待される一方、2019年5月以降、米中間で追加関税の引上げやそれに対する対抗措置等がとられており、今後の米中協議の動向やそれが世界経済に与える影響には注視が必要である。

第二は、英国のEU離脱の動向やそれが世界経済に与える影響である。英国のEU離脱については、最長で2019年10月まで延期が認められたものの、仮に合意なき離脱となった場合には、英国経済に大きな影響を与えるとともに、日本から英国に進出している日系企業にも影響が及ぶ可能性があることから、引き続き注視が必要である。こうした英国のEU離脱の動向や、前述の中国経済の減速や米中通商問題の動向の影響については、第3章において詳細に分析する。

第三は、国内経済の動向に関し、2019年10月に消費税率の引上げを予定しているが、消費動向がどのように推移するかに留意する必要がある。雇用が大幅に増加し、賃上げも昨年並みの高い伸びとなっていることから、総雇用者所得の増加が続いており、個人消費についても、天候要因等による振れはあるものの、持ち直しが続いている。こうした中で、前回2014年の引上げ時の経験を踏まえ、今回の引上げにあたっては、ポイント還元やプレミアム付商品券など、合計で2.3兆円程度の平準化対策を実施するなど政府は万全の対応をしている。こうした家計の所得・消費動向や消費税率引上げに向けた対応等については、次節で詳しく述べる。

最後に、これらの短期的な課題のほか、やや中長期的な課題としては、企業の人手不足感が強まり、GDPギャップがプラス傾向で推移する中、生産性の向上等により潜在成長率を引上げることが重要である。「人づくり革命」、「生産性革命」に取り組み、人材の筋力、企業の筋力を高めて潜在成長率を引き上げていくことが重要である。こうした人手不足と生産性の動向については第3節で詳しく分析を行う。

経済学解説<1>:GDPの構成の変化

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GDPは、支出(需要面)、生産(供給面)、分配の3面等価が成り立ちます。ここでは、GDPの需要面と供給面の構成が過去四半世紀でどのように変化してきたのかを確認するとともに、中国経済の減速など海外経済の動向の影響を受けている現在の日本経済の状況を、需要面・供給面に分けて考察してみましょう。

まず、需要面について、現行のGDP統計でさかのぼることができる1994年と2017年でGDPの需要面の構成の変化を確認すると、内需の柱である個人消費や設備投資は合計で7割程度とあまり変化がありません((1))。政府支出もおよそ4分の1とほとんど変化がありません。一方で、グローバル化の進展により輸出、輸入のGDP比はどちらも2倍程度高まり、それぞれGDP比で2割弱にまで上昇しています。このように、日本経済が海外との結びつきを強めている姿がみてとれます。

次に、GDPを供給面からみてみましょう((2))。1994年には製造業は24%とおおむね日本経済の4分の1を占めていましたが、2017年には2割程度まで低下しています。他方で、医療・教育・公務などの公的なサービスや、運輸・郵便、飲食・宿泊、人材派遣・職業紹介などのサービス業の割合は増加し、非製造業はおおむね8割のシェアとなっています。

以上のようなGDPの構成変化を踏まえると、製造業のシェアが低下しているものの、輸出割合は上昇6していることから、引き続き海外経済の動向が製造業に与える影響には留意をする必要があります。他方、非製造業については、変動の少ない医療など公的サービスのシェアが高まっており、景気変動を安定化させる方向に寄与している可能性が考えられます。

すでに1節で詳細を確認しましたが、日本経済の2割を占める製造業の動向を鉱工業生産でみると、2016年半ばから世界経済の回復や世界的な半導体需要が伸びたことから、我が国の生産も増加しましたが、2018年後半から海外経済が減速することで、生産も弱い動きがみられました。

一方で、非製造業の多くが含まれる第3次産業活動指数の動きをみると、増加傾向の内需を背景に、情報通信、飲食・宿泊、運輸・郵便、医療関係など幅広い業種で緩やかに増加しています((3))。こうした製造業と非製造業の動向のかい離は、日本だけでなくユーロ圏など他の先進国でもみられていることがOECDの研究でも指摘されています7。傾向としては、こうした非製造業のシェアの高まりは景気変動を安定化させる方向に寄与すると考えられます。ただし、生産活動の低迷が長期化すると製造業の雇用者の雇用・所得環境を下押しし、消費に悪影響を及ぼすことで非製造業にも影響を及ぼし得ます。また非製造業の中でも、工業製品のデザイン・広報といった活動や製品の原材料や完成品を扱う卸売業などは生産活動と深く関連していますので、生産の弱さが長引く場合には、一部の非製造業にも影響が及ぶ可能性があることには留意する必要があります。


(1)四半期別の前年同期比の成長率は、The World BankGlobal Economic Monitor”の、市場価格ベースでドル換算された四半期別GDPから計算した数値を用いている。
(2)2017年以降、中国政府は、シャドーバンキング等に対する金融監督管理の強化、地方政府のインフラ投資の資金調達の適正化等、デレバレッジに向けた取組を一層強化した。2018年に入ると、こうした取組の成果が、シャドーバンキングの縮小、インフラ関連投資の伸びの低下となって内需にも徐々に影響を与え始めるようになっていた。さらに、2018年半ばから高まりを見せた米中貿易摩擦の影響もあり、中国では、景気は緩やかに減速している。(内閣府政策統括官 2019)
(3)2019年度の調査対象は全国2万3,035社で、有効回答企業数は9,856社。2006年1月以降、毎年1月に実施している。
(4)ベースアップや賞与、一時金の引上げ。
(5)ツナガル(Connectivity)・自動化(Autonomous)・利活用(Shared & Service)・電動化(Electric
(6)輸出のGDP比を時系列でみると、2000年代半ばに2017年と同じ18%程度にまで高まったが、その後、世界金融危機があり12%程度にまで低下し、再び18%程度にまで上昇している。
(7)OECDエコノミック・アウトルック2019年5月号の第1章では、日本やユーロ圏で製造業と非製造業の動向にかい離が生じていること、両者の相関が過去と比べて低下していること、その背景には労働市場の改善などに支えられた内需が増加傾向であること等を論じている。
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