第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響 第1節

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第1節 働き方改革が求められる労働市場の課題

本節では、「働き方改革」が求められる背景となっている労働市場の課題について、労働参加への制約、正規・非正規の賃金格差、長時間労働を取り上げて、その現状を概観する。

1 働き方改革により期待される経済面の効果

経済成長制約の顕在化

過去4年間のアベノミクスの取組により、景気の緩やかな回復基調が続き、労働市場では、有効求人倍率がバブル期並みの水準になるなど人手不足感が高まっている。他方で、今後の持続的な経済成長を展望する上で、経済成長を制約する要素がいくつか顕在化してきている。

第一は、労働供給の制約である。少子高齢化によって生産年齢人口が減少する中にあっても、女性や高齢者等の労働参加率や就業率が高まることによって、2013年以降、労働力人口や就業者数は緩やかに増加している。しかし、新たに労働参加している女性や高齢者は短時間労働での従事が多く、一人当たり総労働時間に就業者数を乗じたマンアワーでみた労働供給量は2014年まで低下しており、2015年には上昇したものの0.2%程度の伸びにとどまった。2016年には0.5%の伸びがみられたが、まだ同年の1%増加した就業者数の伸びほどではない1。このため、景気が緩やかに回復していく中で増加する労働需要に対して、労働供給が完全には追いついておらず、それが人手不足感につながっていると考えられる。

第二は、人手が不足しているにもかかわらず、効率的な人材の活用が進まず、労働生産性の伸びが緩やかなものにとどまっていることである。我が国の労働生産性上昇率は長期的にみて低下傾向にあり、その水準についてドルベース(購買力平価)に換算してみた場合も、アメリカと比べて6割程度、欧州の主要国のおよそ8割程度2と低い。こうした我が国の生産性の低さを労働面からみると、欧米と比較して長時間労働に従事する者の割合が高く、時間当たりでみた仕事の効率が低くなっている。

第三は、こうした労働供給制約や労働生産性の低迷が続くことによる需要面への影響である。今後、労働力人口の伸びが鈍化し、生産性が十分に上昇しない状況が長く続けば、企業や家計の所得が増えず、消費や投資需要が抑制される可能性がある。

働き方を変えることによる成長制約の克服

以上のような三つの成長制約に対して、現在の働き方を抜本的に見直すことは、その多くの課題を克服する鍵となり得るものである3

まず、第一の労働供給制約に対応するため、労働参加をより拡大するには、多様な人材が個々の置かれた事情に応じて柔軟に働き方を選択し、その意欲や能力を発揮できるような社会を構築する必要がある。具体的には、長時間労働を前提とした働き方を改め、時間や場所を選択できる多様で柔軟な働き方を導入するとともに、客観的に説明が困難な処遇の格差を是正していく必要がある。

第二の伸びの緩やかな労働生産性を高めるには、正社員と非正社員間の処遇格差や長時間労働を是正し、企業や労働者の生産性向上へのインセンティブを高めていく必要がある。企業にとっては、長時間労働を是正し、処遇の改善を図るためには、業務効率の改善を行うとともに、省力化投資を増加させる必要があり、働き方改革はそうした動きを促進することが期待される。同時に、労働者にとっては、処遇の改善や長時間労働の是正は働くこと自体のモチベーションを高めるとともに、自己啓発を含めた能力開発を行うインセンティブを高めると考えられる。

第三の低い生産性を背景にした所得の低さについては、働き方改革を進めることにより、生産性を高め、長時間労働の是正が進められることで、労働所得の増加や消費需要の拡大へつながることが期待される。具体的には、同一労働同一賃金など非正規雇用者の処遇改善や最低賃金の引上げは、特に低所得者層の所得の底上げと将来に向けたキャリア形成に寄与することにより、所得格差の縮小や消費拡大に貢献することが期待される。さらに、長時間労働の是正による仕事と生活の両立(ワーク・ライフ・バランス、以下、「WLB」という)の改善は、余暇時間の増加につながることから、それに伴う消費を増加させる可能性がある。

なお、働き方の見直しは、以上のような経済的な効果だけでなく、WLBの改善に加え、本人の病気治療や障害、育児や介護を含む家庭事情等に直面しても継続して働く可能性を高めるなどの効果が期待できる。働き方改革の本来的な効果として、働く人やその家族の生活の質や健康の向上に資するということがある。

以下では、働き方改革の問題意識を踏まえた上で、労働市場の現状について、労働参加、賃金格差、労働時間の状況に焦点を当てて概観する。

2 人口動態と労働需給

人口動態と労働参加率の推移

我が国の労働需給の状況をみると、緩やかな景気回復基調が続く中で労働需要が高まり、労働需給はタイト化する傾向にある。労働供給面では、生産年齢人口が減少する中にあっても、女性・高齢者等の労働参加率は高まっており、これにより労働力人口は緩やかに増加している(第1-1-10図(6))。

前項に示した通り、労働力人口増加のうち、短時間労働に従事する者が相当程度あることから、十分な労働供給の増加につながっていないと考えられる。さらに、これまで高齢者の労働参加の拡大を支えていた、現在65~69歳に属する世代(1940年代後半、特に47~49年生まれの第1次ベビーブーム世代)については、2017年以降に70歳以上に到達する。これまでの傾向としては、70歳以上の年齢層の労働参加率は低くなることから、我が国全体として労働力人口の伸び率は鈍化すると想定される。今後も労働力人口が増加するには、これまで何らかの理由で労働参加を控えていた層について、労働参加率が高まっていく必要性がある。(第2-1-1図

家庭の事情が労働参加しない大きな理由になっている

現在就業しておらず求職もしていない非労働力人口の内訳をみると、65歳以上の高齢者や15-64歳の女性で多く存在しており、労働意欲を持っている層が一定割合存在することが分かる。

非労働力人口のうち働きたいとの意思を持つ者は2016年時点で全体の8%に当たる400万人存在し、うち1割程度は65歳以上の高齢者である(第2-1-2図(1)、(2))。高齢者の労働参加については、2000年代に65歳以上の労働参加が進んだ北欧諸国の経験から、柔軟な労働時間を選択できる職場環境の整備や、能力開発の機会を設けるといった取組により、就業しやすい状況としていくことが有効であるとされている4

また、64歳以下の女性ではすう勢的に労働参加が進んでいるが、2016年時点の女性の非労働力人口のうち2割以上の248万人が就業を希望しながら労働市場に参加していない者と推定される。その理由については、2013年以降、「適当な仕事がありそうにないため」という理由は減少している一方で、「出産・育児のため」や「介護・看護のため」とする家庭の事情に関するものが多い状況となっている。こうした働く意欲を持つ非労働力人口が労働参加に向かえば、将来的な人手不足が緩和される可能性がある(第2-1-2図(3))。

さらに、前述のように明示的に「働く意欲がある」ものの、求職しておらず非労働力人口となっている以外に、「就業を希望しない」ために非労働力となっている者もいるが、そのうち35歳未満の女性については、就業を希望しない理由として「育児」がもっとも大きな要因として挙げられている(第2-1-2図(4))。

家庭の事情から就業できない、あるいは希望しない人も、在宅就業を含めた時間や場所の多様な働き方が雇用形態を問わず浸透すれば、就業を希望し、あるいは実際に就業する可能性も高いと考えられる5

3 正社員・非正社員の賃金差の現状

正社員と非正社員の平均的な賃金差と非正社員として就業する理由

正社員と非正社員の賃金差等にみられる処遇の違いが大きいことは、我が国の特徴として指摘されてきた6。所定内給与額を所定内実労働時間数で除した時給の平均で比較すると、2005年時点では非正社員と正社員の差は1.7倍、また、所定外給与やボーナスなどの特別給与額を含めた年収全体で時給を比較すると、その差は2倍以上であった。その後、2016年までの10年間で正社員の時給の伸びは1.5%程度であったのに対して非正社員の時給は10%以上上昇した結果、両者の差は縮小したが、2016年時点の非正社員と正社員の差については、所定内給与額ベースで1.5倍、年収ベースで1.8倍程度となっている(第2-1-3図)。非正社員の給与の伸びが高くなった背景としては、非正社員のうち企業の中で主要な業務に携わる人が増えていること等から、企業は、できるだけこうした非正社員が同企業にとどまるように、処遇を改善してきたことも一因とみられる7

2015年から16年にかけては、非正社員の賃金上昇率が高くなるとともに、正社員登用の動きも進んでおり、非正社員のうち希望に沿った正社員の職がないことから非正社員として従事している者の比率は、2013年以降すう勢的に低下している。2013年には男性については、この割合が27.7%であったが、2016年には22.7%まで低下した。同様に、女性については、13.3%から10.7%へと低下している。

ただし、労働力調査により就業状態の変化を観察すると、非正社員から正社員へとなる割合は横ばい傾向にあり、2016年に入ってからは、非労働力となっている者が正社員として就業する割合が高まっている傾向もみられる(第2-1-4図)。つまり、非正社員にとどまる人も多く、非正社員が正社員に転換していく動きは限定的となっている状況もうかがえる。非正社員としての職を希望する理由を性別・年齢階級別にみると、男性においては、「自分の都合のよい時間に働きたいから」という理由と並んで「正規の職員・従業員の仕事がない」ことが最も大きい理由となっており、およそ147万人程度が該当する。女性でも同程度の149万人程度が「正規の職員・従業員としての仕事がない」ことを挙げているが、25~44歳の女性では「家事・育児・介護等と両立しやすい」ことを、45~54歳の年代の女性では、「家計の補助・学費などを得る」ことを挙げている割合がさらに大きい(第2-1-5図)。非正社員が積極的に正社員化しない理由8としては、転勤やより長い労働時間をさけるといった労働者側のニーズや、「正規の職がない」という労働需要側の制約があげられる9。このほか、非正社員のうち短時間労働者については10、家庭の状況・働く本人の意思等様々な背景や、労働時間が長くなることに伴う税や社会保険料の負担や民間企業における配偶者手当の支給の有無が変わることによる心理的・制度的な側面11も考えられる12。働き方改革においては、働きたい人が働きやすい環境を整備するとともに、非正規雇用のキャリアアップの推進等の処遇改善を図ることとしており、こうした改革の中で、今般の配偶者控除の見直しや短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大に取り組むとともに、民間企業における配偶者手当の見直しも働きかけることにより、就業調整の解消や労働力拡大を図ることとしている。

同一職種でみた賃金差はより大きい

前項でみた正社員・非正社員の賃金差については、平均賃金の差であり、それぞれの仕事の内容を考慮していない。そこで、正社員と非正社員について、特定の職種を取り上げ、同じ職種同士で時給を比較した(第2-1-6図13

これによると、正社員の方がおおむね非正社員よりも高く、その傾向は特に大企業で顕著である。さらに勤続年数が長くなると、その差は広がり、大きい場合は2倍程度にまで拡大することがわかる。つまり、正社員と非正社員の間にはそもそもとして賃金差が存在するが、同じ企業等で継続して働き続けると、正社員と非正社員では、勤続年数による評価が賃金に反映される度合いについて異なっているといえる。もちろん、実際の賃金決定には、職種以外に、求められる責任や負担といった様々な要素の違いが組み合わされていると考えられるが、非正社員は正社員に比べて職業訓練を受ける機会が少なく、人的資本形成が不利となっている点も反映されている可能性があるだろう14。こうしたことが生じているのであれば、我が国経済全体で長期的にみた場合に、人的資本の質の低下や生産性の低下につながることも懸念される。

政府が示した同一労働同一賃金のガイドライン案では、基本給について、職務、職業能力、勤続に応じて支払うものなど、その趣旨・性格が様々であることを認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を求めるとしている。すなわち、均衡待遇だけではなく、均等待遇を求める動きがあり、このため、同ガイドライン案は、基本給、昇給、ボーナス、各種手当など賃金だけでなく、教育訓練、福利厚生も均等待遇の対象としてカバーしたものとなっている。

4 長時間労働の現状

一人当たり平均労働時間は長期的に低下

週休2日制の普及15や短時間労働者の増加を背景として、80年以降長期的な推移として一人当たり労働時間はすう勢的に減少してきている(第2-1-7図(1))。非正社員(パートタイム労働者)一人当たりの平均でみた労働時間は低下している中で、正社員の労働時間の水準は大きく変化せず、2000年以降、労働時間は二極化している状況となっている(第2-1-7図(2))。

景気変動と労働時間の関係については、景気回復に伴う生産増について、企業は一時的に残業時間を増やして対応するため、一人当たりの労働時間が長くなると考えられる。また景気後退時には操業を一部停止するなどの生産調整を行い、短期的には一人当たりの労働時間が減少すると考えられる。

しかし、フルタイム労働者の一人当たり労働時間は、90年以降の景気後退期全体を通してみても大きな変更はない。この時期、経済の落ち込みが長く続いたことや、製造業が生産拠点の海外移転を進めたこと等から、非正社員の労働調整を行うとともに、新規採用を制限する一方で、既存の正社員の労働時間を増やすという対応をとる企業も多くみられた。このため、2000年後半以降の一人当たり労働時間の低下がみられる時期においても、正社員に限ってみれば、2009年の落込みを除いて長時間労働者の比率はほとんど変化がない(第2-1-7図(3))。また、90年代初のバブル期のように、景気の回復が長期間続くと、労働者側の売り手市場となるため、企業としては労働力の安定的な確保を行う必要があることから、長時間労働の是正や処遇改善等の取組を行い、一人当たり労働時間は減少する局面がある16

余暇や家事に費やす時間が短いことはWLBの観点から課題

日本では一人当たり労働時間は減少してきたが、国際的にみると、いまだ総労働時間は相対的に長く、その反面として、いわゆる余暇時間は短い。特に日本の20~54歳男性で配偶者がおり、仕事を持つ者では、家事・育児に費やす時間の平均は平日で1時間以内と、欧州主要各国と比べて半分程度となっている(第2-1-8図17。このように、男性が家事に携わる時間も短いこともあって、経済協力開発機構(OECD)による国民生活の豊かさに関する分析等では、国際的にみて、日本のWLBの状況を改善することが課題とされてきた18。近年、子供のいる世帯では、男性の育児休業者の割合が高まるなど19、家族と過ごす余暇や家事の時間帯を増やす傾向はみられる。ただし、各国との比較においては、依然として我が国の男性が家庭活動に従事している時間が短いといえる。

恒常的な残業が存在する

労働時間は、企業側及び労働者側双方の様々な要因に影響を受け、特に時間外労働は、企業の売上高の変動を吸収するための調整弁として機能している面があり、短期的な景気変動に応じて残業時間が変動する傾向がみられる。ただし、一部の産業では売上高の変動と係わりなく時間外労働を含む長時間労働が恒常化している様子がうかがえる。

まず、残業時間については産業別に大きく異なっており(第2-1-9図(1))、その結果、売上や利益の変動を伴う景気変動と残業時間や雇用者数の変化が必ずしも対応していない可能性がある。

作業効率の観点から労働時間をとらえた研究によれば、生産性を最大化させる労働時間と比べて10%程度長いという推計もある20。「賃金構造基本調査」の個票データを用いて、各雇用者の年齢、職種、雇用形態、性別、所属する企業の規模や産業分類などの属性を考慮した上で、労働時間がどのように決まるのかを計測した(付注2-1参照)。この結果によると、製造業や運輸業、郵便業においては、労働時間のうち、一日当たりおよそ30分程度21は景気の変動にかかわりなく、産業の特性として定着していると考えられ、さらに中小企業に比べて大企業では労働時間が長い(第2-1-9図(2))。

長時間労働が生じる背景

労働時間の決定や休暇の取り方については、国によって特性があるが、それは、雇用の創出や労働者保護の観点で短縮が図られてきた結果という政策的側面も大きい22

基本的な経済学の議論では、労働市場の需給調整によって適正な労働時間が設定されると考えられる。

ただし、何らかの理由で市場の失敗が生じることにより、労働者にとって最適な労働時間が設定されず、結果として望まない長時間労働が生じているケースも考えられる23。まず企業側の事情として、雇用に対して大きな固定費用がかかる場合が考えられる。企業が従業員を雇用する際には、採用のための費用や、職務を適切にこなすための教育訓練費用がかかるため、労働時間に依らず一定の固定費用が発生する。この場合、業務量の増加に対して、新たに雇用を増やすよりも、一人当たりの労働時間を増やして対応する方が限界的な費用は小さくなる。他方、労働者の側からみると、仮に賃金水準が望ましい生活水準よりも低い場合には、労働供給を増やすインセンティブを持つほか、仮に賃金水準が十分に高い場合でも、情報の不完全性等のために転職のための費用が高ければ、長時間労働を受け入れざるを得ない。さらに、職場に長く働く傾向がある人がいる場合には、早く帰りにくいという暗黙のルールが生じる場合も考え得る。こうした観点からみると、我が国で長時間労働がみられる背景には、一企業における長期雇用を前提として、企業特殊の技能の習得のための固定費用がかかっていることに加え、転職市場の規模や効率性が限られていることや組合組織率の低下にみられる労働者側の影響力が低下していること等が関係している可能性が考えられる(第2-1-10図)。

コラム2-1 正社員の労働時間決定要因-パネルデータでの実証

正社員の労働時間について、産業ごとの労働時間の差については、第2-1-9図で示した通りだが、さらに、企業規模の特性以外に、年齢、学歴、役職、妊娠・出産の有無といった個人の属性がどのように影響を与えるかについても分析を行った。その際、労働時間を決定する要因は上記のようなデータとして表れる属性以外に、データに表れない個人的な属性にも左右されると考えられることから、こうした影響を排除するため、2か年にまたがるパネルデータを用いて同じ雇用者の変化を比較することにより、環境・状況の変化が労働時間の変化に与える影響を分析した24

推定結果によると、まず、男女で共通した結果としては、学歴が大卒以上である場合や、仕事のレベルが上がる場合に労働時間は増加している。

コラム2-1表

男性にのみみられる変化としては、年齢が有意であることから、年齢が高い方が、他の世代よりも相対的に大きく労働時間を増加させたことがわかる。また、建設業で働いている場合に、労働時間が増加していることがわかる。後者については、昨今の工事量の増加等が影響しているものと思われる。一方で、大企業勤務である場合や、テレワークの制度が導入されている場合には、労働時間を減少させた様子がみられる。

女性については、大企業勤務、テレワーク制度が導入されていること、勤務先の業種は労働時間の変化に有意に影響を与えていない。女性において特徴的なのは、この2年間の間に妊娠・出産を経験した場合や、転職した場合に労働時間が有意にマイナスとなっていることである。特に、転職により労働時間が減少していることについては、2015年時点で労働時間が長かった主体が転職を通じて労働時間の短縮を図っており、このことは、特に女性において、労働時間が長い企業から人材が流出した可能性を示唆している。


(1)付図2-1を参照。
(2)OECD.statの2015年の生産性データベースによれば、アメリカ(63)、またアメリカを除いた33か国の平均(46)に比べて、日本は39と、それぞれ63%、85%にとどまる。
(3)『働き方改革実行計画』の概要は付表2-2参照。
(4)内閣府(2016a)
(5)武石(2006)
(6)OECD(2014)等。
(7)厚生労働省「賃金引上げに関する実態調査」によれば、事業者が賃金を引き上げる理由として、「従業員により長く働いてもらうため」という理由が最も高い。
(8)付図2-3参照。
(9)ただし、「正規の職がない」ために非正規雇用に従事している者の割合は、2013年以降低下を続けている。
(10)総務省「労働力調査」によれば、2016年時点で、非正規社員の30%は月80時間以下、半分超は月120時間以下の短時間労働者である。
(11)「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告」(平成28年11月14日 税制調査会)によれば、「就業調整との関連では・・・配偶者特別控除の導入により、配偶者の給与収入が103万円を超えても世帯の手取り収入が逆転しない仕組みとなっており、税制上、いわゆる「103万円の壁」は解消している。・・・他方で、配偶者特別控除の導入後も、配偶者が就業時間を調整することにより、納税者本人に配偶者控除が適用される103万円以内にパート収入を抑える傾向があるとの指摘がある。こうした傾向の要因として、配偶者控除に係る「103万円」という水準が企業の配偶者手当の支給基準として援用されているためではないか、また、いわゆる「103万円の壁」が引き続き心理的な壁として作用しているためではないか」といった指摘もなされている。
(12)内閣府(2016a)第2章第1節参照。
(13)ここでは、従事内容の類似性によってのみ判断できるよう、職種について比較を行っているものであり、個人の知識や役職などは考慮していない。また、より同一の基準で比べられるよう、所定内給与額をそれぞれの労働者が直面する所定内実労働時間数で除した時給で比べている。
(14)労働政策研究・研修機構(2011)
(15)厚生労働省「就労条件総合調査(平成28年)」によれば、平成28年時点で何らかの週休2日制が適用されている労働者の割合は88.6%(うち、完全週休2日制以上は49.0%)となっている。
(16)Kawaguchi, Naito and Yokoyama (2008)では、87年の労働基準法改正による法定労働時間短縮が実労働時間に与えた影響を賃金構造基本統計調査の個票を用いて計測した結果、1時間の法定労働時間短縮は実労働時間を8.4分程度短縮させる効果しかもたなかったとしている。三谷(2012)では、この検証結果から、労働基準法の改正による直接的な効果というよりも、それが労働時間短縮の機運を醸成し、労使交渉やバブル景気による人手不足が時短を促進した側面があると指摘している。
(17)内閣府(2016b)I-特-7図を参照。
(19)厚生労働省平成28年度「雇用均等基本調査」においては、男性の育児休業者の割合は3.16%と同統計の開始(平成8年度0.12%)以来、最も高くなった。
(20)小倉・坂口(2004)等参照。
(21)1か月に20日8時間ずつ働く場合と比べて、製造業で9時間、運輸業、郵便業で10時間程度多い計算となる。
(22)90~2000年代の欧州では、ワークシェアリングにより労働時間を短縮して、雇用を創出するという政策的な試みが進められた経験がある。(詳細は川口・鶴(2010)参照。)
(23)理論的な説明は樋口(2010)に依拠する。
(24)ここでは、リクルートワークス研究所が2015年と2016年の状況を調査した「全国就業実態パネル調査」(2016年1月、2017年1月実施)のデータを用い、同じ雇用者の労働時間の変化(差)とこの2か年の労働環境変化との関係を分析した。利用したデータについては、継続回答者33,662人(男性16,421人、女性17,241人)のうち、<1>2015年及び2016年の両時点で週当たり労働時間を回答しており、<2>両期間において、正社員として雇用されており、<3>2015年時点では週平均20時間以上、2016年時点で1時間以上就業しているサンプル(計9,752人(男性6,978人、女性2,774人))を用いた。
(推計式)
⊿Ti=α*agei+β*agei2+γ*dhour i,2015+δ*xii
ここで、⊿Tiは男女iにおける週当たり労働時間の変化(2016年と2015年の12月における週当たり労働時間の差)、ageは2017年1月時点の年齢、dは前年の労働時間のダミー変数xは個人の属性を示す変数であり、企業規模、管理職か否か、産業(前項で示したように労働時間が比較的長い製造業や建設業であるか)、妊娠・出産を経験したか等である。
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