第2章 新たな「開国」とイノベーション 第1節
第1節 日本経済のグローバル化:再検証
ここでは、第2節以降の準備として、まず、我が国が新たに「開国」しようとしている世界がどのような方向に進んでいるかを概観する。すなわち、近年における世界経済の大きな流れの変化を読み取り、我が国の「開国」を考える際に注意が必要なポイントの抽出を試みる。また、貿易、投資、人材といった側面ごとに、我が国の対外開放がどの程度進んでいるかを評価する。
1 世界経済のメガトレンド
日本経済の中長期的な展望を考えるという観点から、現在の世界経済のマクロ的な特徴のうち特に重要な点を挙げると、次の二点に集約できる。第一に、先進国、新興国の双方を巻き込んで競争と連携の動きが活発化していること、第二に、世界経済の先行きについての不透明感が構造的に高まっていることである。いずれの特徴も、我が国がどう対処すべきか、という課題を突き付けているが、これらについて具体的な状況を点検していきたい。
(1)各国間の競争と連携
各国経済の結びつきの強化という意味でのグローバル化はすう勢的に進んできているが、近年、特に2000年代の特徴を整理しておこう。ここでは、3つの特徴に絞って取り上げる。新興国の台頭、FTA・EPA(以下、両者を区分する必要がない限り、分かり易さの観点からFTAと表記する)の拡大、世界的な知識経済化である。
(新興国の台頭)
中国に代表される新興国の台頭は、2000年代のグローバル化の特徴として誰もが思いつく点である。新興国の台頭が世界経済に及ぼしたインパクトは大きく、後述するFTAの拡大や知識経済化の流れといった特徴も、あるいは資源・エネルギー制約などの課題も、新興国の台頭という現実から派生したものといっても過言ではない。一方で、新興国は歴史上常に現れるものであり、我が国もかつては新興国であった時期がある。近年の新興国の台頭の意味を冷静に整理しておく必要がある。
2010年に、我が国のGDPが中国に抜かれ、世界第3位となったことは、新興国の台頭を象徴する出来事であった。そこで、世界のGDPに占める各国のシェアを確認してみよう(第2-1-1図)。確かに、2000年代の後半になると中国、南米、ロシアといった国々のシェアが高まっている。先進国は2000年代前半まで約8割のシェアを維持していたが、2015年のIMFの予測では6割強に低下すると見込まれている1。これには、リーマンショック後の先進国経済の落ち込みも寄与しているが、それ以前から新興国の経済成長率が先進国を上回って推移してきたことの結果でもある。もっとも、名目ドルベースのGDPは、為替レートによっても大きく左右される。そこで、購買力平価ベースのGDPに着目すると、90年代以降、新興国は着実にシェアを高めてきたことが分かる。日本のGDPは2000年代の前半には(厳密には2001年)中国に抜かれている。
以上の観察からは、2000年代後半以降、新興国の存在感が急速に高まったといえるが、そうした理解にはいくつかの留意すべき点もある。一つは、新興国のシェア拡大への寄与は圧倒的に中国が大きいことである。ロシアや南米諸国は、特に購買力平価では変化が緩慢である。もう一つは、一人当たりGDPでは先進国との差は依然大きいことである。中国の一人当たりGDPは我が国の1割にすぎない(購買力平価では約2割)。これらの事実は、フロンティアは消失しておらず、新興国がさらに成長する余地が残されていることを示唆している2。
- ここでの先進国は、図の分類では日米、その他OECD のほか、NIES、南米の一部(韓国、メキシコ)が含まれる。
- ただし、後述するように、資源・エネルギー制約や人口動態の影響に注意する必要がある。
(自由貿易協定の拡大)
2000年代のグローバル化の特徴として、制度的な面では、FTA(自由貿易協定)が急増したことが挙げられる。実際、GATT・WTOに届けられた新たなFTAの件数を見ると、91~2000年には60件程度であったものが、2001~2010年では120件を超えている(第2-1-2図(1))。我が国は、こうした流れにやや出遅れた感があるが、投資や知的財産、ビジネス環境の整備などを含む幅広い分野での二国間交流を強化することを狙い、EPA(経済連携協定)の形での協定締結に努めてきた。
近年におけるFTAの拡大の背景の一つとして、WTOにおける自由化交渉が難航してきたことが指摘できる。FTAは、非締結国との間の貿易を縮小させる可能性(貿易転換効果)や、原産地規制の煩雑さがかえって貿易の効率性を削ぐおそれもあるが、グローバル化のメリットを取り込むための次善の方策として、WTOを補完することが期待されている。加えて、FTAはその本来の性質から、締結国に対する関税率を非締結国と比べて相対的に低くし、非締結国からの輸出を締結国にシフトさせる効果(貿易転換効果)を持つ。このことから、FTAの件数がある程度の水準を超えると、多くの国が「バスに乗り遅れるな」とばかりに締結を急いだと考えられる(バンドワゴン効果)。
80年代以前は、FTAの多くは先進国間又は先進国・途上国間で締結されていた。しかし、90年代以降になると、FTAの多くは開発途上国を巻き込んだものになる(第2-1-2図(2))。内訳を見ると、先進国と開発途上国の間のFTAが最も多く、2000年代にはそうしたパターンが全体の4割程度にまで達している。先進国にとっては、成長著しい新興国等の市場を獲得することの重要性が増しており、FTAの締結もそのための手段として有効であると位置付けられているといえよう。また、途上国間のFTA締結も90年以降急増しているが、これは91年のソ連崩壊後から2000年代前半にかけて、CIS諸国間でFTA締結が進められたことが要因として考えられる。なお、この要因を除外すると、90年以降も先進国・途上国間のパターンの割合が最も高い。
(世界的な知識経済化)
先進国の「知識経済化」は今に始まったものではないが、近年は新興国の台頭とともにその勢いが一層強まっている。新興国が労働集約的な商品の輸出で圧倒的な力を発揮するにつれ、先進国は資本集約的、さらには知識集約的な商品の生産に活路を見いださざるを得なくなる。また、多くの先進国では潜在成長率がすう勢的に低下しており、その反転上昇のためにはイノベーションを通じた生産性の向上が鍵とされている。
そこで、先進各国や企業は研究開発にしのぎを削ることになるが、効率的にその成果を獲得し、製品を生み出すには皮肉にもグローバルな連携、ネットワークの活用が重要である。研究開発の成果は、ライセンスや特許に対する支払いなどの形で国際的に取引をされる。そうした「技術貿易フロー」のGDP比は、多くの先進国で2000年代において着実な上昇を示している(第2-1-3図(1))。研究開発の多くは多国籍企業が担っているが、こうした企業の親会社・子会社間の取引も「技術貿易フロー」に含まれる。また、研究開発のプロセスでもグローバルな連携が進んでいる。最近の科学論文は単著より共著が一般的であるが、2000~2007年の平均では、共著論文の2割以上が外国人・外国機関との共著となっている(第2-1-3図(2))。
グローバルな知識経済化という点では、新興国は主要なプレイヤーではないように見える。しかし、人的資源の面では、中国などの新興国の存在感は看過できない。このことは、例えば、アメリカにおける高度な科学技術人材の状況から示唆される。アメリカにおける外国人への博士号授与数(科学技術分野)で最も多いのは中国人である。韓国人や台湾人も多く、日本人をはるかに上回る。また、アメリカにおける外国人学者では、中国人、インド人、韓国人の順に多い。学者では日本人も少なくないが、これらの諸国には及ばない。
(2)構造的なリスク要因
以上のように、近年のグローバル化は、新興国が台頭するなかで、FTAの広がりや知識経済化が進むといった特徴があることを示した。他方で、世界経済は構造的な課題を抱えており、それが先行き不透明感の背景にもなっている。ここでは、そのうち資源・エネルギーの制約、金融の不安定性、中国等における高齢化といった問題を取り上げる。
(エネルギー需要は先進国から新興国に緩やかにシフト)
新興国を中心として世界経済が成長を続けるとした場合、資源・エネルギー問題がボトルネックとなり得る。一般に、新興国では全体としてエネルギー等の利用効率が先進国と比べて劣ると考えられることから、その成長はエネルギー需給面での大きな制約となる可能性が高い。先進国にとっては、地球環境問題への影響や地政学的なリスク、あるいは投資・投機資金の流入といった観点で対応が重要となる。ここでは、エネルギーの需給を中心に検討しよう。
世界全体のエネルギー消費量はすう勢的に増加してきているが、2000年代に入ってからは増加のペースが速まっていることが分かる(第2-1-4図)。さらに、今後、2030年までそのペースが続く見通しとなっている。内訳を見ると、石炭のシェアが急速に高まっている。石炭は埋蔵量が多く広い範囲に分布し、原油と比べ価格が低廉かつ安定的であるため、新興国を中心に発電用向けの需要が増加していることが背景として挙げられる。石炭は二酸化炭素排出量が多く、地球環境問題にとって大きな挑戦となる。
原油の動向に注目すると、まず需要面では、OECD諸国では今後とも現在とほぼ同じ水準にとどまるが、やはり新興国、特に中国の需要が2030年までに大きく増加することが見込まれている。一方、供給については、ブラジルにおいて若干増加すると想定されるが、それ以外はOPEC諸国、特に中東諸国の供給増によって需要増が賄われる見通しとなっている。現在、政治的混乱が続く中東諸国への原油の依存は、先進国、新興国ともに大きなリスクを抱えることになる。
こうした実需面での動向に加えて、資源・エネルギーの市場には投資・投機資金が入ってきており、しばしば価格の急速な高騰が生じている。もっとも、実需からかい離した価格は持続可能ではなく、逆に突然の暴落の可能性もある。いずれにせよ、市場への資金の流出入を阻止することは現実的ではなく、また、望ましくもない。エネルギー効率の向上や産油国に対する弾力的な生産要請等に地道に取り組むことで、需給環境の改善を進めることが基本であろう。
(金融経済化とインバランスの拡大)
新興国の台頭やグローバルな知識経済化の流れの中で、実体経済に対する金融の存在感が高まっている。リーマンショック前には、新興国の潤沢な貯蓄が先進国に流入する一方、アメリカを中心とする先進国では最先端の金融技術が開発され、いわば「金融主導型」の成長をもたらした。しかし、リーマンショックを契機として、金融面の投資の集中に伴う様々なインバランスの拡大が世界経済にとっての潜在的な不安定要因となり得ることが改めて認識されている。
一つは、世界的な流動性の増大である。2007年までは、主要な金融資産の残高のGDP比が持続的に上昇してきた(第2-1-5図(1))。リーマンショック後は株価が一時的に落ち込んだが、マネーストックや債券の残高は急テンポで増加を続け、2009年には、これらの金融資産合計の対GDP比はリーマンショック前の水準を幾分上回っている。流動性の高い金融資産の急テンポの増加は、不動産や商品市場などへの過剰な資金流入をもたらし、バブルの形成と崩壊につながる可能性があることから、注意が必要である。
この点と関連して、最近では、新興国を巡る資金の動きが活発となっている。国際収支の構造を見ると、リーマンショックを契機に縮小したとはいえ、先進国全体では経常収支が赤字、資本収支が黒字である。これに対し、新興国では経常収支、資本収支とも黒字で、流入した資金が外貨準備として積み上がっている(第2-1-5図(2))。背景の一つには、これらの国の多くがドルペッグやそれに近い相場制を採用し、その維持に努めている点が挙げられる。新興国では過度の資本流入を防ぐための対策を進めているが、その効果が奏功してバブルの増大を抑制できるかどうかが注目されている。
もう一つは、部門別のインバランスである。リーマンショック後の経済危機の結果、米欧では企業部門及び家計部門のバランスシートが傷んでいるが、多くの先進国では政府部門の債務(ソブリン債務)の増大が問題となっている。当面、欧州の一部の国での政府債務の調整に市場の注目が集まっているが、第1章第3節で論じたように、我が国も巨額の政府債務を抱えており、財政の健全性の確保が重要な課題となっていることはいうまでもない。
(アジアにおける人口動態の変化)
中国をはじめとする新興国の高成長の背景の一つに、生産年齢人口(15歳以上64歳以下)の増加が挙げられる。こうした人口が都市部への移動などを通じて相対的に生産性の高い職業に就き、所得と支出の好循環が生ずるという、我が国の高度成長期にも似たメカニズムが働いていると考えられる。しかしながら、中国の生産年齢人口は次第にその増勢が鈍化し、2020年頃には生産年齢人口は停滞局面に入ると見込まれている(第2-1-6図)。中国自身の政策対応による面もあるが、こうした人口動態の変化は農村余剰労働力を減少させ、過剰設備をもたらす可能性があるなど、先進国にとっても中国頼みの成長の限界を示唆する要因といえよう。
人口動態面での中国の課題は、生産年齢人口の停滞だけではない。我が国と同様に、この動きには急速な高齢化を伴うからである。その結果、これまでは減少してきた従属人口(14歳以下及び65歳以上)が増加に転じつつある。中国では社会保障制度が十分整備されていないが、高齢化に伴ってその充実が図られるとすれば、先進国が経験しているような財政への圧迫が急速に強まる可能性もあり、これも新たなリスクとして考慮しておく必要がある。
中国だけでなく、NIES諸国でも今後は生産年齢人口が鈍化、さらには減少へと転ずる一方で、従属人口の急増が見込まれる。その意味では、東アジアでは我が国を含め人口動態面からは成長への制約が強まる。ただし、インドに代表される南アジアやASEAN諸国では状況は異なる。これらの国では、幾分鈍化はするものの今後とも長期にわたって生産年齢人口の増加が見込まれる。また、従属人口の増加率も比較的安定している。先進国にとっては、このような人口動態の雁行形態的な変化を踏まえ、円滑に海外需要を取り込んでいく必要がある。
コラム2-1 主要国の経済成長における金融不動産業の寄与
グローバルなリスク要因の背景として「金融経済化」を挙げたが、産業としての金融は各国の経済成長にどの程度寄与したのであろうか。日本、アメリカ及びドイツについて、90年代と2000年代(リーマンショックのあった2008年まで)の産業別実質GDP変化率を縦軸に、同付加価値シェアを横軸にとってこの点を調べてみよう(コラム2-1図)。同図では、面積が経済成長への産業別寄与を示すことになる。
それによれば、90年代、2000年代を通じて、アメリカのみならず日本やドイツでも金融業・不動産業(以下「金融不動産業」という。)の相対的な寄与が大きいことが分かる。ただし、2000年代においても金融不動産業が他産業よりはっきりと高い寄与を示していたのはアメリカだけである。これは、同国での金融・不動産バブル発生に加え、もともと同産業の付加価値シェアが高かったことを反映している。なお、その他の興味深い点として、2000年代において、アメリカやドイツと違って我が国では卸売小売業が成長しなかったことも指摘できる。
2 貿易の拡大ペースと規模
我が国経済は輸出主導型といわれる一方で、世界経済の成長を十分取り込めていないとの見方もある。いずれにせよ、貿易、特に輸出が拡大してきたことは間違いないのだが、問題はそのペースが諸外国と比べて十分かどうか、さらには、自国の経済規模との対比で貿易が盛んであるといえるかである。これらの点を評価してみよう。
(1)輸出シェアと貿易開放度
我が国の貿易の大きさをどう見るかは、評価する視点によって違うと考えられる。ここでは、次の3つの視点を取り上げる。第一は、主要国と比べたときの貿易の伸びである。第二は、世界の貿易に占める我が国のシェアである。第三は、貿易が自国の経済規模に占めるシェアである。なお、最初の二つについては、便宜的に輸出だけに着目する。
(実質ベースではアメリカやEUの域外輸出を上回る伸び)
我が国経済が「輸出主導型」であるというのは、一般には、経済成長に占める輸出の寄与度が高いことを意味する。確かに、2002年~2007年の景気拡張局面では輸出の寄与度が高く、内需である設備投資も多分に輸出に誘発された面が大きいと考えられる。リーマンショックを契機に世界需要が落ち込むと我が国からの輸出は激減したが、その後の景気持ち直しは経済対策の効果に加え輸出にけん引された面が強かったといえよう。
このような議論において問題となる「輸出」とは、財・サービスの実質輸出である。そこで、実質輸出の伸びに着目して、2000年代における主要国との相対的な関係を確かめよう。なお、EUを一つの国と捉え、域外に対する輸出だけを集計した系列も示した。結果を見ると、2008年までの期間では、我が国の実質輸出の伸びはアメリカ、EUを上回って推移している(第2-1-7図(1))。主要な先進地域と対比した相対的な意味でも、輸出が堅調に拡大しており、欧米以上に世界需要の拡大による利益を享受してきたといえよう。もっとも、リーマンショックによる減少も米欧より顕著であり、2009年にはそれまでにつけた差が帳消しとなった。また、この間、韓国は急速に実質輸出を伸ばしていることが分かる。
ところが、名目ドルベースの輸出では、様相が異なっている。すなわち、我が国の名目ドルベースの対世界輸出の伸びは、2008年までをとってもアメリカとほぼ同じテンポであり、韓国はもちろん、EUと比べても低い状況が続いている(第2-1-7図(2))。実質輸出ではリーマンショックまでは米欧を超えるテンポであったにもかかわらず、ドルベースの輸出価格が上昇せず、名目ドルベースの輸出が低調となったといえよう。また、名目ドルベースで新興国向けの輸出の拡大テンポを見ると、対世界と比べて総じて伸びが高いものの、やはり日本の輸出はアメリカと同程度か緩やかであり、韓国、EUとの対比では明確に緩慢である。したがって、新興国需要の取り込みという意味でも、名目ベースでは主要国と比べ見劣りがするといえよう(第2-1-7図(3)(4))。
(世界輸入に占める我が国の財輸出のシェアは大幅に低下)
名目ドルベースの輸出の伸びが相対的に低いとすれば、世界貿易における我が国のシェアが低下している可能性が高い。シェアを見ることで、いわば世界貿易における我が国の存在感がどうなっているかを把握することができる。そこで、財の貿易に関して世界輸入に占める我が国の輸出のシェアの変化を追跡しよう。
まず、90年と2000年の比較結果からは、我が国を含め、多くの先進国でシェアが低下したことが分かる(第2-1-8図(1))。ただし、アメリカではシェアの変化が見られない。この時期には中国のシェアはそれほど大きくないが、10年間で倍増しており、先進国のシェア低下の要因となっている。2000年から2008年の変化についても、我が国ではシェアが大きく低下している(第2-1-8図(2))。一方、中国はこの間も倍増以上のテンポでシェアを伸ばしている。ロシアのシェアが浮上してきたのも特徴的である。
中国等の新興国の輸出シェアの高まりは、同時にこれらの国の輸入の急増も伴っている。その意味で、新興国の台頭の結果として先進国の輸出シェアが低下したとしても、先進国は輸出の拡大から大いにメリットを受けていることになる。しかし、我が国の場合は、他の主要先進国とは異なり、上記の2期間とも輸出シェアが大きく低下している。特に、2000年から2008年にかけては、アメリカが我が国同様に大きくシェアを低下させているが、他の多くの先進国はほとんどシェアを変化させていない。いいかえれば、我が国はアメリカ以外の主要先進国との対比では、世界需要の拡大によるメリットを十分に享受できていない可能性がある。
(我が国の財の貿易開放度はアメリカやEU域外貿易と同程度)
世界輸入に占める自国からの輸出のシェアは「世界から見た自国のグローバル化の度合い」を測るものといえる。これに対し、国内経済への影響という意味では、「自国から見たグローバル化の度合い」が重要である。これは「貿易開放度」、すなわち貿易金額のGDP比で測ることが多い。以下では、この「貿易開放度」に着目して分析を進めよう。最初に、我が国の貿易開放度で測ったグローバル化の度合いは実際に低いのかどうか、また、過去と比べてもそうなのかを確かめる。具体的には、主要国(地域)の財、サービスに関する貿易開放度を80年以降について検討する。なお、EU(27か国)については、一つの国と捉え、域外との貿易に関する貿易開放度を示している。
2009年時点における貿易開放度の水準に着目すると、財では3割近くとなっている(第2-1-9図(1))。これは、ドイツや英国、韓国と比べると低いが、アメリカやEUに近い水準である。もっとも、このことから我が国やアメリカのグローバル化は遅れていると即断することは適当でない。むしろ、貿易開放度は経済規模が大きくなるにつれ低くなる傾向が示唆される3。この点については別途詳しく検討する。一方、サービスでは我が国の開放度はアメリカより低い(第2-1-9図(2))。経済規模を勘案すれば逆の結果になってもおかしくないので、サービスに関しては我が国のグローバル化が遅れていることは間違いない。また、サービスでは輸入より輸出が少ないことが、貿易開放度の低さをもたらしている。
時系列的には、我が国の開放度は財、サービスのいずれも、90年代に入ってからリーマンショックまでは上昇が続いていた。2000年代の動きには原油価格等の高騰で輸入金額が増加した効果も含まれるが、財を中心に貿易開放度はすう勢的に高まっており、我が国では財輸出を通じたグローバル化が進んだといえよう。もっとも、他の諸国でも総じて開放度が高まっている。英国では財の開放度は横ばいであったが、サービスでは急上昇を示している。すなわち、90年代から世界的に貿易開放度が高まったのであり、我が国だけが輸出依存を高める形でグローバル化を進めたわけではないことが分かる。
- ただし、80年時点の日独の関係については、こうした説明は成り立たない。当時の両国のドルベース名目GDPは接近していたにもかかわらず(日本:約1兆ドル、西ドイツ:約0.9兆ドル)、我が国の貿易開放度は西ドイツのそれを大きく下回っていた。
(2)貿易開放度の低さの背景
我が国の貿易開放度は上昇傾向にあるが、その水準は主要国と比べるとむしろ低めであるといえる。ここでは、その背景を探るため、比較対象とする国の数を増やし、統計的な分析を行う。分析に際しては、経済規模等の要因に加え、FTAの効果を検出することも試みる。
(我が国の貿易開放度は経済規模を勘案しても低め)
これまで我が国の貿易開放度の低さについて、経済規模の大きさが一因であるとしてきた。直観的には、経済規模が大きい国は内需が大きいため、外需のウエイトが低くなりがちと考えられるが、これは定量的にいえる関係なのだろうか。また、この仮説が正しいとして、我が国の貿易開放度は経済規模との対比で見た場合に、どう評価できるだろうか。そこで、財・サービスを合わせた貿易開放度と経済規模の関係を、OECD諸国のクロスセクションデータにより確認した(第2-1-10図)。ここで、経済規模は購買力平価ベースのGDPを用いた(貿易開放度、GDPとも対数をとった)。また、両者の関係の時系列的な変化を追うため、80年、90年、2000年、2009年の4時点で分析を行った。
その結果からは、貿易開放度と経済規模の間には、強い負の相関関係が存在し、経済規模が大きいほど、貿易開放度は小さくなる関係が存在する、という仮説は妥当といえそうである。また、この関係は分析を行った4時点のいずれのときにも成り立つ、頑健なものであることが分かった。
各年の傾向線がどう変化したかを見ると、80年、90年ではほとんど位置が変わらず、2000年になると上方にシフトしている。これは、90年から2000年にかけて、EUの成立を背景に、欧州諸国の多くで貿易開放度が大幅に高まったことを反映している。その後、2000年代に入っても、伸びは鈍化したものの、貿易開放度は上昇している。一方、傾向線の傾きはこの30年間にほとんど変化していない。
我が国はこの図において、一貫して右下に位置する。すなわち、先進国の中ではGDPで測った経済規模が第2位と大きく、かつ、貿易開放度は低い。しかし、傾向線との関係に着目すると、常に下方に位置している。また、90年から2000年代にかけては傾向線からの距離が拡大している。この結果からは、我が国の貿易開放度は経済規模を勘案しても低めであるといえよう。なお、本分析を財、サービス及び輸出、輸入の貿易開放度に分けて行ったが、程度の差はあるものの、いずれにおいても同様の結果が得られた(付図2-1)。
(FTA等の締結が貿易関係の強化に寄与)
以上の分析では、まず、経済規模が大きい国は貿易開放度が低くなりがちであるという関係を指摘した。その上で、我が国の規模の大きさが開放度を低くしている面はあるが、その点を割り引いても低い水準である可能性を示した。ここでは、その背景について探る。
いうまでもなく、貿易の大きさには国の経済規模以外の要因が影響し得る。二国間の貿易に着目すると、そうした要因の一つが二国間の距離である。一般に、両国の経済規模が大きいほど貿易額の絶対値は大きくなり、距離が遠いほど小さくなることが予想されるが、この関係を組み込んだ式を、2つの物質の質量と距離が重力に及ぼす関係になぞらえて、「グラビティ(重力)モデル」と呼ぶ。実際には、経済規模と距離以外にも様々な要因が考えられる。地理的関係では、距離のほかに国境を接しているかどうか、文化的な距離である言語の共通性、さらには比較優位構造の違い、関税などの貿易政策・制度要因などを挙げることができる。こうした要因も含めたグラビティモデルを推計しよう(第2-1-11図)。
結果を見ると、予想されたように、両国のGDP(経済規模)は貿易に対してプラス、二国間の距離はマイナス、国境を接していること、言語の共通性、1人当たり実質GDPはいずれもプラスになった。政策・制度要因としては自由貿易協定を考えたが、両国がFTAを締結している場合、貿易量が増えるという関係が確認された。経済規模を考慮した上で、我が国の貿易量が少なめであるとすれば、その背景の一つに自由貿易協定への参加が遅れていることが考えられる(後述)。なお、以上の結論は、90年代、2000年代のいずれにおいても、安定的に成立している。
(我が国の貿易に占める自由貿易協定のカバー率は低水準)
このように、貿易取引の拡大に影響を及ぼす要因として自由貿易協定の締結は重要であるが、我が国はFTA等への取組が遅れ、結果として貿易開放度の引上げ、海外需要の取込みが不十分であったとの指摘がある。この点を検証するため、貿易全体に占める自由貿易協定の発効対象国との貿易の割合(以下、FTAカバー率と呼ぶ)について、我が国の状況を他の主要国と比べてみよう(第2-1-12図)。
我が国のFTAカバー率は、輸出、輸入とも2000年代初めまではゼロであったが、2002年にシンガポールとのEPAが発効したことを受け、数%程度で推移するようになった。2000年代後半からは、メキシコ、マレーシア等とのEPAが相次いで発効したことから、輸出のカバー率は緩やかに上昇し、2010年時点で15%程度となっている。なお、自由貿易協定が発効していないが、協議中の国との貿易を含めると(「潜在的FTAカバー率」)、2009年時点で輸出では3割、輸入ではオーストラリア、及びサウジアラビアを含むGCC諸国と協議中であるため、4割程度にまで高まることが分かる。
次に、他の主要国について、輸出のFTAカバー率を見てみよう(輸入も傾向はほぼ同じであるため、省略する)。アメリカ、韓国では95年当時から輸出のカバー率がそれぞれ3割、2割であり、最近ではこれがそれぞれ4割、4割強に達している。アメリカは94年に発効したNAFTA(北米自由貿易協定)の効果が大きい。韓国は、世界的貿易特恵関税制度(GSTP)をはじめとした貿易協定に参加するなど、貿易協定への参加に長期的視野をもって取り組んできており、FTAカバー率が高水準でかつ上昇傾向にあるだけでなく、潜在的FTAカバー率は8割に達している。一方、ドイツは上記定義によるFTAカバー率は低いが、統合市場であるEU域内向けを含めると、実質的なカバー率は極めて高くなる。なお、中国も我が国と同様に2000年以降にようやくFTAカバー率がプラスとなったが、2000年代半ばにASEANとのFTAが発効したこともあって急速に上昇し、現在では3割となっている。
したがって、他の主要国と比べた場合、我が国の貿易に占めるFTAカバー率は低水準で推移しており、世界経済の成長のメリットを貿易を通じて活かすという点で、貴重な機会を逸してきたことが分かる。
コラム2-2 我が国における自由貿易協定(FTA)の状況
FTA等の自由貿易協定の締結が貿易関係の強化のために重要であるが、我が国ではその取組が遅れていることを確認した。現在、我が国との間でFTA等を締結済みの国・地域は、10か国、1地域(ただし国と地域が重複)である。ここでは、我が国のFTA等の締結状況を確認した上で、現在の交渉状況についても概観しよう(コラム2-2図)。
我が国が自由貿易協定を締結したのは2002年のシンガポールとの間のものが初めてである。その後、2005年から2008年の間にメキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリピンとの間で協定が発効し、2008年にはASEANとの間で署名が行われた。その後は、2009年にスイス及びベトナムとの間で新たな協定が締結されている。これまでの我が国の協定の相手国は、東アジア、特にASEAN諸国に重点が置かれていることが分かる。
次に、現時点での交渉状況について見よう。現時点での締結交渉中の国・地域は、韓国、オーストラリアと、GCC諸国の2か国、1地域である(なお、韓国とは、交渉が中断中。インド及びペルーとの間ではそれぞれ2011年2月及び5月に署名済みであり、今後、発効の予定)。これらの国との交渉は、2007年以前から開始しているが、いまだに署名・締結に至っていない。特に韓国とは、中断を挟みながらであるが、2003年から交渉を続けている状態である。FTA等の締結には、長く粘り強い交渉が必要であることが分かる。
3 投資・人材面でのグローバル化の進展
次に、貿易以外の代表的な分野として、直接投資(対外投資、対内投資)や人材面でのグローバル化の度合いを評価してみよう。
(1)直接投資の規模
カネの流れの中でも、経営資源の移転を伴う直接投資は、受入国の生産性や投資国の空洞化懸念などに関連し、実体経済の成長との潜在的な関係が深い。また、人材の交流を誘発する効果も考えられ、幅広い分野でのグローバル化の進展につながる活動である。対外・対内直接投資の動向を概観した上で、貿易の場合と同様に、我が国におけるその規模を国際比較の観点で評価してみよう。
(対外直接投資残高、海外生産比率ともに着実に上昇)
我が国の対外直接投資は、フローのGDP比で見ると、2000年代前半には1%に満たない状況であったが、後半には2008年まで着実な上昇を示した(第2-1-13図(1))。しかし、その後、リーマンショックを受けて、2009年、2010年は低下している。フローの動きを反映して、ストック(残高)のGDP比も、2000年代前半には横ばい圏内で推移してきたが、後半になって上昇に転じ、1割を超える水準となっている。対外直接投資というと海外への生産シフトというイメージがあるが、実際にはフローの金額では金融など非製造業が多いのが通例である。特に、2008年以降は非製造業のウエイトの高さが顕著になっている。
もちろん、製造業の対外直接投資フローもネットでプラスが続いており、年々、ストックも積み上がっている。その結果が製造業の海外生産シフトであり、具体的には海外生産比率の上昇となって現れる。同比率は、長期にわたって上昇傾向で推移してきたが、ここ数年は伸び悩んでおり、上場企業を対象とした内閣府「企業行動に関するアンケート調査」で約17%(2010年度)、海外進出企業4を対象とした国際協力銀行「海外直接投資アンケート調査」では約31%(2009年度)となっている(第2-1-13図(2))。なお、前者のデータで阪神・淡路大震災直後の状況を振り返ると、95年度の海外生産比率は伸びが鈍化したが、その翌年には過去のトレンド上に戻っており、震災が海外シフトのすう勢に影響を及ぼした形跡は見られない。
一方、対外直接投資と比べると対内直接投資は低調で、ネットのフローのGDP比ではマイナス(資本流出)となる場合もあった。ただし、2007年、2008年には先進国からの流入が増加して幾分高まっている。また、ストックのGDP比は少しずつ上昇し、2008年には4%程度となっている。
- 製造業で海外現地法人を3社(うち生産拠点を1社以上含む)以上有する企業。
(経済規模を勘案しても我が国の対内直接投資残高は低め)
それでは、直接投資を通じたグローバル化の度合いはどう評価されるだろうか。ここでは、2009年末における対外・対内直接投資の残高に着目し、GDP比をとることで「投資開放度」を計測する。貿易開放度の場合と同様に、直接投資残高も経済規模の影響を受けると考えられる。そこで、横軸に購買力平価ベースのGDP、縦軸に直接投資残高のGDP比(いずれも対数)をとってプロットした(第2-1-14図(1)(2))。
予想されたように、貿易開放度の場合と同様に、おおむね右下がりの関係が観察された。すなわち、経済規模が大きくなるほど、投資開放度は低下する傾向にある。ただし、対外投資では対内投資と比べると負の相関はそれほど明瞭ではない。また、対外投資、対内投資とも、例外はあるものの傾向線の上には(OECDの中での)高所得国、下には低所得国が比較的多い。中東欧諸国などOECDの中での低所得国は、自国内の生産コストが比較的低廉なため、海外への生産シフトの必要性は低い一方、自国に大量の投資を惹きつけるほどビジネス環境の魅力が高いわけでもなく、双方向で投資が少なめとなっている可能性がある。
それでは、我が国の位置はどこにあるのだろうか。対外投資、対内投資とも傾向線より下にあるが、前者では傾向線に近く、後者では傾向線から大幅に離れている。対外投資については、全体的なばらつきが大きいこともあり、おおむね経済規模に見合った投資残高であると見ることができる。これに対し、対内投資では経済規模を勘案しても明らかに残高が小さいと結論できる。
直接投資についても、グラビティモデルを用いて、二国間の投資関係に影響を及ぼす要因の統計的な確認ができる(第2-1-14図(3))。ここでは、対内直接投資の側から見ているが、貿易の場合と同様に、地理的、文化的要因に加え、所得要因(1人当たりGDP)が影響を及ぼしている。また、FTAの締結が投資促進効果を持つ結果となっている。その背景として、FTAには投資に関する内国民待遇等の自由化措置が組み込まれる場合があること、FTAによる貿易や人の移動の自由化が間接的に投資を促進する可能性があることなどが考えられる。
(2)国際的な人的交流
次に、ヒトの流れについてのグローバル化の度合いを考えよう。人的交流には様々なレベルがあるが、訪日外国人(いわゆる旅行者)、外国人労働者(その中でも特に高度人材が重要)、留学生に着目する。ここでも、貿易開放度などと同様の考え方で、人口規模と対比しつつ我が国の位置付けを把握する。ただし、以下の分析は過去のすう勢に関して国際比較を行うものであり、今回の震災、特に原発事故を受けて我が国への旅行者数が大幅に減少していることには注意が必要である(第1章第1節参照)。
(訪日外国人数は他の先進国とそん色がない水準)
我が国は、インバウンド観光(外国人による訪日旅行)の拡大に力を入れており、2000年代には訪日外国人数は大幅に増加した。リーマンショック後は一時的な落ち込みもあったが、2010年には持ち直し、年間約860万人に達した。もっとも、これは日本人の海外旅行者数と比べると半分程度であり、依然として流出超過が続いている状況にある。また、OECD諸国の中では絶対数ではほぼ中位に属するが、人口比では最も低い水準となっている。
しかしながら、貿易がGDPに比例しては増えないのと同様に、旅行者数も人口に比例しては増えない。したがって、人口規模の大きい国では旅行者数の人口比は低めになる傾向がある(第2-1-15図(1))。その説明として、人口の多い国は国内旅行需要がそれなりにあるため、外国人旅行者の誘致が遅れる可能性が指摘できる。我が国の位置は傾向線よりやや下にあるが、著しくかい離しているわけではなく、近年の誘致努力の成果が一定程度表れていると評価できよう。
旅行者数について、2000年代のデータを基にグラビティモデルを推計してその決定要因を探ると、貿易の場合と同様に、国境の共有や距離といった地理的な要因、言語の共有に代表される文化的な要因は期待された方向に寄与している(第2-1-15図(2))。また、人口規模の大きい国では、比例するほどではないが、送り出す旅行者数も多くなる。一方、貿易と違って送出国、受入国のGDPの規模は影響が検出できなかった。その代わり、受入国の一人当たりGDPが高いほど旅行者が多いという関係が得られた。一人当たりGDPは、旅行者の誘致に重要なインフラの整備状況などを代理していると考えられる。また、自由貿易協定の締結も、ビジネス機会の拡大等を通じて旅行者の増加に寄与していると推測される。
(外国人労働者数の割合は低いが、高度人材の受入は着実に進展)
旅行者と並んで、人的交流で注目されることが多いのは「移民」である。特に我が国では人口減少時代を迎え、「移民」(あるいは高度人材の「移民」)の拡大による(質の高い)労働力の確保が必要であるとの主張がしばしばなされる。しかしながら、「移民」の意味するところは論者によってまちまちであり、帰化した者や定住した者、ビジネスで数年間滞在するも者などが含まれ得る。
ここでは、まず外国人労働力の確保に着目し、独立行政法人労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2011」を用い、労働力人口総数に対する外国人労働力人口の割合を国際比較してみよう(第2-1-16図(1))。まず、アメリカは1割を超える高い水準であり、同国の移民の国というイメージとも合致する結果であった。また、ドイツ、フランス、英国も5%を超えているが、これはEU内では労働力の移動が自由化されていることが要因として考えられる。一方、我が国は1%弱と、外国人労働者数の割合は韓国と並び低水準である。なお、傾向については、韓国の外国人労働者数割合は急激に高まっているのに対し、我が国の伸びは緩やかなものにとどまっている。この結果からは、我が国においては外国人労働力の活用が進んでいないと推察される。
しかし、外国人労働者数割合は低くとも、質の高い高度人材に絞って外国人労働力を活用している可能性もある。そこで、法務省「出入国管理統計」を用い、我が国に在留する外国人数を在留目的別に見ることで確認する(第2-1-16図(2))。水準としては、留学、就学、研修、家族滞在等が外国人登録者の大半を占めていることが分かる。一方、高度人材のカテゴリーとされる「人文知識、国際業務」、「技術」については水準こそ低いものの、割合は2000年時点で10.7%であったものが2009年には15.9%まで上昇しており、高度人材の受入は着実に進展してきたと評価できるだろう。
(言語面でのハンディを考慮すると留学生受入数は必ずしも少なくない)
ヒトの流れの中でも、知識経済化を競う今日においてグローバルな高度人材の確保が課題となっている。我が国でも、高度に専門的、技術的な分野の外国人の就労を積極的に促進することとしている。ここでは、高度人材の予備軍ともいうべき留学生について、現状を評価してみよう。
まず、留学生全般については、我が国では「留学生10万人」を2003年度に達成し、現在は「30万人計画」の下で受入の促進に努めている。2010年度においては中国人を中心に14万人程度の留学生が我が国で学んでいる。しかしながら、貿易、投資、海外旅行者数など他の多くの項目と同様に、人口規模との対比では我が国への留学生受入数は少なめである。留学生の受入数についてグラビティモデルを推計すると、旅行者や登録者の場合と同様に、一人当たりGDPなどが影響を及ぼしていることが分かる(第2-1-17図(1))。一人当たりGDPは、教育水準や生活環境など留学先としての魅力度を集約的に示す指標として用いている。また、旅行者等との違いとして、言語の共通性の効果が大きいことが挙げられる。
一方、博士課程に限定した場合、我が国への留学生の入学者総数は2,800人程度であり、博士課程入学者の約17%を占めている。留学生一般と同様に、博士課程への留学者も受入国の所得水準の影響を受けると予想されるが、実際に博士課程に占める外国人留学生の割合の分布を見ると、一人当たりGDP(購買力平価ベース)が高いほど博士課程に占める留学生が多いという傾向がある(第2-1-17図(2))。ただし、英語圏諸国ではアメリカを除いて傾向線より上にあるなど、文化的な要因も重要であることが推察される。我が国は傾向線よりやや下にあり、言語面でのハンディを勘案するとそれほど低い水準ではないとの評価も可能である。