第3章 技術革新への対応とその影響 第3節

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第3節 まとめ

本章では、新しい技術革新が生産性や国民生活に与える影響を様々な観点から分析した。以下では、こうした分析の主な結果をまとめた上で、そこから示唆される技術革新への対応についての課題を整理する。

分析結果のまとめ

第1節における主な分析結果をまとめると、技術革新が我が国企業の生産性に与える影響については、<1>イノベーションを担うスタートアップ企業や高生産性企業のパフォーマンスが必ずしも力強くないほか、高生産性企業と低生産性企業の間の生産性の格差も拡大していること、<2>中小企業のICTの利活用が進んでいないことも低生産性の背景の一つとして考えられること、<3>直接投資を通じた企業のグローバルな活動は我が国の生産性を高める方向に作用していることが示唆される。

また、我が国企業の第4次産業革命における新規技術への対応には、既に一定の進展がみられ、新たな製品や市場の開拓、効率化、働き方の見直しなどを通じて生産性の向上に寄与していると考えられるほか、そうした新規技術の活用に積極的な企業には、企業年齢や代表者等の年齢が若いことや、組織の意思決定における分権度の高さ、ICT統括責任者の経営参画度の高さといった特徴があることが観察された。

第2節の分析からは、<1>デジタル経済の進展によって、既存の財・サービスの需要が代替されつつも、新たな財・サービスの需要が創出されていること、<2>こうしたプロダクト・イノベーションによる生産性の向上は雇用を増加させる効果があること、<3>新しい技術革新を積極的に導入している企業においては、当該技術の活用は将来的に雇用を増やし、収益と高スキル労働者の増加から一人当たり賃金も増加するとみている企業が多いことなどが確認された。

Society 5.0を実現していくための4つの課題

新しい技術革新に対応し、生産性を飛躍的に高め、Society 5.0及び様々なものをつなげる新たな産業システム(Connected Industries)を実現していくために、政府及び企業に求められる課題として、<1>我が国企業がイノベーションを創出する力をさらに高めていくこと、<2>Society 5.0に向けた基盤整備を加速させること、<3>対外・対内直接投資を活性化させること及び<4>第4次産業革命の進展に伴う産業構造の転換に適応できるよう、人材の強化や働き方の見直しを行うことなどがあると考えられる。

我が国企業がイノベーションを創出する力の向上

第一の課題として、我が国企業がイノベーションを創出する力の向上が挙げられる。このためには、以下の3点が必要である。

まず、起業の促進である。具体的には、政府による人々への起業に関する訓練機会の提供やベンチャー・キャピタル投資の行いやすい環境整備、副業・兼業、転職が行いやすくなるような働き方改革の推進などが挙げられる。

次に、効果的なR&Dの実現である。このためには、R&D投資の意思決定の分権化や研究開発を企業外部と協同して行うオープンイノベーションを積極化するなど企業の組織改革が求められる。特に後者については、内閣府(2017)で分析したように、我が国企業の多くが<1>R&D投資は新事業よりも既存事業の改良に注力していること、<2>売上高の一定割合に投資額を抑制するといった硬直的なR&D投資への配分を行っていること、<3>オープンイノベーションへの取組が不足していることなどの課題を抱えているため、企業がこうした課題を解決していくことが肝要である。同時に、政府としても、先進技術を取り込んだ製品の政府調達や先端技術を要する公共工事の発注等を充実させる必要がある。

最後に、企業がIoTやAI、ロボット、クラウドといった第4次産業革命における新規技術を積極的に導入し、新たな市場の開拓や生産効率等の向上に活かしていくことである。このためにも、企業がR&D投資などの意思決定を分権化することや異業種を含む外部企業等との連携強化、ICT統括責任者の設置など専門家による経営への助言機能の強化といった組織改革を進めることが重要である。

Society 5.0に向けた基盤整備の加速

第二の課題として、政府が民間主体と共にSociety 5.0に向けた基盤整備の加速が挙げられる。このためには以下の3点が重要である。

まず、政府は、様々なデータの利活用基盤の構築・制度整備に加え、そうしたデータを有効活用できる人材力の抜本強化が求められる。

次に、シェアリングエコノミーなど新たに生まれる経済取引の健全な発展を実現できるようなルールや制度に関する環境の整備を加速させる必要がある。具体的には、個人間取引における事故やトラブルへの利用者の不安を低減するためのルールの作成、既存の個別サービスごとに規定された法令の適用の有無の明確化や必要なものについては規制の見直しを検討することなどが挙げられる。

最後に、世界中で予測困難なスピードと経路でイノベーションが進化する中、新しい技術の我が国経済や国民生活への活用に際しては、社会を巻き込んで試行錯誤しながら、失敗しても再び挑戦できるプロセスが有効になる。このため、参加者や期間を限定することにより試行錯誤を許容する、規制の「サンドボックス」の活用を進めることも重要である。

対外・対内直接投資の活性化

第三の課題としては、対外・対内直接投資の活性化が挙げられる。

我が国企業の対外直接投資を通じて、海外需要を取り込むとともに、我が国に強みのあるR&Dを国内に集中させることが求められる。

また、海外企業の対内直接投資を通じて、国際的に先端技術や経営ノウハウなどの国内への伝播を促すことも重要である。

このためにも、政府には、国内外の企業を問わず、我が国がビジネスやR&Dの拠点として選択されるような魅力的なビジネス環境を整備することが求められる。

第4次産業革命に対応した人材の強化や働き方の見直し

第四の課題として、第4次産業革命の進展に伴う産業構造の転換への柔軟な対応が挙げられる。このために、人材の強化と働き方の見直しを行うことが求められる。

まず、人材の強化については、第2章で取り上げたように企業がOFF-JTも含めて教育訓練を強化するほか、政府が個人の学び直し(リカレント教育)の機会を公的支援によって充実させることが重要である。また、リカレント教育の基盤となり得る大学についても、社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的な大学教育を推進し、大学で学ぶ社会人の転職や再就職に結びつけていくことが必要であり、民間出身者の大学経営への参画や大学教育における実務経験者の活用等を進めることが重要である。

次に、働き方の見直しについては、企業はテレワークなど新規技術の導入を生かした柔軟な働き方の普及を進めることが必要であるほか、政府には産業の構造変化に合わせて、転職が不利にならない労働市場の整備と起業支援による成長産業への人材シフトの加速化を図ることも求められる。

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