平成23年度年次経済財政報告公表にあたって

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日本経済は東日本大震災によって大きな打撃を受けましたが、その後、反発力を発揮して上向きの動きが見られるようになっています。問題は、この先です。震災からの復旧・復興のプロセスを、いかに日本経済の力強い、持続的な成長につなげることができるかが問われています。そのためには、企業や人材がイノベーションを生み出す機会と能力、すなわち、日本経済の本質的な力を高めていかなければなりません。こうした観点から、本報告書では日本経済の現状と課題について分析を行いました。

まず、当面の景気の先行きでは、サプライチェーンの立て直しが進むなかで、ストック再建を含め民間の潜在需要が顕在化することがポイントです。これには、所得面からの下押しが限定的なものにとどまる一方、企業や家計が将来の成長への展望を持てることが前提になります。その点からも、震災を契機に、イノベーションとの関係が深い、人的資本など無形資産への投資が増えることが重要と考えられます。また、財政・社会保障の持続可能性の強化は、中長期的な成長を支える基盤になるはずです。

人口減少が続く我が国にとって、そのハンディを克服して成長を続けるための方策の一つは、世界経済の活力を取り込むことです。しかし、我が国は、自由貿易協定への参加の出遅れなどもあって、他の先進国との対比ではグローバル化が十分とはいえません。貿易や投資など多面的な分野で、障壁を低くしていく必要があります。同時に、グローバルな知識経済化の流れを踏まえ、無形資産投資やその適切なマネジメントを、研究開発の国際連携や海外市場ニーズの把握などの形で進めていくことが課題です。

もう一つは、一人ひとりの能力を高めることです。我が国では起業家が少なく、また、企業内部でも突出した人材が育ちにくいとされます。一方で、世界経済の活力を取り込むためにも、外国人を含むグローバル人材へのニーズが高まっています。こうした状況の下では、ニーズに即応した適材適所の人材配置が肝要であり、例えば、M&Aの活性化などが対応として考えられます。さらに、新卒一括採用の見直し等により雇用の在り方が柔軟化すれば、企業と人材のマッチングの改善に加え、起業の拡大や大学教育の充実といった効果も期待されます。

日本経済の本質的な力を高めるためには、真正面から世界に臨み、人材を活かしていく、民間を主体とした地道な努力が必要です。政府は、民間の力が存分に発揮されるよう、様々な障壁を取り除くとともに、安定的なマクロ経済環境の維持を図ることが役割であると考えます。本報告書が、こうした取組に向けての幅広い論議の素材となれば幸いです

平成23年7月

経済財政政策担当大臣

与謝野馨

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