[目次]  [戻る]  [次へ]

第1章 経済財政の現状と課題

2008年9月のリーマンショックからまもなく5年が経つ。我が国経済は、円高とデフレの悪循環の懸念もあって、いわゆる産業空洞化が進む中で、2011年3月の東日本大震災(以下、「大震災」という)や欧州政府債務危機など内外の様々なショックに見舞われたものの、2013年1-3月期には実質GDPはリーマンショック前の2008年7-9月期の水準を回復した。景気は持ち直しに転じ、支出の増加が生産の増加につながり、それが所得の増加をもたらすという経済の好循環の芽が出ている。リーマンショック後の持ち直し局面が終了した今、世界経済を点検して自らの立ち位置を確認し、経済の好循環の確立に向けて再出発するときである。

一方、日本の名目GDPは2009年以降、横ばい圏内で推移しており、リーマンショック前を約4%下回る水準にとどまっている。デフレからの早期脱却は引き続き最優先の課題である。政府と日本銀行は2013年1月22日、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」(共同声明)を公表し、日本銀行は2%の物価安定目標を導入した。さらに、日本銀行は4月4日、2%の物価安定目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するため、「量的・質的金融緩和」の導入などを決定した。こうした一連の取組を受けて、最近はデフレ状況に変化が見られ、産業空洞化の懸念が後退する動きも見られる。

長引くデフレは経済だけでなく、財政や社会保障にも大きな影響を与えてきた。また、リーマンショック後の景気後退や大震災を経て、財政政策も大きな変化を経験した。2013年秋には2014年4月からの消費税率引上げについての判断も控えている。経済再生が財政健全化を促し、財政健全化の進展が経済再生の一段の進展に寄与するという好循環の確立に向けて、我が国の財政・社会保障の現状と課題を点検しておくことが不可欠である。

こうした問題意識から、本章では次の3つの論点について検討する。第一に、国際比較や中期的な観点からリーマンショック後の我が国経済の立ち位置を確認するとともに、持ち直しに転じた最近の実体経済の動きについて整理する。第二が、デフレ脱却に向けた政策対応と物価の動向である。すなわち、日本銀行による大胆なレジームの転換の影響を点検するとともに、デフレ脱却に当たって鍵となる企業の価格設定や賃金設定行動について分析する。第三は、財政・社会保障の現状と課題である。財政・社会保障の現状やデフレの影響を点検するとともに、EU諸国の付加価値税率の引上げと景気の関係から得られる教訓について整理する。

[目次]  [戻る]  [次へ]