第1章 長期化する景気回復とその先行き

第1章のポイント

第1節●長期化する景気回復と景気循環の仕組み

 日本経済は2006年後半から家計部門に弱さがみられるようになってきている。企業部門では2007年に入り一部に弱さがみられるものの、売上高の増加に伴って収益の改善が続くなど基調として好調さが持続している。

 90年代以降景気回復局面における輸出の寄与度が相対的に増加しており、需要項目間の波及関係をみても、輸出の増加が国内民間需要や設備投資の増加を誘発する姿に変わりつつあることを示唆する結果が得られている。

第2節●ゼロ金利解除後、安定的に推移してきた金融市場

 2006年3「月の量的緩和解除以降、二度の利上げが実施され、短期金利には上昇がみられたものの、長期金利(新発10年国債流通利回り)は、利上げ後も安定した推移を示してきた。

 企業金融は総じて緩和的な状態が継続している。今後、景気回復の持続性との関連では、貸出市場の動向とともに為替市場や株式市場の価格変動が経済活動に及ぼす影響などにも注視していく必要がある。

第3節●緩やかな物価上昇への動き

 物価を取り巻く環境をみると、現時点では費用面からの物価上昇圧力は緩やかなものにとどまっている。サービス価格の性質を踏まえると、景気が着実に回復する中で、経済全体の所得増加に結び付けば、需要が拡大する形でサービス物価が安定的に上昇する可能性が考えられる。

 都心部で大幅な上昇がみられる地価については、資産の適正な期待成長率に裏付けられたものか見極めていくとともに、経済全体の需給ギャップや信用の状況などのマクロ的なリスク状況の把握が重要である。

第4節●持続する財政健全化

 財政政策については、政府は財政健全化に向けた取組を強力に進めてきた。2003年度以降の財政収支の改善幅の大きな部分は公共投資の削減などによる構造的基礎的財政収支の改善によって説明される。

第5節●まとめ

(略)

第1章 長期化する景気回復とその先行き

2002年初めから始まった今回の景気回復は、2007年に入っても持続しているものとみられる1。今回の景気回復は単純な景気循環現象にとどまらず、特に民間企業部門を中心として厳しい構造調整が行われる下でのものであった点に特徴がある。

経済構造面での変化をみると、企業はバブル崩壊以降、設備投資を抑える中で有利子負債の返済に努めるとともに、1990年代末頃からは雇用面でもリストラを進めることで体力の回復を図ってきた。一方、政府は、財政健全化を進めるとともに不良債権処理を始めとしたバブル期における「負の遺産」の清算に取り組むことなどにより、民間部門に新たな成長基盤を提供するための構造改革の取組を加速・深化してきた。こうしたバブル崩壊後に長期間にわたって続いた日本経済の低迷から抜け出すために進められた民間部門の厳しい合理化努力と政府による構造改革の取組が相互に結び付いた結果も現れてきている。企業部門における雇用・設備・債務の三つの過剰はほぼ解消し、企業の収益力が高まるとともに、主要金融機関の不良債権問題が正常化するなど、経済の重石となっていた構造的な問題も解消に向かった。

一方、今回の景気回復では、期間は長期化したものの人々が景気の長期回復を実感できていないといった指摘もある。さらに、2006年後半から所得や家計消費の伸びに鈍化がみられ、企業部門の好調さの家計部門への波及に足踏みがみられる。企業部門においても一部に弱い動きがみられるなど、景気回復が今後も持続するためには克服すべき課題も存在する。

以下では、まず第1節において、最近の日本経済の動向を概観するとともに、今回の景気回復の持続性を点検する観点から、景気循環の形と波及の仕組みの変化について分析を行った上で、景気の先行きリスクについて言及する。第2節ではゼロ金利解除後の金融市場の動きを回顧し、続く第3節では改善ペースが依然として緩やかなものにとどまっている物価の動向、一方で都市圏を中心に持ち直しが鮮明となっている地価の状況を検討する。第4節では財政健全化の足取りを確認する。第5節では本章全体の議論を簡単に整理する。