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第4節 まとめ

本章では、リーマンショック後の世界経済の変化を踏まえた我が国経済の立ち位置、物価の現状とデフレ脱却に向けた政策対応、財政・社会保障の現状と課題に分けて、我が国の経済財政の現状と課題を検討した。要点をまとめると次のようになる。

景気は従来と異なるメカニズムで持ち直し

景気は2013年に入って持ち直しに転じた。今回の持ち直し局面は、経済政策などに市場が大きく反応し、こうした動きがマインドの改善などを通じて個人消費を中心に好影響を及ぼしているという点で、従来とは景気持ち直しのメカニズムが大きく異なっている。リーマンショック後の経済動向を主要国・地域と比較した結果、底堅い個人消費と弱い輸出が日本の特徴であり、設備投資の弱さは主要国・地域で共通していた。「三本の矢」の一体的な取組の下で、これらのいずれにも変化やその兆しが見られ、経済の好循環の芽が出ている。

個人消費ははっきりと持ち直し、好調さを維持している。企業収益の改善が所得に波及する兆しも見られる。今後、経済再生に向けた取組などを通じて雇用と所得が増加し、個人消費が一層力強さを増していくことが期待される。主要輸出相手国の景気低迷や円の独歩高などにより低迷してきた輸出は、持ち直しの動きが見られる。円安の輸出押上げ効果が徐々に顕在化し、海外景気の回復とあいまって増加に向かうことが期待される。設備投資は依然として上向きには転じていないものの、環境は好転している。円安の進行などにより企業収益は製造業を中心に改善している。大胆な金融緩和の効果で実質金利も低下している。成長戦略の実施などの取組を通じて成長期待が高まり、設備投資も徐々に持ち直していくことが期待される。

被災地の復旧・復興は進んでいるものの、いまだ道半ばである。被災地の雇用のミスマッチは建設業を中心に深刻な状況にあり、一刻も早い解消が待たれる。住宅ストックの回復は、特に被害の大きかった沿岸地域で見ると、最も進んでいる宮城県でも全壊棟数の27.6%にとどまっており、今後、「住まいの復興工程表」などの着実な実施が求められている。

経済政策がレジーム転換しつつあり、デフレ状況に変化

我が国では、長期にわたるデフレから脱却するために、経済政策のレジーム転換が進められている。日本銀行は2013年1月、物価安定の目標を設定し、4月に「量的・質的金融緩和」を導入した。このような政策対応を受けて、金融資本市場では株価上昇や円安方向への動きが進んだ。今後とも、政府と日本銀行が一体となった取組を強力に推進し、家計や企業のデフレ予想を払拭することが期待される。なお、政府は、企業による労働者への分配(給与等支給)を拡大するための税制措置を講じた。

2013年3月以降、我が国の緩やかなデフレ状況に変化が出始めている。食料価格の下落傾向の一服や耐久財の下落寄与の縮小などを背景に、消費者物価(コアコア)の前年比下落幅が縮小している。緊急経済対策への期待や大胆な金融緩和によって、消費者マインドが改善傾向にあり、家計の低価格志向も緩和している。また、2012年秋以降、円安方向への動きが進み、輸入物価や企業物価を経由してデフレ圧力が解消しつつある。

デフレから脱却する過程で賃金上昇も重要であるが、1990年代後半以降、企業収益の変動に対して賃金の変動が抑制される傾向が見られる。2000年代前半のデフレ局面では、非製造業の賃金の引下げが企業向けサービス価格の押下げ要因となっていた。景気回復と企業収益の改善に伴って賃金が上昇するような環境を整備する必要がある。

企業物価に関しては、企業の根強いデフレ予想の転換が重要である。内閣府のアンケート調査によると、主要商品の販売価格を引き下げる際に最も重視する要因として、「競合他社の価格」や「販売先・消費者との関係」という回答が多い。競合他社との低価格競争や顧客からの値下げ圧力などが企業のデフレ予想を強めている可能性がある。

経済と財政の好循環の確立に向けた取組を進めることが重要

我が国は、基礎的財政収支赤字と債務残高の累増が長期化している。リーマンショック後は、税収の落ち込みと経済対策、大震災からの復旧・復興事業により、基礎的財政収支の赤字幅が一段と拡大した。そのため、経済政策のレジーム転換が景気回復やデフレ脱却を後押しする中で、中長期的な視点から、財政健全化のための取組を着実に進めていくことが重要である。

社会保障では、構造改革が課題となっている。給付額が最も大きい年金だけでなく、急速に増加している医療や介護、福祉についても給付の重点化・効率化を行うことが必要である。負担面では、我が国の社会保障費財源に占める公費の割合が上昇しており、安定的な財源の確保が求められる。

これまでのところ我が国の長期金利は他国と比べて低位で安定しており、財政の持続可能性に対する市場からの信認は維持されている。しかし、債務残高の一層の増加や金利上昇によって、政府の利払い負担が大幅に増加するリスクがある。「骨太の方針」に沿って、中長期的に持続可能な財政構造を目指すことが必要である。

リーマンショック後の財政悪化は各国に共通しているものの、我が国財政はヨーロッパ周縁国並みのペースで悪化している。政府債務危機に陥ったヨーロッパ周縁国の経験を踏まえると、財政健全化は喫緊の課題である。

財政健全化のために付加価値税率を引き上げる国がヨーロッパを中心に増加している。これらの事例を検証すると、税率の引上げに伴う駆け込み需要とその反動減が個人消費の変動を増幅させたが、必ずしもマイナス成長に陥るわけではない。ただし、国際金融市場の信認を維持するため、経済が停滞しているにもかかわらず、やむを得ず税率の引上げを行う国が見られ、結果として財政健全化が進まない例もあった。我が国がこのような事態に陥らないためにも、経済再生が財政健全化を促し、財政健全化の進展が経済再生の一段の進展に寄与するという好循環の確立に向けた取組を進める必要がある。

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