第2章 企業行動の変化と企業からみた構造改革の評価

第2章のポイント

第1節■バブル後の調整を終えて正常化する企業行動

 企業部門は、厳しいリストラを経てバブル期を上回る収益をあげている。ただし、企業行動はかつてと比べて慎重であり、設備投資行動等においては、収益性や資本効率をより重視する傾向がみられる。

 こうした企業行動の慎重化はあるが、雇用・設備・債務の3つの過剰の解消により、設備投資や配当は着実に増加している。企業レベルでみた場合、過去に行ったリストラ措置が企業業績の回復に目に見える形で貢献している。

第2節■日本企業の特徴とその変化

 日本企業は、国際的には技術集約度の高い産業において比較優位をもっているが、その背景には、長期的な雇用慣行の下で、優れた人的資本の蓄積が行われてきたことが重要な役割を果たしている。

 アンケート調査によると、こうした日本的経営の特徴は、現在の企業にも根強くみられている。また、従業員を重視する企業の業績は相対的に良好である。他方、メインバンクへの依存、長期的な企業間取引慣行等には変化もみられている。

第3節■構造改革と企業の経営環境

 1990年代後半以降、法制度・会計制度・税制など企業を取り巻く諸制度は大きく改正された。アンケート調査によると、多くの企業は改革を評価している。

 他方で、多くの企業は、行政手続き・法人課税・規制緩和・官業の民間開放などさらなる改革を期待している。

第4節■日本の金融機関の現状と課題

 金融システム改革による銀行の不良債権処理が着実に進展している。但し、日本的経営のうち、メインバンクとしての企業との関係が変化しつつある中、従来の貸出中心による収益の拡大は厳しくなりつつある。

 今後は、家計が求める金融サービスのニーズに応え、企業が抱える様々な問題を解決に導くことを追求しつつ、各金融機関の工夫により付加価値創出を図り、収益力の向上により経営基盤を強化していくことが求められる。

第5節■まとめ

(略)

第2章 企業行動の変化と企業からみた構造改革の評価

日本経済は、2002年初以来、4年以上にわたり回復を続けている。この景気回復の長期化の背景には、企業部門が雇用・設備・債務の3つの過剰を解消し、体質強化に成功したことがあり、その結果、企業の収益力はかつてと比べてもめざましく改善している。それは、単に一過性のリストラの成果というだけでなく、効率性を重視した企業行動の構造的な変化をも反映したものと考えられる。企業を取り巻く環境は、グローバル化の進展や法制度等も含めて大きく変わっており、これに対応して「日本的経営」といわれる企業の行動様式に変化もみられている。具体的には、企業ガバナンス面においては、株の持合い解消や企業の銀行離れもあって、企業統治における株主の役割が大きく高まるなどの変化がみられる。財務面についても、企業の会計制度の改正もあって、これまでの規模の拡大を目指した経営から、キャッシュフロー重視のスリムな経営へという流れがみられている。雇用面でも、従業員の平均年齢が高齢化する中で、これまでの年功賃金制が見直され、成果主義的な賃金が多くの企業で採用されている。

本章では、第1節において、企業がどのようにして3つの過剰を解消したのか、そしてバブル後の調整を終えて企業行動は正常化しつつあるのかについて分析する。第2節では、国際的にみた日本の企業の特徴はどのようなものか、また、「日本的経営」といわれる多くの日本企業に共通してみられる特徴が企業のパフォーマンスにどのような影響を与えているかを独自のアンケート調査を用いて検証する。第3節では、これまで実施された企業に関する法制度、会計制度、税制、企業年金等の制度改正について、企業側ではどのような評価を行っているか、また、制度改正が企業行動にどのような影響を与えたかをアンケート調査に基づいて分析する。最後に、第4節では、不良債権処理を終えた金融部門でどのような変化が生じ、また、今後どのような方向に向かおうとしているかを分析する。第5節では、本章全体の分析結果を簡単に整理する。