平成19年度年次経済財政報告公表にあたって
日本経済は、バブル崩壊後の長い低迷から脱却し、2002年初以降、息の長い景気回復が続いています。バブル崩壊後、企業部門は雇用・設備・債務における3つの過剰の調整に、銀行は巨額の不良債権処理に、そして中小企業は資金繰りなどの対応に追われ、その過程で、失業の増加や雇用不安といった問題も大きくなりました。この長い低迷のトンネルを抜け出すまでには10年を超える長い時間が費やされましたが、国民の多大な努力によって、主要行の不良債権問題は正常化し、企業が抱える3つの過剰もほぼ解消するなど、日本経済は新しい成長に向けたステージに入りつつあります。
今回の白書では、まず、2002年から始まった景気回復を振り返り、2006年半ば頃から企業部門から家計部門への波及が緩やかになった状況を含めて、景気回復の波及メカニズムの変化を検証しています。
次に、我が国の生産性に焦点を当てました。人口減少というこれまで経験したことのない状況の中で、経済成長を持続させていくことが今後の日本経済の最も重要な課題です。そのためには、生産性の向上がカギとなります。生産性の向上とは、単に労働を増やし、生産を高めることではなく、技術革新や効率化によって働く人一人当たりが生み出す付加価値を増加させることです。今回の白書においては、マクロ的な労働生産性の分析に加え、その構成要素となる個別企業の生産性という観点から、多様化している日本の企業行動についても分析しました。グローバル化の進展、ITなどの技術革新の浸透など、企業の経営環境は大きく変化していますが、その中で日本企業が経営のガバナンスまで含めて生産性向上に取り組み始めた姿が示されています。これらの環境変化に対応しながら、設備や人的資本への投資やイノベーションに向けた取組を通じて生産性の向上を実現していくことが重要です。
最後に、雇用形態の多様化に代表されるような労働市場の変化と家計部門への影響について分析しています。景気回復が続く中で、正規雇用者は増加していますが、それ以外の雇用形態の労働者も増えており、全雇用者のおよそ3分の1を占めるに至っています。こうした雇用形態の多様化は、我が国のみならず、諸外国でもみられており、能力開発などの人的資本形成、雇用保護規制、格差問題への対応など、政策面での取組が進められているところです。今回の白書では、こういった取組の検討に資するような分析を提供しています。
生産性向上への挑戦を通じて、日本の優れた人材やイノベーションの力が存分に発揮されれば、人口減少下で成長を持続するという難題をきっと克服できると信じています。
本白書により、日本の経済と財政に対する認識が深まり、日本経済が抱える課題の解決に貢献できれば幸いであります。
平成19年8月
経済財政政策担当大臣