はじめに

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アジア通貨・金融危機から2年が経過し、世界経済は総じて緩やかながら回復に向かっている。アメリカ経済は、株高等がもたらす先行き不透明感は払拭されていないものの、国際金融市場の混乱をも乗り越え、その景気拡大のペースは大方の予想を上回っている。ヨーロッパでは、99年1月、EU11か国において単一通貨「ユーロ」が導入され、アメリカに比肩する一大通貨圏が誕生した。西ヨーロッパ経済は、99年春以降、改善の動きが強まっている。東アジア経済にも回復の動きが広がってきている。

翻って90年代の世界経済をみると、改めてアメリカ経済の好調さに着目せざるを得ない。アメリカ経済は、91年3月に景気回復を始め、99年10月に至るまで8年7か月もの長期にわたる安定的な景気拡大を続けている。これまでも、アメリカ経済の長期拡大の要因は何か、生産性は高まっているのか、さらにアメリカ経済に懸念材料はないのかといった問題に関して種々の議論がなされてきた。90年代最後の年にあたり、こうした議論を整理することは、今後の世界経済を展望する上でも有益であろう。

90年代の世界経済において、国・地域を越えて共通してみられた現象は、物価の安定であった。ほとんどの先進諸国で70年代には二桁に達した物価上昇率は、今日では数パーセントまで低下している。先進国以上に高い物価上昇率に悩まされた途上国や市場経済移行国でも、近年総じて物価上昇率は大幅に低下している。こうしたなかで、世界経済の様相は80年代あるいはそれ以前と比べ大きく変わってきており、またマクロ経済政策の課題も変化してきている。

本年度の世界経済白書では、このような問題意識に沿って、諸外国の事例の紹介と分析を行っている。第1章で世界経済情勢の年間レビューを行い、地域ごとに主要なトピックをとり上げる。第2章では、アメリカ経済の長期拡大の要因と課題について分析する。第3章では、物価安定下における世界経済の特徴やマクロ経済の課題などについて検討する。

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