第1章 景気回復の現状と課題 第4節

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第4節 財政金融政策の動向

アベノミクスの3本の矢は、6年目を迎えた。これまでの取組により、デフレ脱却に向けた局面変化がみられる。ただし、再びデフレに戻るおそれがないという意味で、デフレ脱却には至っていない。ここでは、財政・金融政策の動向を概観することで、これまでの政策がどのように実体経済に影響を与えてきたのか分析するとともに、今後の課題について明らかにする。

1 金融政策の国際比較及び実体経済への波及

日本銀行は、2013年1月に消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を導入し、政府と日本銀行の共同声明82にもあるように、この目標をできるだけ早期に実現することを目指している。そのもとで、日本銀行は、2013年4月に導入された「量的・質的金融緩和」において、累次の緩和強化策を行い、その後も2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」、同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、大規模な金融緩和の取組を続けている。一方、欧州やアメリカにおいても、世界金融危機以降、中央銀行による長期国債等の資産買入れやフォワードガイダンス等の政策を柱とする、いわゆる非伝統的金融政策がとられてきたが、物価上昇率が緩やかに高まりつつあるアメリカでは、いち早く金融緩和政策の転換が図られるようになっている。本項では、日米欧の最近の金融政策の動向を比較するとともに、実体経済への波及についてみていく。

各中央銀行ともに非伝統的な金融政策を実施

我が国は1999年2月に「ゼロ金利政策」、2001年3月に「量的緩和政策」と世界に先駆けて非伝統的金融政策83を導入したが、リーマンショック以降、アメリカのFED(連邦準備制度)、欧州のECB(欧州中央銀行)等においても、短期金利の水準が0%近傍まで低下し、従来の短期金利をターゲットにした政策金利操作の余地がなくなる中で、資産買入れやフォワードガイダンスからなる非伝統的な金融政策がとられている(付表1-12)。

日本や欧米の中央銀行でとられている非伝統的金融政策手段は、国債を含む大規模な資産購入によって、長めの金利まで含めて資金調達コストの低下、国債など安全資産から貸出やリスク資産への運用のシフト(ポートフォリオ・リバランス効果)を促すとともに、「フォワードガイダンス」の実施によって、先行きの金融政策運営に対するコミットメントを明確にすることを通じて、経済活動の活性化と予想物価上昇率の引上げを図ることを目指していると考えられている。具体的には、中央銀行による資産購入について、国債に加え、FEDでは住宅公社債などのMBS、日本銀行はETF、J-REITなど幅広い資産の購入を行っている。こうしたことによって、長期資産を保有することに伴うプレミアム(タームプレミアム)を抑制し、企業や家計の資金調達コストを幅広く低下させるとともに、国債など安全資産から貸出やリスク資産への運用のシフトを促進し、経済活動を活性化することが期待される。

また、日本や欧州の中央銀行ではマイナス金利も導入されている。日本銀行の場合、2016年9月からはイールドカーブ・コントロールが導入されており、マイナス金利や国債の買入れと合わせて、より緻密にイールドカーブをコントロールすることが企図されている。

「フォワードガイダンス」は、人々の予想に働きかける手段として、先行きの金融政策運営に対するコミットメントを明確にすることで、将来の予想物価上昇率を引き上げ、実質金利を一段と低下させる効果が期待される。

日本銀行においては、2016年9月にオーバーシュート型コミットメントが採用され、消費者物価(コア)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するとしている。また、アメリカのFEDにおいては、FOMCメンバーによる利上げ予想の状況を公表しているほか、ECBでも債券購入プログラムの継続期限や金融政策の今後の方針について公表している。

日米欧ともに非伝統的な金融政策を実施してきたが、FEDでは政策金利の引上げを2015年12月以降順次行っており、さらにバランスシートの縮小84を開始するなど、これまでの金融政策を転換しつつある。また、ECBにおいては資産購入プログラムを2018年10月以降、月額150億ユーロに減額の上、2018年12月末まで実施し、その後終了する予定であることが2018年6月に表明された。一方、日本銀行では依然として金融緩和政策が継続されているなど物価上昇の状況に応じて各地域間で金融政策のスタンスに違いもみられている。

各中央銀行ともにバランスシートは拡大

日米欧ともにリーマンショック以降、中央銀行のバランスシートは拡大を続けた。日本銀行においては、2013年4月の「量的・質的金融緩和」の導入後、長期国債を中心に大幅に増加し、長期国債だけで400兆円近い規模となっている(第1-4-1図(1))。またFEDでも2008年11月の大規模資産買入れ(LSAP)以降、長期国債やMBSなどを中心にバランスシートは大きく増加したが、2014年1月以降は大規模資産買入れのペースを減額し、さらに2017年10月以降は、FEDが保有する米国債やMBSの償還に際して一部は再投資せずに、バランスシートを縮小させている(第1-4-1図(2))。ECBにおいては、2015年1月に資産買入れ政策導入を決定し、ユーロ圏の投資適格の国債などを中心にバランスシートが急速に拡大したが、2017年4月以降は資産購入を継続しつつも買入れ金額を減額させている(第1-4-1図(3))。

日米欧の中央銀行バランスシートの規模をみると、金額ベースではいずれも2008年の金融危機当時と比べて4倍から5倍程度に拡大しているが、FEDの場合は2015年以降バランスシートの規模がほぼ横ばいで推移しているのに対し、日本銀行、ECBの場合はともに規模が拡大を続けている。また、これら中央銀行のバランスシートの規模を対GDP比でみると、FEDやECBでは2008年の水準がそれぞれ9.1%、12.2%と比較的小さかったこともあり、2017年時点でも、それぞれ対GDP比23.2%、27.8%の規模にとどまっているのに対し、日本銀行は2008年時点で既にGDP比21.6%に達していたこともあり、2017年にはGDP比100%に迫る規模となっている(第1-4-1図(4))。

なお政策金利の推移をみると、各中央銀行ともに金融危機以降はいわゆるゼロ金利政策をとっていたが、FEDについては2015年12月に利上げを開始し、2018年6月時点でFF金利の誘導目標は1.75~2.00%となっている(第1-4-1図(5))。一方、日本銀行やECBにおいては市場の短期金利は0%近傍にあるほか、中央銀行にある超過準備額あるいはその一部にマイナス金利を導入するなど金利面でも違いがみられる85

アメリカに比べ、日本の賃金及びサービス物価の伸びは緩やか

リーマンショック後、日米欧ともに経済の低迷とともに物価についても伸びが一時マイナスとなった。各中央銀行の金融政策もあり、世界経済は緩やかに回復し、物価についても緩やかに上昇しているが、アメリカに比べ日欧の物価上昇率は低く、それが金融政策の動向の違いに現れている。

日米欧の物価の動向を財とサービスに分けてみると、財の物価については貿易を通じて途上国から安価な財を輸入できることもあり各地域ともに低い伸びとなっており、大きな差はない(第1-4-2図(1))。一方、サービス物価については、国内の需給要因や人件費の動向を強く反映するため、各地域で違いが出ており、日本のサービス物価上昇率が0%台半ばで推移しているのに比べて、アメリカは2%程度と高い伸びで推移しており、欧州ではその中間の1%程度で推移している。こうしたサービス物価の動向の違いが各地域の物価全体の動向の差にもつながっている。サービス物価の動向については人件費の動向に大きく影響されるため、各地域の賃金の動向をみると、日本は欧米に比べ賃金の伸びが緩やかなものにとどまっており、このことがサービス物価の伸びの低さ、ひいては物価全体の伸びの低さにつながっていると考えられる(第1-4-2図(2))。

このことからも今後の金融政策の動向をみるうえでも物価に加え、賃金の動向も重要であるといえよう。

日本銀行の国債保有が大きく増加

日本銀行による金融緩和政策の効果は、予想物価上昇率の引上げに加え、資金調達コストの全体的な低下による貸出やリスク資産の増加等を通じて、経済活動を活性化することによって現れてくると考えられる。予想物価上昇率の動向については、第2節において詳細に分析されているので、ここでは、金融緩和政策によって民間金融機関のバランスシートがどのように変化したか、特に銀行の貸出が増えているかを分析するとともに、日欧におけるマイナス金利政策が貸出等に与える影響の違いに焦点を当てて分析する。

まず、民間金融機関のバランスシートの動向をみると、日本銀行の長期国債などの資産買入れの対象が、主に民間金融機関が保有する資産であったことから、民間金融機関の保有する国債を含む債務証券は2013年以降大きく減少している。この結果、日本全体の資金循環の中でみた国債保有の日本銀行の割合は2012年の1割程度から2017年には4割超となったのに対し、民間金融機関の割合は同時期に4割弱から2割弱まで低下しており、国債保有に占める両者の位置づけがこの5年間で逆となっている(第1-4-3図(1)(2))。

民間金融機関のバランスシートの動向に戻ると、民間金融機関は日銀当座預金を増加させており、日銀当座預金と現金等を合わせた残高は2017年で529兆円と全体の約27%となっている(第1-4-3図(3)(4))。同時に、民間金融機関は貸出についても緩やかに増加させており、2012年から2017年にかけて106.2兆円増えて貸出残高は778.7兆円となっている。その他のリスク資産については、対外証券投資の残高が2012年から2017年までで16.5兆円増加したほか、対外直接投資は5.9兆円増加した。

中小企業の設備投資向けの貸出しが大きく増加

このように、民間金融機関の貸出しは緩やかながら着実に伸びているが、ここでは具体的にどの貸出先で伸びているかを民間金融機関の設備投資資金向け貸出残高の推移で確認する。

製造業向けの貸出は、規模としては全体の1割弱に過ぎないが、近年の設備投資の好調さを背景に輸送用機械、食料、電気機械など幅広い分野で貸出残高が増加している(第1-4-4図(1))。非製造業向けの貸出は全体の9割超と大きな割合を占めており、伸びとしても前年比6%程度で増加している。分野別にみると不動産業向けで大きく伸びているのが特徴であるが、自由化の影響を受けている電気・ガス、インバウンド需要が好調な飲食・宿泊や運輸なども増加している(第1-4-4図(2))。

企業規模別の動向を確認すると、大企業では製造業、非製造業ともに伸びが低迷しているが、中小企業では製造、非製造業問わず増加している(第1-4-4図(3)(4)(5)(6))。これは大企業では社債や株式などで調達できるのに対し、中小企業では銀行借入れへの依存度が高いことが背景にあると考えられる。なお中小企業の非製造業では、ほぼすべての業種で残高が増えているものの、伸びの多くが個人による貸家業を含む不動産業であることには留意が必要である。また、貸出残高の構成比をみると中小企業の非製造業が8割と圧倒的に高く、大企業の非製造業も1割程度と他に比べ高い(付図1-13)。

日本は預金金利の低下幅が限られ預貸スプレッドが低下

最後に、日欧の中央銀行が導入しているマイナス金利の効果について確認する。マイナス金利政策とは、民間金融機関が中央銀行に預ける預金である当座預金に付与される金利の一部をマイナスとすることであり、短期金利のみならず長期金利も押し下げる効果86が期待される。

実際、日欧の銀行の貸出金利を見ると、日本ではマイナス金利が導入された2016年1月以降、ユーロ圏では同じく2014年6月以降、銀行の貸出金利が一段と低下し、マイナス金利政策は企業の資金調達コストの低下という効果を一定程度もたらしている(第1-4-5図(1)(2))。銀行の貸出残高の動向をみると、日欧ともに貸出残高は堅調に伸びている。貸出先の内訳をみると、ユーロ圏では非金融法人への貸出が伸びず個人向けに偏っているのに対し、日本では個人向けに加えて、中小企業向けについても堅調に貸出残高が伸びている(第1-4-5図(3)(4))。

ただし、マイナス金利の副作用として、金融機関の収益への懸念が指摘されることが多い。そこで、金融機関の収益への影響について日欧の状況を比較するために、貸出金利から預金金利を引いた預貸スプレッドをみると、預金金利の引下げ余地のあったユーロ圏では貸出金利の低下とともに預金金利も低下したため預貸スプレッドの低下はわずかにとどまり、水準としても依然として2%程度を保っている。一方、日本はマイナス金利導入前から預金金利が低位で推移したため、貸出金利の低下ほど預金金利を下げることができず、もともと低かった預貸スプレッドがさらに低下し、金融機関の収益を下押しすることとなっている87。(前掲第1-4-5図(1)(2)

現時点では、日本の金融機関は十分な資本基盤を有しており、ただちに問題となることはないと考えられるが、低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なものであるため、こうしたリスクには注意が必要である。また、国内預貸業務の収益性は、趨勢的に低下しており、人口減少が続く中、金融機関の収益性の問題はより厳しくなると見込まれている。金融機関、特に地方金融機関においては、地域経済・企業への支援強化、FinTechを含む金融ビジネスでのITの活用などを通じて、他の金融機関が提供する金融サービスとの差別化を図るなどの収益力強化の取組を進めるとともに、経営効率化向上も進めていく必要がある。

2 経済・財政一体改革への取組

政府は「経済再生なくして財政健全化なし」を基本方針とし、経済と財政の一体的な再生を目指す「経済・財政一体改革」を推進している。本項では、「経済・財政一体改革」の取組の状況を国際比較も行いつつ概観する。

2025年度のPB黒字化を目指す

我が国では2015年6月に「経済・財政再生計画」を閣議決定し、財政健全化目標とその達成シナリオ等を定め、主要分野の改革の方向性を具体化するとともに改革の時間軸を明確化するため、「改革工程表」を策定し、取組を進めてきた。「経済再生なくして財政健全化なし」を基本方針とし、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「歳入改革」の3本柱の改革を一体とした「経済・財政一体改革」を推進してきた。特に、財政の大宗を占める社会保障制度を持続可能なものとするため、政府はもとより広く国民全体が参画する社会改革として、国民や企業等の意識、行動を変えることを通じて、歳出抑制と歳入増加を目指してきた。

また、歳出改革については、公的ストックや民間資金の有効活用等により、供給面(潜在成長率)を強化し、需要面では、公共サービスと一体的に生み出される新たなサービスを創出することを通じて経済再生を強化することを狙いとするなど、「経済再生なくして財政健全化なし」の基本方針に基づいた取組を進めてきた。

こうした取組により、国・地方の税収は、2018年度見込みで102.5兆円と、2012年度本予算に比べ約24兆円増加し、過去最高の水準を更新する見込みである。2014年4月の消費税率の5%から8%への引上げによる消費税収の増加、過去最高の企業収益による法人関係税収の増加、雇用や賃金の改善、株主還元の強化が進む中での所得関係税収の増加が寄与している。

特に、2012年度から2015年度までは、世界金融危機からの経済の立ち直りの中で、法人の繰越欠損金額の縮小に伴う課税ベースの拡大、株価上昇に伴う譲渡所得の増加等から、国・地方の税収は(消費税率引上げによる影響を除いて)11.2%増加し、GDPの6.6%の伸びを大きく上回った。この税収増や歳出効率化の取組等を反映して、2013年度に安倍内閣で目標とした、「2015年度までに2010年度に比べPB赤字対GDP比を半減する」という目標は達成され、PB赤字対GDP比は2010年度▲6.3%から2015年度▲2.9%へと縮小した(第1-4-6図)。

その後、2016年度においては、世界経済の成長率の低下などによる税収の減少や「未来への投資を実現する経済対策」による歳出増等の影響から、PB赤字対GDP比は▲3.0%となり、2017年度も▲2.9%程度となる見込みである。さらに、2017年12月に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」において、人づくり革命の安定的財源を確保するため、2019年10月に予定されている消費税率引上げ分の使い道を見直すこととした。こうした要因等により、国・地方のPBの黒字化の達成時期に影響が出ることから、2020年度のPB黒字化目標の達成は困難となった。

2018年3月の経済財政諮問会議で報告された「経済・財政一体改革の中間評価」では、集中改革期間における改革努力のメルクマールとして設定された目安である2018年度のPB赤字対GDP比▲1%程度に対して、2018年度の見込みは▲2.9%となっており、当初想定よりも進捗に遅れがみられるとした。「中間評価」では、こうした進捗の遅れの要因として、(1)世界経済の成長率の低下などもあって、日本経済の回復がこれまでの想定よりも緩やかになっていることから、税収の伸びが当初想定より緩やかだったこと、(2)消費税率引上げが2017年4月から2019年10月に延期されたこと、(3)過年度の補正予算による歳出増の影響を挙げている。

こうした状況の変化を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2018」、いわゆる「骨太方針2018」において「新経済・財政再生計画」を策定した。同計画においては、引き続き、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針を堅持し、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「歳入改革」を加速・拡大することとしている。財政健全化目標については、「経済再生と財政健全化に着実に取り組み、2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化を目指す。同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すことを堅持する。」としている。

主要国は財政健全化目標を設定し、進捗状況を評価

これまで見た通り、我が国では財政健全化目標を設定し、経済情勢等を踏まえながら目標の達成状況を点検し、新たな計画として「新経済・財政再生計画」を策定した。こうした財政健全化の目標設定や評価については我が国だけでなく、多くの主要先進国でも取組が行われている(第1-4-7表)。財政健全化目標の設定の仕方をみると、各国ともに毎年度のフローである財政収支について対GDP比で目標を設定するとともに、ストックにあたる債務残高についても対GDP比での目標を設定し、財政健全化に向けた取組を進めている。また、財政健全化計画の進捗状況の評価については、毎年1回ないし2回程度行われ、それが次年度以降の健全化計画や予算策定に反映されるような仕組みがとられている。

主要国の財政状況(一般政府ベース)をみると、世界金融危機後に基礎的財政収支が大きく悪化したが、その後は経済の回復もあり多くの主要国で改善している(第1-4-8図)。ただし、ドイツやイタリアでは基礎的財政収支が黒字であるのに対して、その他の主要国は依然として赤字で推移している。また債務残高の対GDP比率についてドイツは低下傾向にあるもののその他の国では高止まりしており、特に我が国の水準は主要先進国の中で非常に高い水準となっている。

高齢化により社会保障費は上昇傾向

主要国の歳出の状況(一般政府ベース)を比較すると、世界金融危機直後に大きく増加したが、その後は低下しており、各国ともに世界金融危機前の水準に戻りつつある(第1-4-9図)。我が国は主要国の中では歳出の対GDP比はアメリカとともに低い水準にある。

主要項目別に歳出をみると、高齢化の進展もありドイツ88を除きほとんどの国で社会保障費の対GDP比は上昇傾向となっている。また公的固定資本形成の対GDP比については、各国ともに低下傾向にあり、1990年代に累次の経済対策で大きく上昇した我が国も近年では低下しているが、欧米諸国との比較で、引き続き高い水準にある。

なお、前項で見た通り、世界的な低金利環境もあり各国の利払い費の対GDP比は低下傾向で推移している。我が国も膨大な債務残高がありながら低金利のために利払い費は低位にとどまっており、国債の償還期間も長期化している。ただし、今後、景気回復によって物価上昇率が高まり、金利が上昇する局面に入る場合には、利払い費の増加リスクに対しては留意が必要である。

我が国の税収総額の対GDPは上昇傾向にあるが、欧州の主要国に比べると低い水準

次に歳入の動向(一般政府ベース)を対GDP比でみてみよう(第1-4-10図)。我が国の税収総額の対GDP比は一時15%程度まで低下したものの、景気回復の効果や消費税率引上げの影響もありこのところは20%弱にまで上昇している。ただし、欧州の主要国に比べると税収総額の対GDP比は依然として低い水準にある。これは個人所得税収や消費税収が欧州に比べて低いことに加え、相対的に高かった法人税収も税率の引下げやバブル崩壊後の景気の低迷によって落ち込んできたことが主な要因である。

我が国の税収の動向を税別にみると、法人税収については、世界金融危機後に大きく落ち込んだが、その後は景気回復局面における一時的な繰越欠損金解消効果もあり、増加傾向にあった。また、消費税収については、消費税率を1997年と2014年に引き上げたこともあり傾向的には上昇している。個人所得税収については、2000年代以降横ばいで推移してきたが、近年は景気回復による勤労所得の増加や金融資産価格の上昇に伴う財産収入の増加もあり、増加傾向にある。

財政健全化に向けた今後の取組

「経済財政運営と改革の基本方針2018」では、既に述べたように、2025年度のPB黒字化や債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すことが決められたが、こうした財政健全化目標の達成に向けた取組の進捗状況を確認するため、2025年度の目標年までの中間年である2021年度にPB赤字の対GDP比は1.5%程度、債務残高の対GDP比は180%台前半、財政収支赤字の対GDP比は3%以下という中間指標を設定し、進捗を管理するためのメルクマールとしている。こうした財政再建に向けては、潜在成長率を引き上げるとともに、実質2%程度、名目3%程度を上回る成長を実現することが必要である。また、費用対効果など客観的なデータに基づく予算のメリハリや予算の質の更なる向上を図るとともに、社会保障の質を高めつつムダを省き、給付と負担のバランスの取れた全世代型の社会保障制度の構築に向けた取組を進めていくことなどが重要である。


(82)2018年4月9日の黒田日銀総裁の再任にあたり、共同声明の堅持を確認した。
(83)伝統的な金融政策手段は金融市場調整による政策金利のコントロールを通じて行われるが、景気後退が長期化し政策金利が事実上0%に達したもとで、さらに金融緩和効果を追求する政策を非伝統的な金融政策という。
(84)満期の到来した債券の再投資を減少させることを通じて行っている。
(85)日本銀行の政策金利については、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもと、金融機関が保有する日銀当座預金を3段階の階層構造に分割したうえで、それぞれの階層に応じてプラス金利、ゼロ金利、マイナス金利が適用されている。具体的には、日銀当座預金を、<1>2015年1~12月積み期間における当座預金の平均残高から所要準備額を控除した「基礎残高」、<2>所要準備額や貸出支援基金等の平均残高、マクロの当座預金増加を勘案したマクロ加算額などの合計額である「マクロ加算残高」、<3>当座預金残高のうち<1>と<2>の合計を上回る金額である「政策金利残高」の3段階に分割し、そのうえで、<1>に+0.1%、<2>に0%、<3>に▲0.1%の金利を適用されている。またECBの政策金利については、<1>中銀預金金利、<2>メイン・リファイナンシング・オペレーション金利、<3>限界貸出金利の3つである。具体的には、<1>中銀預金金利は、民間銀行がユーロシステムに余剰資金を一時的に預ける際に適用される預金金利で、2014年6月に開催された欧州中央銀行政策理事会でマイナス金利の適用開始を決定(2018年6月時点では▲0.4%)、<2>メイン・リファイナンシング・オペレーション金利は、市場金利の誘導目安となっているほか、ユーロシステム(ECB及びユーロ圏内の中央銀行)が行う公開市場操作のための金利(同0.0%)、<3>限界貸出金利は、金融機関がユーロシステムから流動性供給として貸出を受ける場合に適用される貸出金利である(同0.25%)。
(86)理論的には例えば、マイナス金利が将来にわたり継続されると人々が予測する結果、現在から将来の短期金利の平均値である長期金利が押し下げられること、また短期の金利が低いため、少しでも利率がある長期の債券に買いが集まるために長期金利も下がることなどが考えられる。
(87)ただしユーロ圏においても預金金利が低位となっているため、さらなるマイナス金利の深堀などにより貸出金利が一層低下した際には金融機関の収益を大きく下押しする可能性がある点には留意する必要がある。
(88)ドイツでは、シュレーダー政権で2004年に少子高齢化の進行を加味する年金給付としたほか、診察費用の自己負担の拡大等を通じて医療費を抑制している。この結果、高齢化が進展する中でも社会保障支出を抑制している。
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