第2章 金融と企業の再構築

バブル崩壊後、企業の抱える過剰債務が顕在化し、経営困難に陥る企業が増加した。こうした状況において、本来、金融機関は、企業を綿密にモニタリングし、貸出金利を適切に設定した上で資金供給を行うことが期待される。特に、証券市場から資金を調達できる大企業とは異なり、中小企業の場合には、代替的な資金調達手段がないだけに、金融機関の役割は重要である。

しかし、バブル崩壊以降、金融機関の企業向け貸出は減少している。特に、近年は中小企業向け貸出の減少が相対的に大きい。これは、不良債権によって多くの金融機関のリスク許容力が低下する一方、過剰債務を抱えた企業の信用リスクが高まったため、金融機関が貸出を抑制したこと、あるいは企業の資金需要の低迷等により負債の返済を優先したことによるものである。

したがって、我が国経済の活性化にとって、不良債権問題と過剰債務の一体的解決は不可欠である。そのために、金融機関は、不良債権の処理を進めるとともに、企業単位の貸出から事業の収益性に着目した融資慣行(例えば、プロジェクト・ファイナンス)への転換や貸出債権の流動化を促進すること等によって金融の再構築が図られなくてはならない。

他方、過剰債務を抱える企業については、整備されつつある枠組みを活用して、将来性のある事業を切り分け、早期に事業再生を行う必要がある。さらに、事業環境が急速かつ継続的に変化するなかで、企業経営者には、不断の経営資源の見直しや組替えを行い、収益性を高める努力が求められている。

こうした問題意識に基づき、本章では、金融と企業の再構築というテーマの下、その現状と課題について論じる。第1節では、金融機関と企業が抱える問題が企業金融に及ぼしている影響について、企業の設備投資や中小企業金融を例に明らかにする。第2節では、不良債権処理の現状を示すとともに、不良債権処理や金融機能の正常化を促すインセンティブ構造の重要性について述べる。第3節では、過剰債務企業の事業再生について私的整理の現状を検証するとともに、収益性向上に向けた企業努力についてM&A(合併・買収等)を取り上げて分析する。このように金融と企業の再構築を進める過程では、雇用面や賃金面などで調整コストが生じる可能性がある。第4節では、こうした調整コストの現状と、これにどう対応すべきかについて検討する。